第三話~皇居への侵入~
飛行船から飛び出した四人は、パラシュートで皇居へ向かう。それに気付いた警官が真っ先に言葉を発した。
「上を、上を見てください。パラシュートです!人です!人が空から降ってきます。」
「なんだと?」
「あの方向だと、おそらく皇居へ進入するようです。どうします?…柏木さん!」
そう。先ほどキラに散々言われていた男こそ、柏木であった。これは柏木が指揮官として動く、初めての事件であった。
「ハッハッハー!大丈夫だよ。心配無用!皇居というのは、天皇が眠る住まい。そうセキュリティは甘くないのだよ。聞くところによると、皇居の頭上や半径100メートル四方には、完璧なレーザー装置が設置されているようだよ。」
そう言ったのは、つかの間。キラ達を見張っていた一人の警官が大声で叫んだ。
「大変です!やつらが、やつらが屋根の上に!セキュリティやレーザー装置は全くきいていません!」
「なっ、なんだと!貸せ!」
柏木は警官が持っていた双眼鏡を奪い取り、屋根の上に視点を合わせた。
「まさかっ!どうやって、あそこへ。」
「柏木さん!今確認をとったところ、何者かによって全てのセキュリティが解除されていたそうです。」
「くそっ!皇居のセキュリティは、並大抵の者が解除できるものではないぞ。どんなヤツなんだ。」
「柏木さん!どうするんですか?」
「よしっ!今すぐ応援を呼べ!今いるメンバーは班ごとにわかれ、四つの門から突入だ!まだ、やつらの目的が分からない。今は天皇の身の安全が最優先だ!もしやつらに出くわしたら、その場で殺しても構わない!どんな手を使っても、天皇には接触させるな!」
全員が一斉に動き出す。
「柏木さん!やつらが皇居へ侵入しました!」
「わかった。お前ら!警官の意地というものを見せてやれ!行くぞ!」
柏木ら警官は皇居へ突入した。
その頃、皇居への進入に成功した四人はというと。
「はあ。あのパラシュート居心地悪いな。屋根になんて足延ばしてギリギリで着いたんだから、俺達を褒めてしてほしいぜ。」
ビビッ!!
イヤホンから何かがつながった音がした。
『テスト、テスト。聞こえる?』
「アーシャか?聞こえるぜ!」
「私も聞こえるわ。」
「僕もOKです。」
「俺もだ!」
キラ、ネルシャ、ロー、ルルドの順に次々と応答した。
『そう。上手くつながったみたいね。それより、そっちでグチグチ文句言ってんじゃないわよ!こっちの声がつながらなかっただけで、あんた達の声ははっきり聞こえてるんですからね!パラシュートの事は心配いらないって、あれほど言ったでしょ!あたしが風向きから風速まで調べあげて、調整に調整を重ねたんだから!屋根まではぶっつけ本番なんだから、少しぐらい配慮してよね!着いただけいいじゃない!』
「わーかったよ!早く指示を頼む。そろそろ警官達が追ってきちまうからよ!」
『そうみたいね。センサーが反応してるもの。』
「センサーだって?」
「センサーなんて、どうやってつけたの。」
アーシャは当然のように説明した。
『何にもつけてないわよ。ただアイシスにお願いしてちょっとね。警察署へスパイに行ってもらったでしょ。その時に色々記録してもらって。少し解析したら、すぐ全員の位置が分かるようになったわ。』
アーシャは得意げに言った。すると、後ろから声が聞こえた。
「やつらがいたぞ!四人いる。まとめて始末するぞ!」
柏木の声だ。四人は警官達に見つかってしまったらしい。
「ちっ!早いお出ましだな。」
『さっさとまいて、逃げときな。あと、四人は別れて探すんだからね!』
「わかってますよ。アーシャ。」
ローが答え、ポケットから何かを出した。
「仕方ない。これを使うとしますか。それっ!」
ドンッ!!
