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【コミカライズ記念SS②】天才魔導師の誕生《テオドール side》

※幼少期の話なので、口調はちょっと荒っぽいです。予めご了承ください。

 時は十八年前に遡り────五歳になったばかりの頃、私は両親に連れられて教会本部にやって来た。

建物内は同年代の子供達で溢れ返っており、長蛇の列を成している。

恐らく、他の者達も私と同じように魔力検査(・・・・)を受けに来たのだろう。


 魔法文化の進んだマルコシアス帝国では、五歳と十六歳のときに魔力検査を受けることが義務付けられている。

と言うのも、子供の魔力は非常に不安定で、魔力のあり・なしに加え、各魔法属性の適性も乱れやすいから。

魔力の有無に関しては、ほぼ生まれ持った才能で決まるものの、属性の変化については高い確率で不安定になる。なので、五歳と十六歳の二回に渡って、検査を受けるよう法律で定められた。


 新開発した検査魔道具のおかげで、例年に比べて待ち時間は少ないらしいが……それでも、長く感じるな。もう一時間は待っているぞ。

両親たっての希望で、わざわざ教会本部までやってきたが……無理を言ってでも、地元の教会にしてもらえば良かった。


 『地元だったら、ここまで並ばなかったのに……』と嘆きつつ、私は深い溜め息を零す。

後悔先に立たずとはこの事かと思い知らされる中、『テオドール・ガルシア子爵令息』と名前を呼ばれた。

促されるまま顔を上げると、声の主と思しき神官と目が合う。


「テオドール・ガルシアは、私です」


 小さく手を挙げた私は、きちんと名乗ってから、神官の元へ駆け寄った。

神官の男性は『まだお若いのに、しっかりしていますね』と言いながら、隣室へ案内する。

促されるまま室内に足を踏み入れた私は、物珍しげにキョロキョロと辺りを見回した。


 何の変哲もない部屋だな。教会本部も、地方の教会とあまり変わらないようだ。


 インクの匂いで満たされた室内を一瞥し、私は『どうぞ』と勧められるまま椅子に腰を下ろす。

向かい側の席に腰掛ける神官は、テーブルの上に一冊の本をおいた。

題名すら書かれていない真っ白な本は、明らかに異様な雰囲気を放っている。

『新しい聖書か?』と首を傾げる中、神官の男性はゆっくりと口を開いた。


「こちらが────新しく開発した検査用魔道具になります」


 えっ?これが……?どこからどう見ても、ただの本じゃないか。神官は一体、何を言っているんだ?


 怪訝そうに眉を顰める私は、半信半疑といった様子で本を見つめる。

不信感を募らせる私に、神官の男性は気を悪くするでもなく、柔和に微笑んだ。


「既存のものとは大分違うので、戸惑うのも無理ありません。ですが、性能は保証しますよ。こちらの新型なら、一度に魔力の有無と各魔法属性の適性を検査できますから」


 新型の優れた点を語り、神官の男性は真っ直ぐにこちらを見据える。


「新型の使用方法は至って、簡単です。本の上に手を置き、『我の真なる価値を示せ』と唱えるだけ。検査結果は本を読めば、直ぐに分かります。魔力持ちであれば、何の魔法属性を持っているのか本のページに記載されているでしょう」


 『普通の本みたいに文章化されている』と説明し、神官の男性は白い本をこちらに差し出した。

物は試しだと主張する彼に促され、私は一先ず本を受け取る。


「ちなみに魔力なしの場合は、どうなるんですか?本のページに『貴方は魔力なしです』と、ご丁寧に書いてあるのですか?」


「いえ、検査用魔道具は魔力にしか反応しないので、本のページは白紙のままになります」


 首を左右に振る神官は、こちらの質問に丁寧に答えてくれた。

終始穏やかに振る舞う彼を前に、私は『なるほど』と納得したように頷く。


 新型の仕様は大体理解した。まだ半信半疑ではあるが……これ以上、ウダウダ言っていてもしょうがないだろう。安全は保証されているようだし、とりあえず試してみるか。


 『教会の認めた魔道具なら安心だ』と判断し、私は本の上に手を置いた。

普通の本と変わらない感触に目を細めつつ、私はゆっくりと口を開く。


「────“我の真なる価値を示せ”」


 教えてもらった呪文をそのまま唱えると────本に変化が現れた。

じわりと滲むように模様が出現し、表紙を彩っていく。

十色以上で仕上げられた表紙は、非常にカラフルだった。


 神官の説明から察するに、魔力持ちであることは間違いなさそうだな。魔力なしなら、無反応で終わっただろうし……。


 『問題は魔法属性の数と種類だな』と考える私は、ふと顔を上げる。

何の気なしに正面へ視線を向けると、そこには絶句して固まる神官の姿があった。

驚いたように目を見開く彼は、カラフルに変化した本を凝視する。

放心状態となった神官を前に、私は『どうしたんだ?』と首を傾げた。


「あの、どうかし……」


「───有り得ない……」


 私の言葉を遮った神官は、呆然とした様子で(かぶり)を振る。

七色に彩られた本をまじまじと見つめ、こちらの了承もなく、表紙を開いた。そして、どんどんページを捲っていく。

完全に止めるタイミングを逃してしまった私は、ただただ呆然とするしかなかった。


 いきなり、何なんだ?おかしな事でも、あったのか?


 『説明通りにやった筈なんだが……』と思い悩む私は、怪訝そうに眉を顰めた。

訳も分からず放置される中、神官の男性はようやく本を読み終わる。

パタンッと本を閉じた彼は、困惑した様子でこちらを見下ろした。


「嘘だろう……?こんなに小さい子が────全属性持ち(・・・・・)の魔導師だなんて……」


 『英雄クラスの天才じゃないか……』と呟く神官は、パチパチと何度も瞬きを繰り返す。

戸惑いを露わにする彼の前で、私は僅かに目を見開いた。


 全属性持ち……?まさかとは思うが、表紙に滲み出た色の数=適性のある属性の数じゃないよな……?もし、そうだとしたら神官の行動にも納得が行くが……でも、そんなことって有り得るのか?


 自分のことながら、どこか他人事のように感じる私は、困惑気味に視線をさまよわせた。

『魔道具の故障では?』と疑う中、神官の男性はハッと正気を取り戻す。


「と、とりあえず……!もう一度、検査をしてみましょう!」


 再検査を提案する神官は、勢いよく立ち上がった。

慌てた様子で本棚に駆け寄り、予備の魔道具を取り出す。

私は急かされるまま、もう一度検査を受けてみるものの……結果は変わらなかった。

二冊に増えてしまったカラフルな本を尻目に、今度は旧型で試してみる。

でも、やっぱり検査結果は同じで……もう現実を受け入れるしかなかった。


 ────こうして、ただの子供だった私は天才魔導師となり、周囲の人々に崇められるようになった。

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