成長《コレット side》
────カロリーナ妃殿下と初めてお会いした日から二年の歳月が経ち、僕は騎士爵を賜った。
あくまで一代限りの爵位で領地もないため、見せ掛けの地位に等しいが、貴族と同等の扱いを受けられる。
つまり────平民生まれの僕でも、カロリーナ妃殿下の護衛騎士になれるということ
これまでも臨時で何度か護衛を受け持ったことはあるけど、正式にお仕えすることは出来なかった。
だって、僕には護衛騎士を務められるほどの地位も実力もなかったから。
でも、積極的に魔物討伐や戦争に参加したおかげで経験を積めたし、武勲も上げられた。
今なら先輩騎士であり、実際にカロリーナ妃殿下の護衛も務めるオーウェンさんにだって、負けない自信がある!
────と思ったけど、現実は甘くなかった。
「……結局、一勝しか出来なかった」
訓練場で蹲る僕は剣を握ったまま、『はぁはぁ』と息を切らす。
朝から夕方までずっと模擬戦をしていたからか、肉体的にも精神的にもそろそろ限界だった。
カロリーナ妃殿下の護衛騎士になるため、団長の出した条件をクリアして、試験に漕ぎ着けたのに……最後の関門であるオーウェンさんとの模擬戦で、敗れてしまった。それはもう盛大に。
「いや、俺から一本取れただけでも充分だろ」
呆れたように苦笑を漏らすオーウェンさんは、じっとこちらを見下ろす。
あれだけ動き回った後だというのに、彼は息一つ乱していなかった。
疲れた素振りすら見せない彼に、僕は泣き言を吐く。
「一勝しても、九十九連敗した過去は消えないんですよ……まあ、勝てたのは素直に嬉しいですけど」
オーウェンさんの首筋に剣を突き立てた時の達成感を思い出し、僕は少しだけ気分が良くなる。
でも、『十本勝負を十回やって、これか』という失望感はなかなか消えなかった。
自分の実力を過信していた訳じゃないけど、まさかここまで惨敗するとは思わなかった。
前より強くなった筈なんだけどな……。
オーウェンさんとの実力差を実感しながら、僕は『もっと強くなって出直そう』と考える。
カロリーナ妃殿下の護衛騎士を務めるには、まだ未熟だと思ったから。
『せめて、オーウェンさんと引き分けるくらい強くならないと』と思案する中────彼はガシガシと頭を掻いた。
「はぁ……ったく、あんま落ち込むなって。団長達には────カロリーナ妃殿下の護衛騎士として、採用しても問題ないって伝えておくから」
「えっ?い、いいんですか……?僕、ほとんどボロ負けだったのに」
予想外の言葉に目を剥く僕は、『まさか同情心で妥協している……?』と疑う。
でも、この仕事に誇りを持っているオーウェンさんに限って、それは有り得なかった。
「確かに足りない部分は多い。けど、妃殿下の盾くらいにはなれるだろ」
『成長したな』と褒めてくれるオーウェンさんに、僕は目を輝かせた。
だって、今までの僕はオーウェンさんにとって、ただのお荷物だったから。
戦力にカウントされたことなんて、なかった。
『実力を認めて貰えた!』と歓喜する僕は、溢れんばかりの笑みを零す。
「はい!肉壁として、頑張ります!」
勢いよく立ち上がってそう宣言すると、僕は深々と頭を下げた。
コミックス第3巻、発売中です。
何卒よろしくお願いいたします。