「わあ!なっ、なんだ!!」
警官達の前で煙玉が爆発した。
「これは科学班のミーナが特注に作ってくれたものなんで、あまり使いたくはなかったんですがね。緊急時ですからね。」
「なんだよ。そんな良いもの持ってんなら、俺にもくれよ!」
「残念ながら二つしかなかったので、残り一個なんですよ。」
と、キラとローが話ていると、アーシャが割り込むようにして、
『あんた達今はそんなことより、逃げなさいよ!話すのは走りながら!』
「行くわよ。三人とも!」
四人は煙りが、まっている間に走り出した。
すると、目の前の道が四つに分かれている。
「アーシャ、四つに分かれてるわ。どうすればいい?」
ネルシャがどこへ行こうかと迷いながら急いで聞くと、
『うん。一人で一つの道を行った方が有効ね。』
「分かった!じゃあ皆、あとでな!」
四人はそれぞれの道へと走っていった。四つの道には、A、B、C、D館と書かれていた。
―A館〜ルルド編〜―
A館にはルルドがきていた。特に周りは変わった様子はなかった。むしろ不気味なほど殺風景で、白い壁がどこまでもつづいている。ここ、A館は別名"迷宮路"と呼ばれている。
「不気味だな。アーシャ、ルルドだ!」
『どうしたの?何か見つけた?』
「いや。それが何にもないんだよ。どこ見ても真っ白で、歩いても歩いても壁しかないんだよ。」
ルルドがA館へ入ると、すぐに壁と同じ色の白い壁が出入口を塞いだのである。そんな事は知らずに、ルルドは歩き続けていた。アーシャも知らずにいた。
『本当、変ね…。同じ所を何周もしてるわ。とにかく監視カメラで調べて見るわ。』
アーシャはパソコンを持ち、部屋を移動した。そこは、大きな画面が正面とサイドに三つ並んでおり、機械がたくさん置かれている。アーシャはイスに座り、パソコンについていたメモリーカードを機械に差し込んだ。そして、スイッチを押すと全ての機械に電源が入った。さっそく皇居の監視カメラをのっとり、全ての角度から不信な点を探した。アーシャは何か見つけたらしく、ルルドの場所を確認した。慌てた様子でアーシャはルルドに叫んだ。
『あっ!ルルド、そこで止まって。左の壁に何かついてない?』
「左?何もねえぞ。」
『もうちょい後ろ。そう、そこ。』
ルルドはアーシャに言われたように、後ろにさがっていく。すると不自然なタイルが一つあった。
「アーシャ、これか?」
ルルドは指をさしながら、監視カメラに向かって話しかけた。
『そこのタイルだけおかしいのよね。』
アーシャはそう言いながらタイルを解析して調べていると、タイルの中に赤いスイッチがある事がわかった。
『ルルド!そのタイルを押してみて!』
「えっ!?こっ、こうか?」
恐る恐る押してみると、キー!と音をたてながら、タイルが前へずれ、そして下へずれていった。
「なんだこれ?アーシャ、認証装置…みたいのがあるぞ!」
『認証装置?何よそれ!』
「お、俺に聞くなよ!とにかく何か入力すりゃあいいんじゃないか?」
「入力する…天皇に関する事かしら。』
しばらく考えていると、何かを思い出したようにルルドに言った。
『840110って入れてみて。現在の天皇が天皇となった日が25年前の1984年の1月10日なの。』
「よく知ってるなぁ。えっと…8、4、0、1、1、0っと。」
ブー!となって、上についていた赤いセンサーからレーザーが発射した。
ルルドはすかさず避けた。
「危ねー!こんな事になるなんて、聞いてねえぞ!アーシャ、入力したのは違うみたいだぜ!」
『おかしいなあ。ちょっと待ってて。』
アーシャは認証装置のメモリー内に入り込み解析を試みた。一分が経過するといい加減我慢しきれなくなったルルドが、
「アーシャ!まだかよ。そろそろ警官が来てもいい頃だぜ。」
アーシャから応答がない。
「アーシャ?アーシャ!」
うそ…。そんな…。
という小さい声が聞こえた。
「アーシャ、どうした?」
『な、何でもない。今度は98…』
と言いかけた時、「いたぞ!」という声が聞こえる。
「ちくしょう。もう来やがったか。アーシャ、早く!」
『あっ、うん。981005…』
「98、10、0、5…。」
ガガガガガガ…。
「開いたぞ!」
そう言って中に入ると、
「アーシャ!閉める方法ないのかよ!」
『えーと…。あっ、隣りにレバーがあるはずよ。それを上にあげれば閉まるはず。』
