展望台ニテ望ム
やはり。
そう、今日は良い日に違いない────。
良い日。良い日、イイ日。よいイイヒ、良ひ、いいひいいひひひひひひひひひ!!
「──だって ワタシがキミに、逢えたから」
ひゃっはひひひヒヒヒヒぃ!
「一日のうちに三度も! 逢えたからっ! まあこっちから逢いに行ったからなんだけど! キミからはぜんっぜん来てくんないし!」
月ヶ峰電波塔──通称『月の塔』に設けられている展望スペース。
ガラス張りされた向こう側に立っている二人組の男女──背の高い電柱のような青年とその横にまるで恋人のように寄り添っている少女を見、見つめ、睨みつけて。
「アハハっ!」
グシャグシャに塗りつぶされた黒色の眼を見開き。
片手で窓のへりを掴み、片手に削がれたばかりでぼとぼとと鮮血を垂らす肉塊を持ち。
「もっともっと逢いたいね、逢いたいねえ、ねえエンジュぅ────!」
『案内人』は、笑いかけた。
怨みも呪いも込めたつもりはない、情愛そのものの笑みを。
驚きと恐怖に瞬時に塗りつぶされた二人の男女へ向けて。
そしてガラスに向かい肉塊の上側の切断面を、クレヨンでも塗るように思い切りゴシゴシとこすりつけて鮮やかな赤色の、ハートのかすれた枠を描き、そのまま四肢と頭部を切断された肉塊とともに地上へと落下していった。
地面に潰された死体に。
恐怖に狂った悲鳴のさなかで。
着地した『案内人』は展望台のガラスに描いたハートを見上げている。
始まりの雨の一滴がぽつ、と『案内人』の鼻面に落ちて弾けた。
ああ、嗚呼……やはり今日は良い日だ。




