オ休ミ
畳敷きの座敷の上に敷かれた布団の上に仰向けに寝転がる椿姫の顔を、携帯からの光が照らしている。その隣に敷かれた布団で伊織が横向きに寝ており、その瞳は照らされた椿姫の顔をじっと見ていた。薄笑みを浮かべ、メッセージのやり取りをしているらしい椿姫の顔を。
「誰と何の話してるの?」
「彼のオサナナジミの女の子と遊ぶ約束だよ」
「へー」
「身近な人間の不幸が立て続きに起こっているから、慰めたいんだ」
「へー。約束はとれた?」
「今、取れた。今度の休日に、とのことだ」
「はーん……あーあ……あーあーあっ、つっまんない……」
興味ない、と伊織はころんと転がり仰向けになり、天井の木目を退屈そうに眺めた。
「ご機嫌斜めだな」
「当然だよ。ボクはエンジュのお家に泊まりたかった」
「無理に決まっているだろう。男と男ならまだしも、男と女だ。由正も当然断る。だって由正だぞ?」
「だけどさー……」
「ひとつ訊きたいんだが」
「なに?」
「きみは相当に由正を好いているようだけれど、知り合ってまだ日が浅いんだろう? 三人組に絡まれているところを助けられてからとのことで、そのあとも巌義麻梨の件と安寺冬真の件で少し会って、路地裏でにっこにこでまるで私たちに見つかりたいかのようにこれみよがしに猫を撫でていて会った。それも久しぶりの再会らしいじゃないか」
「だって助けられたんだよ? 好きにならないわけないでしょ?」
「本当にそれだけなのかな?」
「疑い深いなあ、それだけだよ」
椿姫は『NEST』のアプリを閉じ、スリープモードにした。唯一の光源はなくなり、部屋の中は真っ暗となった。「お休み」と椿姫は言う。「お休み」と伊織は返す。
数分、経った頃だろうか。
椿姫は寝息を立てていて入眠していた。
すると、まだぱっちりと目を開けて天井の木目を眺めていた椿姫ではない声の持ち主が、
「運命の相手が、常に異性であるわけじゃない」
そう呟き、
「それは正しい形ではないんだ──キミは、そう言った」
呟いて、
「ねえ、それなら──今は、どう?」
誰かへと、問いかけた。
期待に立派に応えられて誇らしげに胸を張る子どものように、無邪気な笑みとともに。
 