「こ、これか?いくぞ。」
ガシャン!という音とともに、扉が閉まり始めた。
「はあ、良かった。これで一安心だな。」
ルルドは安心しているが、アーシャは少し動揺気味だ。そんな中、警官達は…。
「くそっ!閉められたか。これは、認証装置か!暗証番号が必要そうだな…。ここから入るのは、時間がかかりそうだ。仕方ない。他の道を探すぞ!」
と、苦労しているようだ。
ルルドは警官達の事など気にしてなどいなかった。だが、なによりアーシャの方がきになって仕方なかった。
「アーシャ、大丈夫か?なんかさっきから変だぞ。」
『…。』
アーシャは黙ったままだった。
「アーシャ!!」
ルルドは声を張り上げてアーシャを呼んだ。
『ルルド、声が大きすぎ!耳がキンキンする。』
「はあ。誰のせいで、声張り上げたと思ってんだよ!」
ルルドに怒られ、沈んだ様子でアーシャは言った。
『ごめん。なんでもないから。気にしないで。』
「なんだよ。よけい気になるじゃねえかよ。なんか分かった事があったなら、言ってくれれば任務もはかどるし。」
『うぅん。本当になんでもない。どんどん進んで。』
ルルドは気になりながらも、仕方なく歩いて先に進んだ。
―B館〜ロー編〜―
B館にはローがいた。そこは進んでいくと真正面にドアが見える。ローが中に入ると一面に青い壁が広がっていた。
「なんですかね、ここ。子供部屋…?」
『何かあったの?』
「あっ!アーシャ。変なところにきてしまいました。ここって子供部屋ですかね。」
『ここは…。』
アーシャは戸惑った様子だった。
「知ってるんですか?」
ローが訪ねるが、アーシャは慌てて、
『な、なんでもない。カワイイ部屋ね。子供部屋かな。』
「それ、僕がさっき言ったんですが。」
『そうだっけ。そんな事よりあれ何かしら。』
アーシャが疑問に思ったのは、中央に置いてあったテーブルだった。
「これがどうかしましたか。」
『そのテーブルの中央にある、大きなミゾと周りにある五つの小さなミゾ。』
「テーブルの模様じゃないんですか?」
『最初はそうも思ったんだけど、一つ一つ見て!形が違うんだもの。不自然だと思わない?』
「何かあるんですかね。例えば…何かをはめ込むとか。」
そう言ったローの言葉を書き消すかのように、警官達が乗り込んできた。
「観念しろ!もう逃げ道はないぞ。」
そう言いながら、10人ぐらいの警官が銃を一斉に向けた。
「あらら、早いですね。どうします?アーシャ。」
「お前誰と話している。ア、アーシャとは誰だ!」
「アーシャですか?アーシャはうちの…ブラックキャットの唯一のサポーター。誰よりも頭が良くて、一言で言えば天才ですね。アーシャなしでは、組織は動きません。ねっ、アーシャ。」
『ベラベラと喋ってるんじゃないわよ!さつさと逃げないと捕まるわよ!じゃっ!』
「じゃっ!ってアーシャ。そんな人任せな事ってありますか?さっきのテーブル…アーシャ!?アーシャ!?」
アーシャからの応答はないままだった。
―C館〜ネルシャ編〜―
ネルシャが行った道には電気もついていない、真っ暗な所だった。
「何?ここ。道がわからないわ。キャッ!!」
ネルシャが何かにぶつかった。
『ネルシャ、大丈夫?』
「アーシャ!暗くて道がわからないの。それに何も見えないから怖くて、怖くて。」
『ネルシャ。一つ聞きたいんだけど…。ミーナに作ってもらった携帯型ライト、持ってないの?』
ネルシャはハッとして、ポケットの中をガサゴソと探し始める。
「あっ!あった、あった。すっかり忘れてたわ。ごめんなさい、これ使えばいいのよね。」
カチャッ!
ネルシャがライトをつけると、そこには恐竜の骨や生きている蛇など数々のコレクションが飾られていた。
「いやぁー!!な、何??き、気持ち悪いっ!!」
『なるほどね。あの人、コレクション飾るの好きだもんね。』
「えっ!?何、今の知り合いの話みたいな口調。」
ネルシャに指摘され、慌てて弁解した。
『違う、違う。それより、多分その先には天皇の第一子で次期天皇候補の直仁様の部屋があるはず。』
「へぇ。詳しいのね。」
『私を誰だと思ってるの?調べればわかるわ。』
「そうね。でも不気味。その部屋に例のものがあるの?」
『さあ?私だって、皇居にあるメモリーを探せ!っていう命令が下されたっていうのしか知らないわ。』
