第二話〜組織vs警察〜
毎日大忙しの軍団。ブラックキャットの情報を探し回っている。ここではそれが毎日の仕事だ。
「全員気を抜くな!ブラックキャットはいつ現れるかわからない。一秒足りとも気を抜くんじゃないぞ!!」
「はい!」
彼らはブラックキャット捕獲部隊に選ばれた日本の特別警察だ。ブラックキャットが現れた事で、本来ならあるはずのない捕獲部隊という部隊ができたのだ。
そして一番気合いが入っていた男は捕獲部隊で、この部隊の指揮官の柏木。警視庁刑事部捜査一課強行犯捜査三係の警部の警部補を務めていた。だが、捕獲部隊ができた際に移動となり、指揮官となった。左目に大きな傷があり、失明している。これがブラックキャットのメンバーにやられたもので、相当な恨みをもっている。柏木は絶対に逃すまいと必死になっていた最中、柏木を呼ぶ声が聞こえる。
「柏木!柏木!」
これは、間瀬警部の声。
大柄でガッチリしていて、一見怖そうにみえるが、チェスや麻雀など遊びが大好きな46歳、独身。
警視庁刑事部捜査一課強行犯捜査三係の警部で、柏木の上司であった。
すると柏木は小さな声でブツブツと呟き始める。
「俺はあの人が、少し苦手だ。俺達に文句つけるわりには、自分がさぼっているパターンがほとんどだ。ハァー…っと、こんな事を語っている前に行かなくては。」
かけ足で間瀬に近付いていく。
「間瀬警部!お呼びですか?」
「柏木!今日入ってきた桜庭だ。この捕獲部隊に配属になった。こいつは結構腕は良いらしいから、いろいろと使えるはずだ。後は頼んだぞ。」
そう言いながら、間瀬警部は柏木の肩をポンッと叩く。
「はっ!了解しました。」
って言っても、また人任せなんだから。いつもの事だけどな。今日もいろんな人に声をかけて回っている。飲み会の打ち合わせか?
「今日あたり一杯どうかね?」なんて言って誘うんだ。最後の最後は酔いつぶれて、俺達に運ばせる始末だ。しかも誰も断れないもんだから、迷惑だのなんのって。
それ以外で考えられるのは、女の子に合コンの誘い……。いや、ゴルフって線も有り得るぞ。さあ。今日は何をする!?
「…木さん。柏木さん?大丈夫ですか?」
桜庭が心配そうに、顔をのぞかせる。
「ああ、すまない。考え事をしていたものでな。たしか桜庭くん…だったか?」
だめだ。間瀬警部の事なんか考えるだけ無駄だ。今は桜庭くんの事に集中しよう。
柏木は間瀬警部の事を忘れようと、思いっきり首を横にふった。
「はい。桜庭といいます。まだまだ警官になって日は浅いので、何かとご迷惑をおかけするかもしれませんが、今日から宜しくお願い致します。」
大きな声で挨拶をしながら、桜庭は柏木に向かって敬礼し、終えた後深々と一礼した。
なんと礼儀正しい、しっかりとした子だ。最近の若者では、なかなか珍しい。早く皆に打ち解けてもらわなくては。
「さあ、こっちへきたまえ。早速、皆に紹介しよう。あっ、ちなみに君はいくつだい?」
「はっ。25でありますが…」
「独身かい?」
「はい。独身であります。どうして、そのような事を…」
「いや、何でもないんだ。気にせんでくれ。さぁ、紹介しような。」
桜庭くん…絶対…間瀬警部に捕まるよ…若くて独身は、合コンにうってつけだからな…
柏木と桜庭は部屋の中央へと、移動する。
「皆!少し集まってくれ!」
中年の男性がぞろぞろと集まってくる。
「皆に紹介しよう。今日からここに配属になった桜庭くんだ。」
「桜庭です。早く皆さんのお役に立てるよう頑張りますので、宜しくお願い致します。」
全員から歓迎の拍手が響き渡る。
「では解散。各自持ち場に戻れ。あっ、そうだ!桜庭くん。ここの捕獲部隊の目的は聞いているかい?」
「あっ!間瀬警部から凄く大まかな事しか。たしか…どこかの有名な組織を捕まえる部隊だとか。」
そりゃ。凄い大まかだな。また、あの人さぼったか。
仕方ない。俺が説明するとしよう。
「あまりこの部隊の事を知らないようだね。では少し長くなるが、説明しよう。なにかわからない事があったら、どんどん質問してくれ。」
「はい。お願いします。」
「私達捕獲部隊は主にブラックキャットという組織を追っているんだ。」
「ブラッ、ブラック…キャット……っていうのは。」
そこからかっ!!!って落ち着け、落ち着け。まだきたばかりで、知らないのは当然だ。だが、新聞にだって……まあいい。よしっ!
