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浜辺で拾ったイケメンは後の超人気俳優でした

作者: 紫音みけ

 

 私がその人を見つけたのは、夕暮れの浜辺でゴミ拾いをしていたときでした。


 昼間に海水浴を楽しんだ人々が残した大量のゴミに紛れて、その人は、首から上だけを地上に出して砂に埋れていたのです。


「え、生首……?」

「生首じゃない。生きてるから。助けて……」


 思いのほか素早い返事があり、どうやら命に別状はなさそうだと私はホッとしました。


 一体いつからそこにいたのか、疲弊しきったその顔は汗と砂にまみれ、ほとんど原型がわからないほどの酷い人相になっていました。


 そんな彼が、後に誰もが知る超人気イケメン俳優になるとは、その時の私は露にも思わなかったのです。





       ◯






「うっま! 美味い、めちゃくちゃ美味い!! やばい。これミシュラン超えたんじゃね!?」


 ミシュランとは超えるものだったのか――なんてぼんやりと考えながら、私は清々しいほどの彼の食いっぷりを見つめていました。


 すでに客の姿はない、閉店後の海の家。

 がらんとした店内は、いつもならどこか寂しさを感じさせる静けさに包まれるのですが、今日だけは彼のおかげで、その空気感をぶち壊されています。


「よっぽどお腹が空いていたんですね。一体いつからあの状態だったんですか?」

「んー、何時間ぐらい経ってたんだろうなあ。途中まで寝てたからわかんねーけど……。でもコレ、腹が空いてなくてもどんだけでも食えるぞ。本当にめちゃくちゃ美味いから!」


 有り余りの食材で用意した、簡単なまかない飯。

 それをこんなにも美味しそうに食べてくれるなんて。


 別に大した料理ではなかったのですが、ここまで喜んでもらえたのなら、作った者として冥利に尽きるというものです。


 食事の前に一度シャワーを浴びた彼は、先ほどまで砂に埋もれていた人物とは似ても似つかない、見違えるようなイケメン青年へと変貌を遂げていました。

 身なりを整えるだけで、人はこんなにも変われるものなのかと度肝を抜かれた瞬間です。


「ところで、ここってキミの店? 他に人はいないみたいだけど、まさか一人で営業してんの?」

「いえ。この店は祖母が経営してて、私は夏休みの間だけ手伝いに来てるんです」


 私の通う高校はここから山を越えた所にあり、つい二日前から夏休みに入っていました。

 私は昨日のうちにここへ来て、今朝から店の手伝いとして厨房に入っています。


「例年なら祖母が店を仕切って、私の他にも親戚が何人か手伝いに来るんですけど……今年は、ちょっと祖母の体調が優れなくて」


 世間が夏休みに入る少し前から、祖母は近くの病院に入院していました。

 そのため今年は店を開けるかどうかで悩んでいましたが、完全に休みにするのももったいないということで、私を含めた親戚たちで何とか店を回そうということになったのです。


「そっかぁ……。婆ちゃん、早く良くなるといいな。でも、これだけ料理上手な孫がいるなら、きっと婆ちゃんも安心して店を任せられるだろうな」


 口の横に米粒を張り付けたまま、彼はそう言って無邪気な笑みをこちらに向けました。


 その整った笑顔がやけに眩しくて、私はつい見惚れてしまいました。

 数秒ほどボーっと見つめた後、ハッと我に返って視線を逸らします。


「そ、それで……あなたはなぜ、あんな場所で砂に埋もれていたんですか?」


 今度は私が質問をする番でした。


 こんなにかっこいい人が浜辺にいたら、周りの女性たちはそう簡単に放っておくわけはありません。

 なのに、何がどうしてあんな状況に陥ったのか。


 私が尋ねると、彼は変わらぬ調子で笑い飛ばすように、


「親父に埋められたんだ」


 と、何でもない事のように言いました。


「俺の親父、映画監督の仕事しててさ。ほら、今日の昼間、あっちで映画の撮影してたの知ってる? 俺も出演予定だったんだけど、ちょっとヘマしちゃってさ。親父がすんげー怒って許してくれなくて、反省しろって意味で埋められたんだ。埋めさせられてたスタッフたちが気まずそうな顔してたのは笑っちゃったなあ」