「そうよね。黒猫も何考えてるのかしら。」
黒猫。この人がブラックキャットの本当の黒幕。だが誰も会ったことも、姿は見た事がない。黒猫はガトーに命令を下し、全ての計画を立てている。だが、ガトーも黒猫の姿は見た事がない。声だけで話しているが、声も変声機が使われているため何一つ黒猫について知らない。
『とにかく部屋に入りましょ。そうすれば、あるかどうかだってわかるはずだし。』
「そうね。じゃあ、入るわよ。」
ガチャッ!キー!ネルシャが静かにドアを開けると、そこにもたくさんのコレクションが飾られていた。
「はあ。どれだけコレクションが好きなのかしらね。直仁様は!」
『それよりメモリーがあるとは考えられないわね。全然メモリーについてる金属反応が感じられない!』
「そう。じゃあここには用がないわね。」
ネルシャがその部屋をあとにしようとした時、後ろからガタガタガタと大きな音がした。
「何?」
後ろをパッと振り返ると、ローの時のように警官達が並んで銃を向けていた。
「動くんじゃない!警察だ!」
「もう見つかっちゃった。どうしよう、ハハッ。」
『まっ、仕方ないわね。とにかくミーナの作った試作品を試してみれば。』
ミーナとは科学班に所属している天才科学者。なんでも作れる科学班のリーダー。
「これね。一度も使った事ないんでしょ!ミーナったら、試作品を渡してきて。失敗したら許さないからね。」
『まあまあ。使えるだけいいでしょ。』
「じゃっ!早速…。」
ネルシャは四角い箱を放り投げた。
すると箱が開き、中から煙がもくもくとでてきた。
「なんだ!おい、気をつけろ!何が起こるかわからないぞ。」
「成功したみたいね。」
ネルシャは煙を防ぐために、顔全体をプラスチック製のマスクで覆った。
「なんだっ!苦しい。お前ら、この煙を吸うんじゃない!」
警官達が数人倒れ始め、一部は袖で口と鼻を押さえる。
「では、吸わないようにお気をつけて。」
『ネルシャ!横にある赤いスイッチを押してみて。』
「これ??」
ネルシャがそのスイッチを押すと、壁が動き階段がでてきた。ネルシャはそこの階段を上がっていく。警官達はすっかり煙に包まれた。
―D館〜キラ編〜―
キラの入ったD館は、たくさんの絵が飾られていた。
「へぇ、やっぱり価値がありそうなのばっかだな。何十万もするんだろうな。」
『何百万するのもあるんじゃない?』
アーシャが急に入ってきたので、隣りにあった壺を倒しそうになったり、キラはいろんな事に驚いた。
「なっ、ビックリさせるなよ!それに絵が何百万もするのかよ!そんなところ怖くて通れねえじゃんか!それに壺割りそうだったよ。弁償できねえかんな!」
『しなくていいでしょ!別にあたし達盗みに入ってるんだから。たとえ壊したって、弁償しなくても。あんた犯罪おかしてるって自覚ある?』
キラは我に返ったように、手をポンッと叩いた。
「そうだった。」
『とにかく、どんどん進んで!』
キラはゆっくりと前に進んでいくと、一つのドアが見えた。その隣りには、小さな機械がついていた。
「なんだこれ!」
『まさかこの部屋って。』
「なあ、アーシャ。これ、なんだよ。」
『それは画面に触れれば、認証問題が流れるから。それに答えれば入れるはず…。』
アーシャが話終わる前に、キラは画面に触れていた。
ピピピピピッ!
「おー!ついた、ついた。」
…あなたの敬愛する人は?…
「敬愛する人…。ってそんなのわかるか!」
『り……。』
「なんだって?知ってるのか?」
『ここから先の部屋は第三子の…美波、様の部屋よ。』
「へぇ。それで答えは知ってるのか?」
『み、美波様のプロフィールによると、お兄さんの陸様じゃないかしら。すごく慕っていたと聞くわ。』
「お兄さんの陸様!!」
キラはついていたマイクに向かって叫んだ。
…ブーブーブー!次に間違えるとセキュリティシステムが作動します!…
「なんだよ!違うじゃねえか。」
『呼び方…。』
「呼び方がどうしたんだよ!」
『美波…様が呼んでいたように言わなきゃダメなんじゃない?』
「呼び方なんて知るかよ!」
『り…に…。』
アーシャは小さな声で何かを呟いた。
「えっ?」
『陸にいって呼んでいたのよ!』
「り、陸にい!!っでいいのか?」
…ピンポン!ピンポン!お通りください。…
ガガガガガガッ!