「ではまず、ブラックキャットについて説明しよう。ブラックキャットとは、ガトーという人物が作り上げた犯罪組織だ。今までにも、世界各地で金目の物を盗みとっている。」
「柏木さん。そのブラックキャットって、そんなに手強いんですか?泥棒なんてすぐ捕まりそうだけどなあ。」
「ふっ。チッチッチッ。あまいんだな。その泥棒という考えが。彼らはただの泥棒じゃない。ブラックキャットは世界中から選りすぐりの天才達が集められた組織なのだよ。凄いだろっ。組織が捕まるわけがないだろ。逆にいえば、捕まえられるわけがないだろ。ハッハッハツ。」
「ちょっと、柏木さん。組織を褒めてどうするんですか。」
突然横から太った中年の男が、柏木の横に現れた。
「おおっ!川崎か!すまんすまん。知らないヤツに話すと、なんだか自慢したくなってしまってなぁ。」
川崎は俺が警官になって、一年後に入ってきた後輩…
それから何度か捜査で一緒になってからの腐れ縁ってやつで。なかなか離れられない。まあ、こいつの事を話しても面白くも何ともない。
「では、話を戻そう。今度はブラックキャットのメンバーについて説明する。川崎、モニターに映してくれ。」
はっ、はい!と川崎は慌てて用意しようとするが、そこに行くまでが問題だ。足元のコードにひっかかるは、資料を山済みに持ったヤツにぶつかって…その後は想像がつくだろう。こいつのマヌケっぷりはいつもの事で…何をやっても失敗続き。そして何より準備が遅い!この前なんか、会議にお茶を配ったら…こぼして警視にかけてしまった。
やっと準備を始めたと思えば、混乱していて全くできていない。
すると隣りで笹本という細身の小柄な男が、代わって用意をしているよう。
情けない話だ。
ああいう川崎みたいな男が、現場で一番に怪我をするタイプだ。
ガチャッ!ピー!
どうやら準備が終わったようだ。
「準備完了しました。」
「ああ。ご苦労。ではモニターを見てくれ。っと……ん……」
「どうしたんですか?柏木さん。僕の顔になにかついてますか?」
急に何かを考え出すと、桜庭の顔をじっと見ている。顔をじっと見つめている。何か考えているらしい。
「えーと。んぅ……。」
すると川崎が飛んできて、柏木に何かを耳打ちした。
「柏木さん……………。」
むむ!!なぜだ、なぜ私の心の声が分かった!お前はまさかっ、エスパーかっ?
柏木が考えている事がわかり、耳打ちをした。
「あっあの…。柏木さん、どうなさったんですか?」
不安そうに柏木を見る桜庭。
「あっ、いやぁ。気にしないでくれ!さ・く・ら・ば・くん、だったね。話を続けよう。ハハッ。ハハハハッ。」
なるほど。そういう事か。俺の名前を思い出せなかったから、黙ってたんだな。
桜庭は心の中で察した。
そう柏木は名前を思い出せないでいたのだ。川崎に耳打ちしてもらったのは、『桜庭』という名前だった。
―柏木さん。桜庭くんですよ―
と。
「では、モニターを見てくれ!左からキラ、ルルド、ネルシャ、ロー。この四人が数々の事件を引き起こしているやつらだ。そして一番手強いのがキラという人物だ。キラは日本出身の男なんだが身元や経歴は全て不明。今、勢力をあげて調べあげているんだが…。」
「中学校や高校の名簿を端から探せば、見つかるのでは?」
「それで分かれば苦労しない。何しろ、名前が分かっていないのだ。」
「分かってない…って。キラというのは名前ではないんですか?」
「キラというのは、ブラックキャットで使われているコードネームのようなものだ。ブラックキャットに所属している者達全員が、コードネームで呼ばれている。」
「そうなんですか。あっ!でも、日本人というのが分かったのなら、他の情報も分かるはずですよ。きっと!」
「いや、キラが日本人というのが分かったのは、調べた結果ではないんだよ。あれは何年か前の春の話だ。」
―三年前の2007年4月1日―
ブラックキャットが結成されて初めての仕事で、日本を揺るがす最大事件。真夜中の0時に行われた。
カン!カン!カン!カン!
