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キミモ異世界イキタインデショ?  作者: 乃生一路
一章 旅人─Far away from here.─
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次の日

「よく殺されなかったな」


 昼休み。風紀委員長である椿姫に呼び出された延寿が小会議室の扉を開けると、開口一番にそう言われた。声の主である椿姫と、その傍に麻梨の姿があった。


「俺も花蓮も、運が良かった」


 延寿は正直に述べる。実際そうだ。運が良かった。悪ければ今頃死体だ。


「恐ろしかったか?」

「…………とても」

「ははあ。怖いもの知らずのお前ですら怖がるとはな……ガイドは危険すぎるわけだ。当然か。もう何人だろうな……関与しているかどうか不明瞭なのも合わせれば、十を超えない辺りか」


 椿姫は楽しげに言うと、「まあ良かったよ。お前の死体を見ずに済んで」と言い足した。


「けれどどうして知っているんですか」


 『案内人(ガイド)』に遭遇したことを、延寿は椿姫にも麻梨にも言っていない。ならば花蓮が言ったのだろうけれど、彼女は今日、身体を冷やしたせいか熱を出して休みだ。


「私が聞いたのです」


 すらりと綺麗な挙手と共に、麻梨が薄笑いを浮かべている。本当はそうではないのかもしれないけれど、延寿にはどうも、麻梨の笑みはいつも薄く映った。


「昨日、ガイドに人が殺されました。繁華街でした。私、見てました。延寿さんたちと別れたすぐ後のことでした。繁華街に入って通りを歩きつつ、私がWWDW関連で路地裏を覗き込んでいたときです。悲鳴が聞こえて振り返ると、真っ黒なレインコートが一人の男性を追いかけていました。私が来た方向から、でした──そして思ったのです」


 両手を組み、天井の電灯辺りを見上げ、芝居めいた動作で、


「もしや延寿さんたちもガイドに遭遇してしまったのでは、と」


 楽しそうだ、と延寿は思った。楽しむ話題ではないのに。


「そこで心配になった私はWWDWについてはその場で切り上げ、すぐに帰宅しました──あ、追いかけられていた男性はきちんと殺されましたよ。ネットで探せば画像もあるはずです。動画もあるかもです。降り頻る雨のもと、必死に逃げようとする男性の首をまず、ガイドが追い抜きざまに刎ねました。黒ひげ危機一髪みたいにぽーんと血しぶきと共に飛んでいく生首が地面に着地するよりも前に、ガイドは急激な方向転換をして首のない身体へ向き直り、あっという間に四肢を飛ばしたのです。人間業じゃありません。最初にダルマが地面に倒れ、その上に最初に刎ね飛ばした生首が華麗に着地し、その周囲に円状に等間隔で腕が二本、脚が二本落下し──なんと、自立したんです! ストーンヘンジを私は思い浮かべました。人間を用いた現代アートの完成した瞬間を目撃した気分でした。彼もまた、異世界へ向かったのでしょうか。四肢はきちんと戻ったのでしょうか……その後ガイドは、なんというかぼんやりとした様子で曇った空を仰いでいました。数秒止まっていましたけれど、私たち一般市民は全く近づけず、取り押さえることもできず……だって怖かったんですもの。不用意に捕まえようとして自分が人体アートにされるなんて嫌ですし……ですが、私は満足してます。なんたって珍しいものを見れました。人の身体を使った現代アートだなんて世間が許しませんから」


 ほくほくと熱っぽく語る麻梨へ、「悪趣味だ」と延寿は言い捨てた。


「悪趣味だなんて……実際、そう思ったのだから仕方ないじゃないですか」


 拗ねたように唇を尖らせると、麻梨は「そうそう、なぜ延寿さんたちが遭遇したのを知っているかでしたね。延寿さんが怒るから話を戻しますよ」とジト目で延寿を睨みつけた。


「鷲巣さんに聞いたのです。延寿さんの連絡先を私は知りませんから」


 延寿と麻梨は連絡先を交換していない。

 電話番号もメッセージアプリも知らない。


「延寿さんの連絡先を私は知りませんから」


 二度繰り返し、麻梨は延寿を窺う。

 何か言葉を求められているのだろうけど延寿は見当がつかなかった。


「教えた憶えがないからな」


 だからそう言うと、落胆したように麻梨は「それで知りました。そして獅子舘委員長に伝えました。以上です。以上がことの経緯でーす。延寿さんも鷲巣さんも生きてて良かったと思います。はい」つまらなそうに話を締めた。


「まあそういうわけだ」


 椿姫が笑いつつ言い、


「ガイドの正体を突き止めるという目的に関しては中止にしよう。危険すぎるからな。好奇心で殺される典型的な例のように思える」


 オカミス同好会の一つ目の目的はあっさりと中止になった。

 

「では獅子舘委員長、延寿さんをお借りしてもよろしいですか」


 麻梨がきらきらとした顔でそう申し出た。


WWDW(イセカイ)の件か?」

「はい! 昨日、私と延寿さんはパートナーになりました。だから手を取り合い、WWDWに関わる所存です!」


 そうか、と椿姫は延寿を一瞥すると、「ちょうど二つ目の目的がソレだ。使ってやってくれ」


「承知しました──延寿さんもそれでいいですか?」

「構わない。どちらにしろ俺も調べるつもりだった」


 にこやかな笑みを──薄く見えない笑みだった──浮かべて麻梨は、


「それじゃあ延寿さん、今日私と一緒に街の方へ行きましょう」


 そう言う。「金曜ですし、週末ですし、珍しく晴れてますし」


「分かった」

「良い返事ですっ、よろしくお願いします」


 そうして放課後帰宅した後私服に着替え、繁華街で待ち合わせする手筈となった。


「頼もしき風紀委員の同胞たちよ、良い報せを期待する。あまり遅くなるようなら傘を持って行った方が良い。夜中から雨が降ると予報されていた」

 

 椿姫の言葉に、麻梨が「はいっ」とさも楽しげに答え、延寿は鉄仮面のような表情で頷いた。

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