会話ノⅠ─教室内─
夕暮れの街並みの一画にある、校舎内の一室。
放課後のチャイムが鳴り渡り、生徒達は学業から束の間の解放をされた。ざわざわと教室内を喧騒が満たし始めた。
黒髪の女子生徒が一人、席に着いて退屈そうにスマートフォンの画面を眺めていた。画面上には無機質な文章の羅列が続いている。
「あ、それ。『なる』でしょ。知ってるよ」
偶然目に入ったのか、隣の席の女子生徒が朗らかな笑みを浮かべて言う。
「へえ。芙月ちゃんも、読むんだ?」
黒髪の女子生徒の言葉に、芙月と呼ばれた隣席の女子生徒は「うん。たまにね。『なる』とか『カキヨミ』でさ、ときどきミステリーとか推理小説を漁ったりするから。私、探偵もの好きだし。ねえねえ、何のジャンル読むの?」
「ワタシはー……やっぱり異世界ファンタジーかな。『なる』と言ったらやっぱり異世界ファンタジーってところがあるでしょ。ケーキ屋でショートケーキを頼むような感じ? よく分かんないけど」
「あはは。あんまり見ない私でも、web小説と云ったら異世界ファンタジーのイメージだからなー。そんな感じかも」
「芙月ちゃんも読んでみる?」
「どんなタイトルなの?」
「『勇者は姫すら愛さない』ってタイトル。有名どころじゃないけど、中々だよ」
「へえー。読んでみよっかなあ、私も」
「うんうん。あでも、ケーキの例えしたらケーキ食べたくなった感あるかも、ワタシ」
「行ってみる?」
「行こ行こ。通りのところでちょうどケーキ屋さんできたでしょ。あそこ行ってみたかったんだ」
女子生徒二人は鞄を取り、教室を出て行った。