親友ト
「そういやよ、巌義のこと驚いたわ」
真剣な表情で眉に皺をよせ、冬真がそう切り出した。
帰宅途中だった。オカミス研究会の活動は「本日の活動はなしだ。由正、亜沙美。来てくれたところ悪いが、早急に帰宅するように」とのこと。
黒郷亜砂美の入部に関しては、あの後すぐにやってきた椿姫が鞄から即座に取り出した入部届に記名し、正式な入部となった。部長である椿姫に用事があったため、新入部員の挨拶はまた後日となり、今に至る。
冬真と花蓮の二人と共に、延寿は帰宅と相成っている。
「或吾高校内だと、二人……いや推定で三人目か……ガイドに殺されちまったやつは」
巌義麻梨は死体で発見された。
路上に倒れていたと、ニュースは報道していた。
あの後だ、と延寿は思う。あの後、あのビルの地下室から巌義麻梨が逃走した後に……何者かに殺された。
月ヶ峰市内の路上で他殺死体。ガイドだろう、と大概の人物は思うだろう。延寿もそのように事態を捉えている。容易に人を殺す可能性として、ガイドの存在はあまりにも適し過ぎている。
「あいつ確かに不思議なところはあったけどさ、それでもなんつーか、衝撃的なニュースだよな。実感わかねえわ」
「……そうだな」
「由正は委員の繋がりとかあっただろうけど、俺そもそもが違うクラスだしあんまし話したことなかったしで……まあ知り合いが殺されるのって、良い気分はしねえわ。花蓮もそう思…………。あー…………そういやよ延寿、俺手芸部入ってただろ? 幽霊部員だったけどさ、あそこ潰れたらしいぜ」
「人数か?」
「ああ。俺含めて三人で、一人辞めちまったんだってよ。そんで俺は幽霊だしで、実質活動している人数が一人だから生徒会の鉄槌が下っちまった」
「気の毒だな」
「俺ぁ別に何ともねえけど。道具さえありゃ家でもできるし」
延寿と冬真が会話している傍で、俯いた花蓮が無言で歩いている。巌義麻梨という──仲が悪いわけでもないクラスメイトが殺された。そしてまだ間もないのだ。
延寿や冬真のように話題にできるものもいれば、そうできない状態に陥っている者もいる。花蓮の無言から冬真と延寿は心境を察し、急に話題が打ち切られるというなんとも不器用な形で二人の心遣いは為された。
会話が途切れ、しばしの間。
「……ううん。いいよ、気にしないで」
気まずい沈黙に満ちてきた矢先に、花蓮は自身を察してくれた二人へそう笑みを向けた。か細い笑みとしか映らなかった。
「あ、ああ。わりいな……」
「……」
そして歩む三人の間にまたもや沈黙が訪れ、数秒。
「と、突然だが変なことを尋ねても良いだろうか、お二方」
妙に改まった口調と態度で切り出し、冬真は気恥ずかしげに頭を掻いた。
「なに?」
花蓮が言葉で発し、延寿が視線で何事だ、と問う。
冬真は二名の疑問に満ちた視線を受け、バツが悪そうにハハと苦笑いし、忙しなく頭を掻き、頬を掻き、ゆっくりと……
「運命の出会いって、あると思うか?」
そんな言葉を。
「とーま……変なものでも食べた?」
「未来が予め定まっているものとは思えない」
二名からそれぞれ真剣な心配と後ろ向きの返答を受け、冬真は「ああ自覚してるよ自分でも意味の分かんねえ上にこっぱずかしいこと言ってるってのはよ」と表情を歪めた。
「でもあるんだよ。運命の出会いは、あるんだ」
だが、それでも冬真の言葉は引き下がらなかった。
そこに譲れない何かを感じ取ったのか、花蓮が怪訝な表情で、「まさかとーま……」
「ああ。俺だ。俺が、運命の出逢いをした」
そう言うと、やはり恥ずかしかったのか、あー……と呻いて空を見上げた。今日は珍しくの晴れだった。




