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1095日、経った。
6月13日の月ヶ峰市には、無数の雨の粒が柔らかく降っていた。例年通りの梅雨入りだと天気予報では述べられていた。
空が昏い。街は薄暗い。薄闇が満ちている。降ってきた雨に歩を早める彼ら彼女ら知らない者たちの表情にも陰りが見える。暗い。この街は薄暗い。寒々しく、白々しく、息苦しい。
──この街って、息苦しいね。空は圧し潰してきそうだし、建物だって、すぐそこまで迫ってきてる。そのうち挟まれてぺしゃんこにされて、薄っぺらくなってしまいそう。
「ああ……」
外、雨が傘を打つ路上に立ち呆け、……きみは、傘を差していない。
きみがかぶる黒いキャペリン帽には大粒の雨が途切れず弾け、白すぎるのは嫌だからと好んだ黒のワンピースと黒いパンプスは、この雨のもとでは寒々しく映る。
「寒くはないのか?」
──ううん。ちっとも。
「俺の傘を」
──必要ないよ。ふふ、止めておきなさい。きみの頭のおかしさを周りに主張するだけ。
気丈な様子で、きみは首を横に振る。寒くないはずがないというのに。
そこは、凍えるように寒い場所なのだろう? 雨が湿気を増長させ、纏わりつくように不愉快な暑さがある俺がいるこの退屈な場所よりも、寒い場所だ。
だから、早く……きみを、そこから連れ出す。
いくら退屈だからって、凍えるように寒いよりは遥かにマシだ。
それまで、待っていてくれ。
奥から、駆けてくる人間が見える。
……待っていてくれ。
──うん。お願いね。
その笑みは、決意を固めさせるに充分だった。
迷いはない。迷いはない。手伝えというのなら手伝ってやろう。投げられる誹謗は全て被る。やってみせる。この行いが決して良い方向へ転がっていくわけがないと予想できていてもなおだ。
可能性が、俺の手の届く先に見えたのだ。