真夜中の空に響き渡る鐘の音。空を見上げれば、大きな飛行船が浮かんでいる。ブラックキャットが現れた場所は…皇居。天皇の上空であった。飛行船が皇居へとスポットライトをあて、たくさんの警備員が外へ姿を現した。
そして、飛行船についているスピーカーから声が聞こえる。
「我らの名はブラックキャット。この世の未来に数々の事件を引き起こしてみせよう。危険にさらされたくなくば、我らを黙って見ているがいい。この日本に宣戦布告を言い渡す!」
男が日本への宣戦布告を伝える。周りにいた人々は一瞬なにが起こったのかわからず、混乱していた。そこに警察が到着する。20代後半ぐらいのガッチリした男が、飛行船に向かって力一杯声を張り上げるが届かない。そこで、こちらもスピーカーを使おうという事になったらしく、スピーカーを持ち、もう一度声を張り上げる。
「あ、あ。聞こえるか!飛行船に乗っている者達!直ちにこの場から撤退せよ!こんな真夜中に声を張り上げて、迷惑だとは思わないのか!いやがらせにしては、度がすぎるぞ!」
飛行船の中では、笑いが起きた。
「なあ、なあ、なあ。あいつ頭大丈夫か?自分で迷惑だとかいいながら、自分も同じ事やってるじゃん!」
「まあ、キラの言っている事もわからなくはないですけど…。ふぁー。」
キラと話しているのは、いつも眠そうでマイペースのロー。中国から呼び寄せられた。
「だろ?あっ!言い事考えた。アーシャ、マイク貸せ!」
「あっ、ちょっと!何する気?」
キラはアーシャからマイクを奪った。
「まあ見てなって。オッホン!聞こえるか〜?諸君、我の名はキラ様だ!えぇー。今スピーカーを使っていた警察官の君!自分が何と言ったか覚えているかい?スピーカーを使うのが迷惑…なら、君はどうなんだい?君の持っているそれは、スピーカーじゃないかい?」
飛行船の中にいる全員がため息をつく。
「あのバカ。暴走しちゃって。これじゃあ、計画が狂ってきちゃうじゃない。」
アーシャががっくりしていると、
「まあ許してやれ、アーシャ。やらせておけ!」
「は、はい。ガトー様が、そうおっしゃるなら。」
アーシャはガトーに言われるとやむを得なくしたがった。
下ではというと、警察官達が騒ぎ出していた。
「だっ、誰だ!あのガキは!注意しているのに、あの態度はなんだ?」
「まあまあ。落ち着いて下さい。どうせガキのわるあがきですよ。」
警察官達が話している時。飛行船では、キラはやっとスピーカーを持って戻ってきた。
「はぁスッキリした。」
「まあね。あれだけ言いたい事言ってきたんだから。満足よね。」
「なあ、早く行こうぜ!俺待ちくたびれちまったよ。」
「もう少し我慢しろ!」
そう言いながら、奥のドアからルルドが入ってきた。
「今アーシャがやってくれているわ。終わるまで待ちましょ。」
優しくキラをなだめているのは、組織内で一番穏やかな性格のネルシャ。ネルシャは10代で最年少のフランスから呼び寄せられた少女。だが、正確な年齢はわかっていない。
「たく、アーシャおせぇーぞ!まだ終わんねえのか!」
キラは待ちくたびれて、イライラしている。
「ちょっと待ってなさいよ!皇居のセキュリティがそう簡単に開くわけないでしょ!すんなり開くんじゃ、こっちだってやりがいがないわ。」
「はあーん。そうか、そうか。本当は開かなくて困ってるんじゃないのか?天才学者って肩書きは、嘘だったんだな。」
ブチッ!何かが切れたような音が聞こえた。アーシャの背後に鬼のような影がぼんやりと見える。
「ア、アーシャ?」
ネルシャが恐る恐る声をかけてみると、ついにアーシャが最大限にキレたようで…。
「さっきからグチグチ、グチグチとうるさいわねぇ!本当にガキね。少し静かに待つって事できないわけ?」
「アーシャ落ち着いて、ね。」
ネルシャが声をかけた瞬間。
ガチャン!アーシャはパソコンのキーを勢いよく押し、
「はい、準備完了!待ちに待った侵入でしょ。ほら!行った、行った!良い仕事しなかったら、二度とあんたには協力しないからね!」
キラに向かって怒鳴りつけた。
「ふっ!任しとけっ!」
キラは自信ありげに、言い放つ。
キラ、ルルド、ネルシャ、ローは飛行船から飛び出した…と思いきや一人足りない。一番最初に気付いたのはネルシャだった。
「あっ!ローの事忘れてきちゃった!」
と言いながら、ネルシャはキラとルルドの襟元をグッとつかんで、地上へ降りようとした二人を飛行船へ引き上げた。引き上げられた瞬間、二人は驚いて飛行船の中に入った時には腰をぬかしてしまった。ネルシャは最年少ながら、男を二人いっぺんに持ち上げられるほどの力があったのだ。
