コピーキャット
横向きに倒れている鷲巣花蓮。
口を呆然とぽかんと開けて、見開いた眼からは涙が重力に従い垂れている。瞳孔は開いていて、やがて濁り始めることだろう。
血だまりが広がっていく。
心臓を一突きし、引き抜いた。手で。
胸部を圧し潰し裂き、肋骨を折り貫き、心臓を握り、潰した。生きているはずがない。生きていようはずがない。握りつぶした彼女の心臓は延寿由正の机の上に置いた。なんとなく。
「獣よ」獣さん。
右手で動かない彼女の右腕を掴み、左手でアバラの辺りを掴む。力をこめる。ミシリと鳴る。更に込める。掌の中で皮膚が、脂肪が、筋肉が、骨が、縮み、凝り、鳴る。思い切り引っ張ると、右腕が制服の裾ごと千切れた。同じように左腕も。千切れた。脚。スカートをめくりあげる。綺麗な白い肌──血だまりが付着してしまっているが──に白のショーツ。ショーツを脱がすと、いつか誰かに見せることを想定していたのか、丁寧に整えられているだろう箇所に、未通らしきソレがあった。気の毒なことに彼女は誰も受け容れないまま死んでしまった。下腹部を掴み、片方で太ももの付け根に手を置く、すべすべとした感触に力を入れると、指がめり込み、骨を掴んだ。付け根周りの皮膚を脂肪を筋肉を潰していき、骨を砕き、引きちぎる。同じようにしてもう片方の脚もちぎる。
「早く気づけ」早く気づいて。
右腕右脚左腕左脚を、机の上に置く。
直立させようと思ったが普通に倒れたので止めた。
「誰が殺したのか」瞭然だよ。
可愛らしい顔立ちは、そのままの方がきっと良い。すぐに誰か分からなくては意味がないと思うから。扼殺の要領で首を絞め、多くをあの獣に向けていただろう明るい笑みが咲き乱れていた花冠の、その花梗を、手折るように千切り取った。
「お前に、正しきをかなぐり捨てる理由をやろう」あなたに、自分をさらけ出す切っ掛けをあげる。
頭部を机の上に、入口の扉へ向けて置く。
胴体を机の上に置く。辺り一面、真っ赤なものだ。
「早く来い」早く来て。
べっとりと血や脂のついた手を制服で拭い、鷲巣花蓮のスマホを手に取る。ロックされていたから断念する。だから自分のスマホを使う。由正はきっと学校にスマホを持ってきてすらいないだろうから、でもとりあえずはメッセージを送っておく。『至急、文化棟へ来てくれないか。大変なものを見つけた』こんなものでいいだろう。
「私は、お前に」あなたに。
来るまでいつまでも待つつもりだった。鍵閉めの人間には適当に言いつくろうか、それでダメなら静かになってもらえばいい。
「獣よ、獣よ────問うよ、答えて」
どんな表情を、浮かべるのだろう。
「私は────狂人だろうか?」
頷いたのなら、並ぶもの。
私はあなたに並びたい。
きっと人殺しの、狂人であるあなたに。
だってそうでしょう?
私はあなたに倣っている。
あなたが人殺しなら私だって人を殺せる。
現に私は人を殺している。
それなら当然の帰結として────延寿由正は、人殺しだよ。
誰かを、あるいは誰か達を殺したの。
あなたを慕い、信頼し、憧れた者たちを。
何かの目的の為に、決意し、苦痛に苛まれながらも、すべて殺した……そうに、違いない。