 ぷぷっと思い出し笑いをする彼。


 笑い話にしてはちょっと過激すぎるような――と、私は若干戸惑いつつも、彼の尋常ではないハートの強さに感心すら覚えていました。


「出演予定だった……ということは、あなたは俳優さんなんですか?」

「んー。俳優っていうか、まだ俳優になる『予定』かな。今回のがデビュー作になるから。まあ、親父のお情けで出してもらえてるだけだから、親父が却下したら俺の出番はナシってこと」

「それって、けっこう大事な局面なんじゃないですか……? こんな店でのんびりしてる場合じゃないのでは」


 役者生命が始まるか否かの瀬戸際に、こんなオンボロの店で呑気に賄い飯なんて食べていていいのだろうか。


「だーいじょうぶ、大丈夫。俺の親父、一見厳しそうだけど意外と小心者だからさ。こっぴどく叱った後に、ちょっとやりすぎちゃったかなーって一人で悩むタイプ。今頃は俺のことを心配してるだろうし、そのうち機嫌直して迎えに来るよ。なんせ生き埋めなんて拷問だからな。『戦場のメリークリスマス』なら死んでたし」

「戦場の……?」

「昔の映画。有名だけど、知らない?」


 彼の父君に関して私は何も知りませんでしたが、彼の口ぶりからは、彼ら親子の確かな信頼関係が垣間見えました。

 何より、映画監督の息子である彼がこうして映画のことを簡単に話題にできる辺り、二人の間に隔たりのようなものがあるとは思えません。


「でさ、ちょっと相談があるんだけど」

「はい。何でしょう?」

「俺、財布も携帯も持ってなくてさ。親父が迎えに来るまで、ここに置いてくんない?」






       〇






 翌日。

 隣町から駆け付けた親戚のおばさんと一緒に、私は店を開けました。


「って、ちょっとちょっと。誰よ、あのイケメンは。アルバイトを雇ったなんて聞いてないけど。もしかして彼氏!?」


 成り行きで店の手伝いをすることになった彼の評判は、私が想像していた以上でした。

 親戚のおばさんも、店に入って来た海水浴客たちも、彼を一目見るなり立ちどころにハートを射抜かれてしまうのです。


 昨夜は結局、彼の父君が迎えに来ることはありませんでした。

 引き続き一文無しとなった彼は宿代と食事代の代わりに、店の接客を手伝ってくれることになったのです。


「あのぉー、彼女さんとかいるんですかぁ?」

「好きな女性のタイプとかありますか?」

「連絡先教えてくださぁい!」


 昼時を過ぎても、彼の人気が衰えることはありませんでした。

 女性客たちは店先で彼の姿を目にするなり、花の蜜に引き寄せられる蝶のごとく店内へと入ってきます。


 しかし、これだけ多くの女性に囲まれながらも、彼が接客をサボることはありません。

 配膳もオーダーもテキパキとこなし、たまにお客さんから連絡先などを聞かれたときはやんわりと断ります。

 その断り方もスマートでやけに手馴れているところを見ると、やはり普段から声を掛けられることが多い人なのでしょう。


 本当によくモテるんだなあと、私は厨房の片隅から、まるで遠い世界に住む人を見るような気持ちで彼を眺めていました。


「ねえ、そこのお嬢ちゃん。ちょっとこっち来て。おじちゃんたちと一緒に飲まない?」


 と、何やら客席の方から声が飛んできて、私はそちらに注意を向けました。


 見ると、ビールを片手に泥酔したおじさんが、こちらに手招きをしています。


「お嬢ちゃん可愛いねえ。おじちゃんのお膝の上においでよ~」

「やめとけって。未成年にちょっかいかけるなよ」


 周りの制止も聞かず、上機嫌な様子で私を呼ぶその人に、私はどう対応すべきか迷っていました。

 下手に近づけば変な絡まれ方をするかもしれません。

 かといって、お客様を無視することもできません。


 厨房から顔だけを出したまま固まっているうちに、やがて痺れを切らしたのか、その人の声と顔つきは次第に荒々しいものとなっていきます。


「おい、早くこっちに来いって。客が呼んでるんだぞ!」


 明らかに気分を害した様子で、真っ赤な顔をしたその人は鬼の形相で私に命令します。

 怒号が店内に響き渡り、これはいよいよ何とかしないとまずいということで、私は恐る恐る足を踏み出しました。


 しかし、


「はいはーい、オーダーお待たせしましたー! ご注文お伺いしますよー!」


 と、私の前を遮るようにして、どこからともなく彼が現れました。


「わっ。なんだよお前」

「すんませんねー。野郎はお嫌いですかー?」


 彼は冗談を交えながら、その場を上手く取り繕ってくれます。


 その後は周りの協力もあり、最終的には何とか大事にならずに済んだのでした。






       ◯






「……すみません。さっきはその、ありがとうございました」


 夕方になり店を閉めてから、私は改めて彼にお礼を言いました。


 対する彼はまるで何事もなかったかのように笑顔で応えてくれます。


「そんな暗い顔すんなって。あんなの気にすることでもないだろ?」

「でも、私……上手く受け答えができなかったので。それで、お客さんもあんなに怒らせちゃって……」


 言いながら、私はどんどん自分が情けなくなりました。

 こんな思いをするのは、実は今回が初めてのことではないのです。


「私、昔から接客が苦手で……。このお店を手伝うのも、ずっと悩んでたんです。私がいると、お店の雰囲気を悪くしちゃうかもしれないから……だから、手伝いに来るのも、今年で最後にしようかなって」


