三ばか
「おいてめえ……なんで俺らの高校の前にいやがんだよ」
「ほ、ほんとになんでいやがんだてめえ。やいてめえっ!」
「まさか……兄貴と決着をつける為に追いかけてきやがったのか、答えやがれてめえ!」
「……」
「だ、黙ってんじゃねえぞ何か言えや……!」
「お、お前みたいなでかいのが黙ってると普通に怖いから何か言えや!」
「あ、兄貴っ、なんだか俺お腹痛くなってきましたぜ。帰っていっすかっ……」「ダメに決まってんだろ! こいつは三人がかりでやらなきゃダメな奴だ! レイドボスみたいなもんなんだよ!」「ダメっすか……ちくしょう……! なら俺たちはやるっきゃねえのか……!」
「……きみたちに用はない」
「お前になくとも俺にはあんだよ! あの時ぶん殴られた仕返しをしてやるという用がなあ!」
「兄貴はなあ! ロ高ん中じゃ『歩くハンムラビ法典』で通ってんだからな! やべえだろ! 無駄になげえから言いヅレぇったらねえんだぞ!」
「俺たちはなあ、やられたら常にやりかえしてきた! 誰であろうと何であろうとなあ!」
伊織がロ高の校門前に到着したとき、ロ高の制服を着た厳つい三人組とご機嫌な会話を繰り広げている延寿を発見してまずため息を吐いた。あいつはほんとになんでこう……、となった。
「なぜ、こんな時間まできみたちは残っている」
「ああ!? てめえ俺たちと世間話をしようってのかぁ!? いいぜ乗ってやるぜ!」
「兄貴のこのご立派な先端が長すぎるせいか知らねえけど校則にいつもひっかかっててよお! センコーの忠告をずっと無視してたら草むしりやらされて美化活動させられたんだ! でも良いぜ、こんなの日常茶飯事なんだからなあ! 日常的に俺たちは草をむしっている! ロ高のケーカンとやらに一役買ってるってところだ!」
「俺たちはその付き添いってところなんだよ! 恐れ入ったかてめえ!」
「それは……頑張っているんだな」
リーゼントとそれを取り巻く坊主と角刈り。
以前にも繁華街の路地で会った連中である。その人柄を端的に言うならば、ばかとばかとばかだ。そのように伊織は認識している。
「おい、延寿」
ご機嫌な会話に割って入る伊織に、四つの視線が集中した。今の伊織は野球帽を手に持っており、白髪と灰眼を外界にさらけ出している。「おあちゃ」一人が奇声を上げた。リーゼントだった。「き、きみはぁ、あのときのぱねえくらいにキレ―な……」伊織は無視した。
「そこの名誉美化委員どもとの会話を切り上げて、さっさと行くぞ」
顎で目的地への方角を指し、さっさとこっちにこいと手を振った。
「ま、待て待てぇい! 行くってどこにだよ!」
リーゼントが言うと、延寿が何かを言わんとして口を開き、それよりも先に──「こいつの家だよ。僕は今日からこいつといっしょに住むんだ」
九割九分九厘のからかいを込めて伊織は言い、三馬鹿へと微笑みかける。
「ま、マブぃ……!」
「兄貴それ死語ってやつっすよ」
「うるせえ俺が使っているうちは生き続けてるんだよ! っじゃねえ! 一緒に住むだとぉ!? おま、それおまっ、おまあぁ! てめえエンジュとやらてめぇいやぁ!! いやああああああああ!? 俺の愛しの彼女はもう誰かのものでぇぁあああああああああああ!!?」
「てめえらのせいで兄貴が壊れちまったじゃないか!」
「兄貴、失恋が人を強くするんですよ。痛みを知らないヤツは誰にも優しくなれないってやつっす」
「行くぞ」と伊織は延寿の腕をとる。「さっさと歩け。僕を連れていけ」
「少し距離がある」
「いいよ別に」
そして二人は泣き喚くリーゼントと慰める角刈りと坊主を背後に置き去りに、歩き出した。
「……」
九割九分九厘の冗談、……と。
残りの一厘など、認めようものか。
「ところで」
不意に延寿が切り出す。
見下ろす双眸には、確かな疑惑が湛えられていた。
「きみはロ高に通っていると言っていたな。彼らと面識はないのか」
視線を真っ向から受け、灰色の瞳で見つめ返し、
「……僕は不登校だからな。知らない奴らも多いよ」
そう伊織は言った。
なおも、延寿の視線には疑念があったが、それ以上は彼は何も言わなかった。