部屋のドアが開いた。アーシャはホッとした様子だが、キラはアーシャの事を少し不思議に思っていた。
「アーシャ…なんでわかったんだ?呼び方なんて。」
『プ、プロフィールにのってたから!』
「そんな事までのってるか?それにお前、さっきから動揺してないか?」
『してない、してない。ほら入って』
渋々、キラは部屋の中に入っていった。
そこには、たくさんの機械や書類がほこりをかぶって並んでいた。
「うわぁ。使ってねえのか、この部屋!」『メモリーは真正面の引き出しにあるはずよ!』
「これか?」
そう言いながら、キラは引き出しを開けた。するとそこには、二つのメモリーチップが置かれていた。
「すげぇ。一発で当てたよ!」
キラはメモリーを抜き取った。
『そんなの調べれば、わかるわ。あたしの力をなめてんでしょ!』
「悪い、悪い。落ち着けって!」
『キラ、メモリーの裏になんか刻まれてない?』
「ん?一つは何もねえけど、もう一つはかいてあるけど傷ついて読めないな。to…y…um…a…i…だけだな。」
『そ、そう。それも持ってきて!こっちで調べるわ。それで、そこのタイル踏んで!そうすれば階段に繋がる壁が開くから。』
「こうか?」
タイルを踏むと、揺れながら音をたてて壁が動きだした。
『進んでいけば、皆と合流できるから!』
「そうか。俺らも、もうここには用はないし。さっさと出てかねえと、いい加減やばいしよ!」
そう言いかけた時、
「やっと見つけたぞ!小僧!」
と言いながら、部下を引き連れ柏木がやってきた。
「あっ!あんた、さっき声張り上げてたおっさんじゃん。」
「おっさんだと!お兄さんだ!そんなに年は、いってない!!」
どんどんと柏木の怒りが高まっていく。
「はい、はい。あんまり怒ると血圧上がっちゃうよ?おっさん。」
「この、ガキー!!!」
柏木はキラに飛びかかろうとしたが、周りにいた警官に取り押さえられた。
「へっへっへっ。バーカ、バーカ!」
柏木をあおっているキラにイライラしたせいか、アーシャが頭に青筋を立てた。
『こっの、バカキラがぁー!!なに、警察とケンカしとんじゃ!オラ!』
「は、はひ。すひまへん。ひをふけまふ。ほれほり、ひひがひたいよー。(解説:は、はい。すいません。気をつけます。それより、耳が痛いよー。)」
アーシャの声は警官達にも聞こえて、全員の顔が青ざめていった。
「お、お前、誰だ!」
『あたし?』
「今喋ってた女は、アーシャだ!」
「アーシャ?誰だ、そいつは!」
先ほどの声が、恐ろしかったようで、少し声が震えていた。
「アーシャはブラックキャットの唯一のサポーター。誰よりも頭が良いんだ!まっ、誰からみても天才だな。アーシャなしでは組織は動かないっていうぐらい、重要なヤツだ。」
「では、皇居のセキュリティを解除したのも、アーシャという女か。」
「ああ。だよな!」
『えぇ。40分もかかっちゃったけど、解除はできたわ。』
柏木は唖然とした。
「40分だと?皇居にセキュリティをつけた張本人でさえ、1時間半はかかるんだぞ。そんなバカな。」
「アーシャは天才学者だからな。」
『さっきは散々、けなしてたくせに。』
「まあまあ。」
今のうちだと思い、柏木は飛びかかった。すると、キラは腰にさしていた剣を抜いた瞬間。柏木の片目を切った。
「うわぁー!」
と言いながら、崩れるようにして倒れた。
「柏木さん!!!」
警官達は再び銃をキラに向けた。
「わ、悪い!一応、剣はよっぽどの事がない限り使うなって言われてたんだけど…。とにかく俺は急いでるから!って事でさいなら!」
「なんだと!?」
「ホレッ!!」
キラは手に持っていたライトのスイッチをいれて、警官達に当てていった。すると、警官達は「うぅー。」とうなりながら、目を押さえだした。
「大丈夫、大丈夫。一時的に目が見えなくなるだけだから、持続時間は15分。すぐに戻るよ!目にはやさしいから、大丈夫!あっ、そっちの目を切っちゃった人の方…柏木…だっけ?お大事に。では。」
そう言い残し、階段をかけあがった。
四人は広いベランダに出た。
「よっ!メモリーは見つかったぞ!」
「キラの方にあったのね。」
「じゃっ、そろそろ迎えが来る時間ではないですか?」
「噂をすればだな。来たみたいだぞ。」
飛行船がだんだん皇居へ近付いてきて、やっとキラ達の上空にたどりついた。
『今からロープをたらすわ。つかまっといてね。』
4本のロープがたらされ、4人は一つずつつかまった。
『振り落とされないように、気をつけて!行くわよ!』
「そういえば、アーシャの運転なのよね。」
アーシャは運転がド下手なのだ。アーシャが運転しているため、いろんな所にぶつかるスレスレで飛ぶ。急カーブをしながら、飛行船は皇居から去っていった。
警官達は目が見えるようになり、追ってくるとすでに遅かった。悔しそうに、ベランダからながめるだけであった。
柏木は片目を押さえながら言う。
「こんな屈辱は初めてだ。次こそは、次こそは。きっと!」