 ずっと、悩んでいました。


 他の親戚たちはみんな、問題なくお客さんと接することができるのに、私だけはいつも自然な受け答えができません。

 お客さんを目の前にすると、どうしても緊張してしまって、咄嗟に言葉が出てこないのです。


 なるべく厨房の外には出ないようにしているのですが、店の構造上どうしても客席から姿が見えてしまうため、今回のように声を掛けられることも少なくはありません。


「別に、接客が苦手でもいいじゃん」


 と、目の前の彼から予想外の返答があり、私は思わず耳を疑いました。


「人には人の得意分野ってのがあるだろ。接客の代わりに、キミは料理が出来るじゃないか。あんな美味い飯が食べられるなら、俺は毎日でもこの店に通うけどなぁ」


 そう言ってニカッと笑う彼を見ていると、その明るさに毒気を抜かれて、私の心も段々と落ち着いてきました。

 彼の笑顔の前では、どんな悩み事もまるでどうでもいいことのように思えてくるのです。


「あーあ。俺の親父、今日も結局迎えに来てくれなかったなぁ。悪いけど、今夜もここに泊めてくれよな」


 明日も、彼がここにいてくれる。

 そのことに私は、胸の奥で密かに喜びを感じていました。


 彼には悪いけれど、できることなら明日も明後日も、ずっと迎えなんか来なければいいなとさえ考えました。


 思えばこのときすでに私は、彼に対してほのかな恋心を抱いていたのかもしれません。






       ◯






 私の願い通り、次の日も、また次の日も、彼の父君が迎えに来ることはありませんでした。


 赤い夕日が海に沈んで、店を閉めるとき、彼の笑顔がまだ私の隣にあることを確認して、ホッと息を吐く自分がいます。


 どうかこのまま帰らないで。

 ずっとそばにいてほしい。


 しかしそんな私の願いも、本当は許されるはずがないものなのだという自覚は常にありました。




 そうして迎えた、五日目の朝。


「あれっ? あなたもしかして、××監督の息子さんじゃないですか?」


 ふらりと店を訪れた海水浴客の一人が、彼を見るなりそんなことを言いました。


 デビュー前なのになぜ顔が割れているのかと私は疑問でしたが、後で彼に聞いてみれば、どうやら雑誌のインタビューなどで過去に顔出しをしたことがあるというのです。


「まさか覚えててくれる人がいるなんてなー。へへっ。俺って意外と有名人なのかも」


 そう言って笑う彼は普段よりさらに明るく、嬉しそうに見えました。


 お客にせがまれたサインもさらさらと書き、握手までサービスするその姿はもはや、私のような一般人とは違う、まさに芸能人そのものでした。


 私とは違う、遠い世界に住む人。


 その光景をまざまざと見せつけられたとき、彼が本来はこうあるべき人なのだと、私は否が応でも納得させられてしまったのです。






       ◯






