「主ヨ、
──ああ、私は鳥になる夢を見ました。
──白く、真っ白な鳥。小さく可愛らしい鳥。
──私は烏だと。
──そう、は、有らんと、しております。
真実、そうだったのかは彼女にしか判らない。
気づいた頃には、同化していた。
父も母も気づかずに、奇跡はとうに起こっていたのだ。
そうして、知った。
ヒトの言葉を発せない、祈る言葉を口にできない彼女とて。
一羽の小さな烏とてまた────祈るのだ。
無言の中、孤独な部屋に、永遠に仰臥することとなった一人の化学者の為に。
だから小さな生命は羽搏いて、ありもしない虚無を追いかけた。
だから眼前には巨大な手が迫り、私たちは圧し潰された。
私たち。そう。私たちは。
彼に安らぎを────そう祈り。
彼の望みを────そう継いだ。
「……あなたの為に、永遠を」
血に塗れた部屋の中で、仰向けに目を瞑る一人の……もうさほど大人と変わらない面差しの青年を、一人の女が、聖母のように慈しみ深く、口元に微笑みを携えた。
幸いなことに、今、彼の眠りは永遠ではない。
目覚めたときに、事態を知るだろう。
「ジッケンの成果を、お見せします」
何も亡くしてはいなかったのだ、と。
──私の全てはあなたの為に。
──やさしく、かなしい。私たちの、お父様。
見下ろす顔に、幼さの残る笑みが表出する。
銀色のフレームの下に、過去への郷愁を瞳が湛える。
──一画を失くしつつある私はそう、思っています。
昔々に誰かが為せなかった未完成を引き継いで。
子どもみたいに終わりに震えた誰かがもう怯えなくても済むように。