「ふぅー。やっぱり二人とも重いわね。片手で一人ずつ持ち上げたけど、精一杯だったもの。全然稽古やってないから、衰えちゃったのかしら。」
一人でボソボソ喋っていると、ふと顔を二人の方へ向けた。
「どうしたの?二人して口があきっ放しよ。」
ネルシャが首をかしげていると、キラが壁に寄りかかりながら、しどろもどろになって話しだした。
「ネ、ネ、ネ、ネルシャ、さん?そ、そんなに、力がお、おあり、でしたっけ。」
「どうしたの?しどろもどろになっちゃって。それにネルシャさんなんて。キラらしくないわね。それに二人とも、顔が真っ青よ。肩も震えてる。はい、手貸してあげる。」
ネルシャは手をさしのべたが、キラはそれを謝りながら断った。
「すみません。大丈夫です。自分で起き上がれます。本当に許してください。すみません。すみませんでした。」
キラはルルドと共に震えながら立ち上がる。すると、ネルシャはきょとんとしながら、
「別に謝らなくても。怒ってるわけじゃ…。」
ネルシャが喋っている途中に、アーシャが現れた。
「あれ?あんた達まだ行ってなかったの。とっくに準備終わったわよ。って、なんで二人とも震えてんのよ!」
「あっ!そうそう。そんなことよりアーシャ、ローしらない?降りようとしたら、いない事に気付いて…。」
「ローなら、ソファで爆睡してたけど。」
「もう。アーシャ、起こさなきゃダメじゃい。」
「いや、なんか気持ち良さそうに寝てたから、起こすの悪いかな?とか思って。」
そんな会話をしていると、後ろから寝起きのような声が聞こえてきて、
「あふぁー。おはようございます。ここって、どこでしたっけ?」
ローがフラフラしながら歩いてくる。すると、フラッと寝てしまいアーシャにぶつかった。
ドカッ!
「イタタタタ。ロー、痛いじゃない!」
「あっ!アーシャ。すみません。急に睡魔が襲ってきてしまって。」
「大丈夫?アーシャ、立てる?」
と、ネルシャが手をさしのべるとキラとルルドは二人で顔を見合わせた。
「あの力で腕なんてつかまれたら、どうなるんだ!?」
キラとルルドが声をそろえる。ネルシャを止めようと慌てたが遅かった。アーシャはネルシャに腕を握られ立ち上がった。
「ネルシャ、ありがとう。」
なんで平気なんだ?という顔で二人は不思議そうに見ていた。
「ローも立って。」
ネルシャが手をさしのべるのを、アーシャがすかさずローの手を引っ張って、
「ロー、早く支度して!仕事、仕事。」
アーシャはローとネルシャの背中を押した。すると、
「アーシャ、アーシャ!」
キラとルルドが心配そうに近寄ってきた。
「大丈夫なのかよ!腕は。」
アーシャに声をかけたのはルルドだった。
「腕?ああ、ネルシャの事?なんでそんなに心配してるのよ。」
「だ、だってネルシャあいつ、すっげぇ力なんだぜ!」
「キラ達、今ごろ気付いたの?ネルシャの力の事。ネルシャは護身用に空手を習っていてね。その…凄く怪力で、ちょっと握られるだけで、アザどころじゃすまないのよ。」
アーシャがそう言うと二人は手を後ろに回し、襟を確認した。すると驚く事に襟が一部ひきちぎられている。二人とも手先から震え上がって、全身に到達した。二人で静止した状態から一分ほどたち、キラがやっと我に返ったようで、アーシャに驚きを隠せない様子で聞いた。
「アーシャはよく痛がらなかったよな。襟が破れるんだぞ。腕なんてすぐ折れちゃうじゃんか。」
と言われるとアーシャは腕を見せながら、
「あたしは別なの。ほら。何にもなってないでしょ?」
「は?なんで何にもならねぇーんだよ。」
アーシャの腕には傷一つなかった。するとローが支度を終えたらしく、ネルシャと共に歩いてくる。
「二人とも、ローの支度が終わったわよ。そろそろ行かなきゃ、夜が明けちゃうわ。」
ネルシャの言葉に、三人が顔を見合わせた。
「今、何時?」
アーシャが慌てた様子で、ネルシャに聞く。
「もう二時よ。早くしましょ。」
「にっ、二時??無駄な時間を過ごしすぎた。早く行ってきてよ。プランがどんどん、ずれてくわ。四時までに終わらしてね。後…約二時間!ほら、ほら。行った、行った。」
アーシャが追い出すように言う。そして、四人を押しだすと急いで指令室へ戻った。
「扱いが荒いなっ!はぁー。よしっ!気合いいれていくか!」
キラ達四人は今、任務のため飛び立った。