 お昼時を前にして、私は彼に一つの提案をしました。


「えっ。今日はもう休めって? なんでだよ」


 接客として店先に出ると、今朝のようにまたお客さんからサインを求められたりするかもしれません。

 日中一番忙しい時間帯に店が混雑することや、彼のプライバシーのことを考えると、彼に接客を任せるのは適切ではないと私は判断しました。


「今日は手伝ってくれる親戚の数も多いですから、人手には困りません。それにここ連日、あなたは働き詰めですし……今日ぐらいはゆっくり休んでください」


 これは彼に対する建前で、本当は――彼の姿が多くの人の目に晒されることへの、私の嫉妬もありました。


 彼を誰にも渡したくない。


 そんなことを思う権利なんて、私にはないとわかっているのに。


「まー確かに、昼時に今朝みたいなことがあると、みんなにも迷惑かけちゃうよな。じゃあさ」


 彼はいつもの無邪気な笑みを浮かべると、私の顔を覗き込むように鼻先を寄せて、


「俺も厨房に入れてよ。料理はあんまり得意じゃないけど、キミが指示してくれるなら何でもやるぜ」






       ◯






 その後は日が暮れるまで、私たちは一緒にいました。


 先に聞いていた通り、彼は確かに料理が得意ではないようでした。

 接客のときはあれだけキラキラとしていた彼も、厨房に入れば包丁一つ持つ手も危なっかしいのです。


「あの、無理はしないでくださいね。ケガをしたら大変ですから」


 万が一にも、俳優さんの指に傷でも付けようものなら一大事です。

 しかし当の本人があの感じですから、私は内心ヒヤヒヤとしていました。


「なんか、腫れ物にでも触るような扱いじゃね? そんな気を張らなくても大丈夫だって」

「でも、映画の撮影もあるんでしょう? 俳優さんは身体を大事にしないと」

「そんな特別扱いするようなものでもないと思うけどなあ」

「特別ですよ。だってあなたは、私たちとは住む世界が違うんですから」


 一度口に出してしまうと、その言葉はより一層リアルな重みを持って、私の胸に圧し掛かりました。


「はは。世界って、なんか大袈裟だなあ。……でも、まあ。正体を隠して何かをするのって、ちょっと特別な感じがするよな。ほら、あれ。『ローマの休日』みたいじゃね?」


 その映画のことは、私も知っていました。

 とある国の王女様が、身分を隠して庶民の生活に紛れ込み、そこで出会った一人の男性と恋に落ちるお話です。


 制作から長い時を経てもなお愛され続けるその名作は、やはり人々にとって憧れの物語なのでしょう。

 しかし、ああいう身分違いの恋は決まって、いつか別れの時がくるものなのです。


 彼もきっと、もうじきここを去っていくでしょう。

 そして、二度と私と会うことはないでしょう。


 私の一方的なこの想いは、たったひと夏の思い出として、やがて過去のものになっていくのです。





 

