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私たちは〝慈善家〟だった。
私たちは罪を重ねた〝共犯者〟だ。
そうして今は──〝人殺し〟が、二人。
尊く可愛らしい──今となっては無意味になった──犠牲を払い、私たちの得たものは気の毒な亡骸たちだけ。
ミカナ。カレン。マリ。トウマ。ツバキ。ごめんなさい。……ごめんなさい。あなたたちの死に、私たちは結局、結局、意味を与えられませんでした。あなたたちの死は無意味です。私たちの考えが甘かったせいで。本当に、ごめんなさい。
本当……ぜんぶ、わたしたちの、せい。
終わりは着実に近づいてくる。
そうと気づいた時にはもう、目の前に佇んでいる。
満を持してやってきた結末に対し、ようこそ、と私は微笑み、出迎えるほかない。いかに心中でお帰り願いたく思っても彼らは絶対だ。抗いようのないものだと、〝生きる〟なんて言葉が適用されるモノならみんな本能的に知っている。逃げられはしない。逃げたりは、できなかったんだよ……結局、そう。どう足掻いても。
ただ結末は、一足お先に彼の方を訪れていたようだ。
私と彼の二人は固い絆で結ばれていた。
私の右腕と彼の左腕と──あるいは私の左腕と彼の右腕とを──あるいはその両方を私たちは向かい合わせで両腕を────ぐるぐると縛って、結び目は乱暴に、強く、固く、ぎゅうと力が込められていて。もう誰にも解けない。それぐらいの絆。
そんな彼は私よりも神に一層の愛を寄せられてしまい、お迎えも早められてしまった。
賑やかだった時期を過去として持ち合わせる屋敷で、私たちだけになってしまった私たちの故郷の一室で今、彼は仰臥している。
仰向けの彼を見た瞬間、私はひとつの結末を理解した。
ああ、〝怖いもの〟が、遂に、やってきてしまった──と。
窓は開かれていた。彼が開け放ったのだ。
眠るように目をつむる彼を、暫く私は見つめていた。さしたる哀しみは湧かず、ただどうするかを考えていたと思う。これから私は、いったいどうしよう? 解けない絆で結ばれた相手がもう動かなくなってしまった、動くのは私だけ、私の生に、あの子たちと彼の重みが加わり、その重さに耐えながらの未来が続いている、なら、どうしよう? と────すると、だった。
彼の身体が、燐光をおぼろに纏った。
目を見張る私の眼の前に、燐光は一か所に集まり、まるで虹が一滴の粒を落としたかのような球体が浮かんでいた。
────魂、だ。
そんなものはない。
でも、思ったのは確かだ。
直感が私に、私が否定する想定を生み出させた。
──ああ、私、私は、今、どんな神経細胞の振る舞いを経て、
──目の前の、視えはしない、ありもしない、虚無を像として映しているのか。
──信じられない。
──分かりようがない。
──説明がつけられない。
呆然と見る私の眼の前で、
ゆっくりと、〝魂〟は動き出し、
背景から切り離されたソレは窓から外に出て、
昇っていく。
その様を私は見るしかできない。
──神の名を出せば、この状況を語ることができる。
──これを〝神さまの不可思議な御業〟だと説明してしまえば。
──彼はきっと不機嫌になるんだろうけど。
〝魂〟を追うように──小鳥が羽ばたいた。
彼の飼っていた、一羽の愛らしい小さな命が、追いかけゆく。
籠の出入り口は常に開け放たれて──彼は彼女の自由を束縛しようとせず、彼女もまた自由を得てなお彼から離れなかった──いたから、彼女は彼を追いかけた。
私はその様子を、窓から眺め上げていた。
胸に込み上げていたのは、ある種の感動だった。一瞬で目を奪われてしまった。魂──とても綺麗な虹色を、真っ白な小鳥が追いかけていく。彼から発された綺麗な虹色を得ようとするかのように、追いかけていく。
「カナデ……」
羨ましかった。
私も欲しかった。
あの綺麗な虹を手にしたかった。
でも私は飛べなかった。
私に追いかける翼はなかった。
見ているしかなかった。
今この瞬間、あの魂を受け継げるのはあの小鳥だけだった。
あの小さな鳥はあんなにも必死に、追いつこうと追いかけようと羽ばたいている。
なのに。
蒼天から大きな、大きな手が現われて、
魂と小鳥とを、一緒くたに握りつぶしてしまった。
「……」
大きな手、欲張りな手。
誰かは、分からない。……分かりませんが。
私は、あなたが、嫌いだ。
とても、とても、嫌い。
期限なんて作って朝を迎えさせてくれず、
私たちから綺麗なものを奪いゆく親愛なる神さま、
彼はあなたを憎み、恐れていました。
私はあなたを嫌い、意趣返しをしたく思っています。
でもどうか、お気を悪くなさらないよう。
全能なる主よ、
怨まれ呪われるのもまた、
あなたの役目なのでしょう?