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キミモ異世界イキタインデショ?  作者: 乃生一路
四章 犯人─Legit lunatic "I'm the Guide."─
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 私たちは〝慈善家〟だった。


 私たちは罪を重ねた〝共犯者〟だ。 


 そうして今は──〝人殺し〟が、二人。


 尊く可愛らしい──今となっては無意味になった──犠牲を払い、私たちの得たものは気の毒な亡骸たちだけ。

 ミカナ。カレン。マリ。トウマ。ツバキ。ごめんなさい。……ごめんなさい。あなたたちの死に、私たちは結局、結局、意味を与えられませんでした。あなたたちの死は無意味です。私たちの考えが甘かったせいで。本当に、ごめんなさい。


 本当……ぜんぶ、わたしたちの、せい。


 終わりは着実に近づいてくる。

 そうと気づいた時にはもう、目の前に佇んでいる。

 満を持してやってきた結末に対し、ようこそ、と私は微笑み、出迎えるほかない。いかに心中でお帰り願いたく思っても彼らは絶対だ。抗いようのないものだと、〝生きる〟なんて言葉が適用されるモノならみんな本能的に知っている。逃げられはしない。逃げたりは、できなかったんだよ……結局、そう。どう足掻いても。


 ただ結末は、一足お先に彼の方を訪れていたようだ。


 私と彼の二人は固い絆で結ばれていた。

 私の右腕と彼の左腕と──あるいは私の左腕と彼の右腕とを──あるいはその両方を私たちは向かい合わせで両腕を────ぐるぐると縛って、結び目は乱暴に、強く、固く、ぎゅうと力が込められていて。もう誰にも解けない。それぐらいの絆。

 そんな彼は私よりも神に一層の愛を寄せられてしまい、お迎えも早められてしまった。

 賑やかだった時期を過去として持ち合わせる屋敷で、私たちだけになってしまった私たちの故郷の一室で今、彼は仰臥している。

 仰向けの彼を見た瞬間、私はひとつの結末を理解した。


 ああ、〝怖いもの〟が、遂に、やってきてしまった──と。


 窓は開かれていた。彼が開け放ったのだ。

 眠る()()()目をつむる彼を、暫く私は見つめていた。さしたる哀しみは湧かず、ただ()()するかを考えていたと思う。これから私は、いったいどうしよう? 解けない絆で結ばれた相手がもう動かなくなってしまった、動くのは私だけ、私の生に、あの子たちと彼の重みが加わり、その重さに耐えながらの未来が続いている、なら、どうしよう? と────すると、だった。


 彼の身体が、燐光をおぼろに纏った。

 目を見張る私の眼の前に、燐光は一か所に集まり、まるで虹が一滴の粒を落としたかのような球体が浮かんでいた。


 ────魂、だ。


 そんなものはない。

 でも、思ったのは確かだ。

 直感が私に、私が否定する想定を生み出させた。


 ──ああ、私、私は、今、どんな神経細胞の振る舞いを経て、

 ──目の前の、視えはしない、ありもしない、虚無を像として映しているのか。

 ──信じられない。

 ──分かりようがない。

 ──説明がつけられない。


 呆然と見る私の眼の前で、

 ゆっくりと、〝魂〟は動き出し、

 背景から切り離されたソレは窓から外に出て、

 

 昇っていく。


 その様を私は見るしかできない。

 

 ──神の名を出せば、この状況を語ることができる。

 ──これを〝神さまの不可思議な御業〟だと説明してしまえば。

 ──彼はきっと不機嫌になるんだろうけど。


 〝魂〟を追うように──小鳥が羽ばたいた。


 彼の飼っていた、一羽の愛らしい小さな命が、追いかけゆく。

 籠の出入り口は常に開け放たれて──彼は彼女の自由を束縛しようとせず、彼女もまた自由を得てなお彼から離れなかった──いたから、彼女は彼を追いかけた。


 私はその様子を、窓から眺め上げていた。

 胸に込み上げていたのは、ある種の感動だった。一瞬で目を奪われてしまった。魂──とても綺麗な虹色を、真っ白な小鳥が追いかけていく。彼から発された綺麗な虹色を得ようとするかのように、追いかけていく。


「カナデ……」


 羨ましかった。

 私も欲しかった。

 あの綺麗な虹を手にしたかった。

 でも私は飛べなかった。

 私に追いかける翼はなかった。

 見ているしかなかった。

 今この瞬間、あの魂を受け継げるのはあの小鳥だけだった。


 あの小さな鳥はあんなにも必死に、追いつこうと追いかけようと羽ばたいている。


 なのに。


 蒼天から大きな、大きな手が現われて、

 魂と小鳥とを、一緒くたに握りつぶしてしまった。


「……」


 大きな手、欲張りな手。

 誰かは、分からない。……分かりませんが。

 私は、あなたが、嫌いだ。

 とても、とても、嫌い。

 期限なんて作って朝を迎えさせてくれず、

 私たちから綺麗なものを奪いゆく親愛なる神さま、

 彼はあなたを憎み、恐れていました。

 私はあなたを嫌い、意趣返しをしたく思っています。


 でもどうか、お気を悪くなさらないよう。


 全能なる主よ、

 怨まれ呪われるのもまた、

 あなたの役目なのでしょう?

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