       〇






 翌朝、ついに迎えが来ました。


 別れは実にあっさりとしたもので、彼の父君からお礼の言葉を言われたこと以外、他にどんなやり取りをしたのか、私はほとんど覚えていませんでした。


 お互いの連絡先を交換することさえできませんでした。

 これから芸能界に入る人なのですから当然でしょう。


 この日、この時をもって、私と彼との関係は永遠に断ち切られることとなったのです。






       〇






 その後、晴れて役者デビューを果たした彼は、私の予想していた以上の活躍を見せました。

 連日ドラマやバラエティに引っ張りだこで、テレビで彼の姿を見ない日はありません。


 甘いルックスと、裏表のない太陽のような明るい性格。

 店で接客をしていた頃からわかっていたことですが、彼に人気が出るのは必然でした。


 少し前まではほとんど無名で、それこそ浜辺で砂に埋もれていたなんて、今では考えられません。


 いまや彼は、超人気イケメン俳優として全国に名を馳せていました。






       〇






「で、今度の夏はどうするの? さっきおばあちゃんから電話があって、また店をやろうかって言ってたんだけど」


 翌年の、夏休みを間近に控えたある日。

 母に聞かれて、私は返答に迷っていました。


 今年もまた、いつものように店を手伝いに行こうか。

 しかし厨房には入れたとして、やはり接客には自信がありません。


 それに、今年はもう、あの店に『彼』はいないのです。

 そのことを、あの店に行けば嫌でも思い出して、余計に心細い思いをするかもしれません。


 でも……。


 ――あんな美味い飯が食べられるなら、俺は毎日でもこの店に通うけどなぁ。


 私の作る料理を、美味しいと言ってくれた。

 たとえ接客が苦手でも、私には料理があるのだと彼は言ってくれたのです。


 その言葉を無駄にしたくないという気持ちも、私の胸の中に確かにありました。


「あっ。あんたが言ってた例の俳優の子、また出てるわよ。本当に人気よねー」


 母はテレビを点けるなり、感心したような声で私に言いました。


 見ると、そこに映っていたのはまさしく『彼』でした。

 どうやら映画の試写会の挨拶でインタビューを受けている映像のようです。


「いま、気になる女性はいますか?」


 と、記者の一人がこれまたド直球な質問を投げかけています。

 おそらくは映画の内容が恋愛ものだっただけに、そういった内容をあえて選んでいるのでしょう。


 しかし、こんな公の場で馬鹿正直に答える人なんて、よほどの事情がない限りはなかなかいないでしょう。

 特に、いま人気の絶頂期である『彼』が、こんなタイミングでスキャンダルの火種になるようなものを投下するにはリスクが高すぎます。


 どこか困ったように曖昧に微笑む彼を、私は今まで以上に遠い存在の人として、液晶画面を通して見つめていました。


 すると、


「こないだの夏に……」


 と、彼が重い口を開き、やがて話し始めた内容に、私は息を吞みました。


「ある海の店で、すごくお世話になった女性がいるんです。その人は店の厨房を任されてたんですけど、料理がすごく上手くて。俺、胃袋を掴まれちゃったんですよね。今年の夏は、その人がまだいるかどうかわかんないけど……できるなら、もう一度会いたいから俺、またそこへ行こうと思ってるんです」


 彼が話し終わるまで、私は息をするのも忘れて、画面に釘付けになっていました。


 そんな私を見て、隣の母はニヤニヤとした笑みを浮かべて言います。


「だってさ。今年の夏、どうすんの?」


 彼が、またあの店に来てくれるかもしれない。


 私と、もう一度会うために。


「……行く。今年も、厨房に入りたい」


 ひと夏で終わるはずだったあの人との思い出を、もう一度作りたい。



 その後、私たちがどういう関係になったのか――それはまた、別の夏のお話です。



 

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