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キミモ異世界イキタインデショ?  作者: 乃生一路
二章 胎児─Here you are.─
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月の塔

 月ヶ峰駅前の広場から、その建物は見えていた。

 市が誇るランドマーク──『月の塔』と通称される月ヶ峰電波塔だった。

 高さにして300m弱あり、繁華街から少し離れたところに、天に迫らんと聳え立っている。塔の中腹ほどには展望台を備えており、料金を払えば入ることができた。そして今日の目的の場所でもあった。

 バスかタクシーか電車か、それとも多少距離はあるが徒歩にするのか。

 四人の審議の結果、徒歩となった。歩きで、適当に何か喋りながら、歩く速さで様々なものをゆっくりと見ながら向かおう──外を見せたい一人が外を知らない一人の為に提案し、あとの二人はもとから却下の意思はないと、それに同意した。


「月ヶ峰市内で一番高い場所といえば、まああそこだろ」


 汐音は『月の塔』へ行ったことがなかった。遠くから眺めたことはあったものの。

 延寿も遠目に眺めることはしばしばあっても、実際に行ったことは一度しかない。幼い頃に家族に連れられての一度だけである。身近にあり、いつでも行けるが故に、今に至るまで二度目の訪問がなかった。


「東京スカイツリーとかタワーとか、あれらあたりにはさすがに負けるけどな……そこらへんはこれから、後々に行ってみたく思ってる」


 汐音へと、冬真がそう言う。それは二人のこれからの行動予定だった。いつになるかは分からない、けれどいつかは必ず訪れる、そんな予定である。


「真昼ヶ丘の方も余裕で見えるんだぜ。つっても見えたところで、だがな」

「真昼ヶ丘市のほうも……私は……」

「ああ。そのうち行こう。真昼ヶ丘はここと違って治安も良いし、ずっと平和だからな。あっちでなにか恐ろしい殺人事件が起きたという話も聞かないし」


 冬真と汐音、二人の間で今後の予定が積まれていく。それは彼らの将来だった。

 そんな並び歩く彼らの少し後ろについていくように、延寿と花蓮もまた、並んで歩いていた。道行く人の姿は、快晴ということもあり多い。種々の人々が雑多な会話を残し、延寿たちの傍を過ぎていく。


「お似合いだと思わない?」


 ひひ、と花蓮は延寿を見上げ、イタズラっぽく含み笑いした。延寿の返答は微かな笑みだった。


「どっちかってーと親心だなー、今のあたしの気持ちとしては。とーまのやつがあんな優しさを見せるようになったんだなーとか、汐音ちゃんも嬉しそうにしてるー、だとかっ」

「俺も、そうなのだろうか」


 晴れやかな陽光が、前を歩む二人の上に降り注いでいる。

 天ですら彼と彼女を祝福しているように、延寿には見えた。当然だ。すべきことなのだ。彼彼女に待ち受けるは幸せただそれだけであるのだから。

 大柄なサラリーマンが休日だというのにスーツを着て、鞄を片手に前方からやって来ている。その傍には他人事のような表情で女子高生が二人組。制服からして、口木高校の生徒だった。


「……その場合、よっちんは父親ってことになる?」

「ああ」

「じゃ、じゃあ……母親は、あたし?」


 言葉尻は、恐る恐るとしたものだった。

 花蓮にとってその質問は勇気のいるものだということは、延寿にも理解できた。何人もの人々が、延寿の傍を過ぎていく。


「この状況下で、きみ以外に誰がいる」

 

 延寿は微かに笑いながら、そう答えた。人が過ぎる。過ぎていく。


「わた

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