第1章 第10話
俺の胃が痛くなっている事など勿論知らない先生が教室に入ってくる。つり目で赤渕の眼鏡を掛けている、いかにも厳しそうな女教師である。
「私が実行委員担当、1年A組担任、吉田です。どうぞよろしく」
うっわ〜イメージ通りだ。イメージ通りすぎてもっと捻れやって感じだわ〜。嫌だなぁこういう先生苦手なんだよなぁ。
「では、自己紹介をA組の生徒からお願いします」
そう吉田先生が言うと、さっきのくそ真面目が席を立つ。
「1年A組実行委員、杉田泰蔵です。よろしくお願いします」
そうくそ真面目いや―杉田が言うと次はギャルっぽい女子が座ったまま自己紹介をする。
「A組の〜中村誠子っていいま〜す♪まぁよろしくみたいな?」
そんな中村に杉田が
「座ったままだとかふざけているのですか!きちんと立って挨拶しなさい!」
と声を荒らげた。
「なんかアタシにめ〜れ〜してくんだけど、ウケる」
コイツうっざ!だからギャルってのは嫌いなんだ。てか自己紹介次に進めるか?コイツらの喧嘩で終わらねぇよな!?
「僕はなにか間違ったことを言いましたか?立って自己紹介をするのは最低限の礼儀でしょう!」
「だっる〜。親父でもこんなにだるくねぇよ。真面目だけが取り柄だからって、それだけに縋るのはやめろよ〜」
コイツらヒートアップしてるし……やべぇな。てか先生止めろよ!そんな俺の思いが届いたのか先生が
「2人とも止めなさい!次へ行けないでしょう!」
と怒鳴った。
「何を言っているか分かりませんね!あなたが立って挨拶するだけの話に僕の取り柄の話は関係ないでしょう!」
「どう挨拶しようがアタシの自由じゃん?なんでアタシがアンタに縛られなきゃなんないの」
しかし止まらない2人。あーもう帰りたい。胃が痛い。キリキリしてやがる。明日から胃腸薬持ってこよ。俺が現実逃避していると目が死んでいる奴が席を立つ。
「進みそうにないっすね。俺はE組の柴田直樹よろしく。じゃあ帰りますわ」
は?コイツ何言ってんだ。俺は理解出来ず口をポカーンと開けたまま止まってしまった。柴田は教室のドアを開けるとそのまま帰って行った。カオスだ。今の状況を説明しよう。まず喧嘩中の杉田と中村。それを止めるのに必死に声を上げる吉田先生。それを見て今日は進まないと判断し帰ってしまった柴田。これやべぇな。だけど進めないと林間学校実行委員は失敗に終わる。くっそ!しょがねぇな!俺は喧嘩している二人の間に入る。
「おーい、お二人さん?喧嘩は後でして貰えねぇかな?このままじゃ実行委員が進まねぇからさ。だから終わってからやってくんねかな?な?」
「はっ!勘違いされちゃ困るね。アタシは喧嘩なんてしたくねぇさ。このくそ真面目野郎が絡んでくっから終わんねぇんだ」
「僕だって早く進めたいですよ!だけどこの人がきちんと挨拶しないから!」
こーゆうときは絡んでる方を大人しくさせるのがいいな。コイツを納得させるには、まず今なにが1番重要かを分かって貰う必要がある。
「おい、杉田」
「はい?」
「お前はコイツみたいな礼儀のないクズと林間学校の成功どっちが大切なんだ?」
「そんなの林間学校の成功に決まってるじゃないですか!」
よし!そう言うと思ったぜ。
「じゃあ今は自己紹介を進めることが大切だな。じゃないと林間学校の話に進めない」
「それには同感ですが、このような人がいるようでは林間学校はいいものにはなりません!」
「そいつの事は後からでも何とかなるだろ?今は小学生でも出来るようなことに時間をくってる場合じゃない。お前も分かるだろ?だから今は我慢してくれ」
俺がそう言うと杉田は
「…分かりました」
と一言だけいってバツが悪そうに席に座った。杉田はなんとかなったな。後は―
「黙って聞いてりゃ、随分アタシを悪く言ってたみたいだけどアンタも喧嘩売っての?」
中村は俺を睨みながら、そう発言する。怖ぇぇ!くっ怯むな、俺!
「待て落ち着け話をしよう。俺はお前に喧嘩を売っているわけじゃない」
そう言うと俺は中村の耳に顔を近づけて、
「杉田を納得させる為だ。だからすまん」
と小さい声でそう言った。ここでコイツの聞きが悪いと杉田にバラされて俺を巻き込んだ喧嘩が始まるんだが、それだけは回避したい。
「耳元とかキッモ。まぁでも分かったよアンタのキモさに免じて許してあげる」
結果俺が傷つくことになったが、喧嘩の再発は阻止できた。あぁ心が痛い。女子中高生からのキモいは通常の口撃とは威力が何倍も違う。例えるならRPGの最初の原っぱにいるモンスターの攻撃力と裏ボスの攻撃力くらい差がある。裏ボスってアホみたいに強いよな。
「君、ありがとう。ついでに自己紹介もして貰えるかしら」
そう先生に言われ、俺は席を立った。
「はい。俺は1年C組の葛島龍斗です。よろしく」
「葛島くん。期待しているわよ」
自分に喧嘩を止められなかったからだろうか。吉田先生は尊敬の眼差しを俺に向けた。いや、ほんと勘弁してください。俺はそんな大層な人間じゃないんです。これ俺の化けの皮が剥がれたとき、すごく失望されるやつだは。化けの皮なんて被った覚えがないんだが。勝手に被らされたんだが。胃が痛い。俺今日胃が痛くなりすぎだろ!ストレスエグいな!
「俺様は1年B組対馬虎白だ。まぁよろしく頼むわ」
そうピンク髪の不良が自己紹介をした。ここからはスムーズに自己紹介が進んだ。
「1年B組♪児島しとろで〜っす!よろしくねぇ〜♪」
もう1人のギャル。
「1年C組、如月紬です。よっ、よろしくお願いします」
少し緊張している如月。
可愛い♡
「1年D組八島元気ですっ!八島が元気なわけじゃねぇーぞ?元気は名前だぁ!ははははは」
うざい、日に焼けたそこそこのイケメン。
「1年D組、羽岡麗奈です。よろしく」
それに絡まれていた目つきの鋭い女子。
「1年E組………です」
ショートカットの女子。って声小さすぎて名前聞こえなかったぞ。誰も追求しないので、俺もスルーしておく。
「1年F組大岡守理だ。お嬢様に触れる奴は殺す」
そう言いギロリと周りを睨む。怖ぇぇ!
「あらあら、そんなケチなことを言ってはダメよ?触れるくらいは許してあげなきゃ。手ぐらいならいいわよ?女子はね♪」
そんなに変わってねぇよ!結局殺されちゃうのかよ。
「申し遅れました。私、F組の鈴島冬華と申します」
そう言い、鈴島は見たこともないような綺麗なお辞儀をした。なんとか自己紹介は終わった。一時はどうなるかと思ったがなんとかなって良かった。喧嘩のせいもあってか時計は5時を指していた。自己紹介に1時間も使うとか小学生以下かよ。
「今日はこれで終わりにしましょうか。じゃあ皆さん明日からよろしくお願いします。では、さようなら」
こうして第1回実行委員会はお開きとなった。
読んでいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!