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風の音  作者: 燦〜aki〜
2人だけのライブとココア
7/8

2人だけのライブとココア














ピロンッ


"mi から新着メッセージが一件あります"


スマホを手に取る


ついにあと10時間後


いつもの駅で待ち合わせである


mi


『緊張してきました…

もし上手く歌えなくても笑わないでくださいね?

いつもの駅で18時に待ってます!』


我、幸せである


いつもの癖で早く起きてしまいやる事がない


ワイ『掃除でもするかぁ』


と呟いて クイックルワイパーを手に取る


床を磨いていると


脳内には彼女との会話が再生されていた。


彼女『お仕事がんばってください!』


彼女『もう一回だけ私の歌聞いてくれませんか!』


彼女『見つけた時…すごい嬉しくて…』


彼女『LINE聞いても い…いいですか?』


彼女『す、好きです!』


我、幸せである


最後の一言は完全なる妄想であるが


いつか言われてみたいなぁ


と心で呟いた



午前中に家事を終わらせ


コンビニの弁当を食べ


あと、6時間…


刻一刻とその時が近づく


昨日の夜入念にチェックした


このあと着る服


タグが付いてないか


シールとか貼ってあったりしないか


榊原はこの組み合わせでいいって言ってたけど


本当にこれでいいのだろうか


ちょっとチャラすぎるかもしれない


若い女の子とはいえ純粋な彼女には


この格好で行っていいのだろうか


いや あえてこれが大人なのだぞ


クールでかっこいい


でも少しアクセントで遊び心がある


榊原チョイスがやっぱりいいのか


んーーーー


って考えながらコーヒーを飲んでいたら


約束の時間まで2時間となっていた


ワイ『ハッ!そろそろ支度を』


2時間前から


歩いて7分ほどの駅に行くのに準備するのは


これが初である


シャワー浴びて


髪をセットし


歯を磨いて


榊原チョイスの服に身を包み


元カノに貰った香水をふりかけ


コーヒーを淹れ


コーヒーを飲みつつタバコを吸い


歯を磨いて


ワイ『よ、よし。行くか…』


時刻は17:10


普段だったら早すぎると思うが


家にいてもソワソワしてしょうがない


彼女に楽しみにしていると連絡をし


家を出る


気持ちが高ぶる


足取りが軽い


不安もあるが楽しみで仕方がない


どんな歌歌ってくれるのかな


恋愛ソングだったらどうしよう


俺に宛てて歌ってくれるとか?


え、え、どうしよう


告白されたりとかしたら


いやいやそんなこと


あるのかなぁ?


心の準備ができない…


即オッケー出さなきゃな


初めて歌聞いた時から好きでした!


いややっぱり告白は男からするもんか


いける…いけるぞ立花


年の差?関係ない関係ない


ラブストーリーは突然にって歌もあるぐらいだ


なんせ今日のワイは決まっている!


総額いくらからわからないが


あの榊原様チョイスだ


俺にも春が訪れるんだ!!


そんな脳内ハッピーセットをレンジで爆発させたような


妄想をしていたら駅に到着した


彼女の姿はまだない


コンビニに寄り


いつもの缶コーヒーとブレスケアを購入し


初めて彼女を見かけた時


彼女が座っていたベンチに腰掛ける


時刻は17:20を回ったところ


太陽が傾き始めだんだんオレンジがかった


綺麗な空に変わってきている


LINEのアプリを開く


彼女からはまだ連絡はない


ウキウキしてしょうがなかった




時刻は18:56


約束の時間から1時間が経過しようとしていた


あたりはもう暗くなり


缶コーヒーは完全に冷え切っていた


ブレスケアを含みすぎた口は痺れ始めている


彼女からの連絡はない


不安が押し寄せてきてしょうがない


事故にあってしまったのではないか


急に体調が悪くなり病院に行ったのか


やはり見ず知らずの男と2人で会うことに


不安を感じてしまい来ないのか


そう考えて止まらない


やはり暖かくなってきたとは言え


日が落ちてしまえば


そこそこ冷えてくる


パーカー一枚ぐらい羽織ってくればよかった


ため息が出る


時刻は約束の時間から1時間が経過した


一回帰って上着取ってこよう


そう思って立ち上がった時


電車が到着した


改札から仕事を終えたのか


休日を過ごし帰ってきたのか


沢山の人が流れてきた


ワイ『戻ろう』


沢山の人達がワイを冷たい目で見てる気がした


虚しくなった


その時


人の群れの中にギターケースがちょこんと出てるのに


気がついた


心臓がドクンと音を立てた


ギターケースが近づいてくる


彼女だった


彼女は息を切らしながら震えた声で


彼女『ご…ごめんなさいぃ 遅れてしまい…連絡もできなくて…でも聴いてもらいたくて…』


ワイ『だ、大丈夫大丈夫…よかった事故に遭ったかと思って心配してたんだ…よかったよ』


彼女が顔を上げる


ワイは固まってしまった


首元にはあざがあり


頬には擦り傷


よく見ると手首や手の甲にもあざがあった


ワイ『ど…どうしたのそのあざ!』


彼女『あ、これは…』


彼女『階段でこけちゃいました!』


彼女は嘘をついてる


すぐにわかった



指摘することができない


無理して作っているその笑顔は


とても無邪気で


優しい嘘のような笑顔だった


彼女『よかったです…帰っちゃってたと思ってました』


ワイ『う、うん約束したから帰りはしないけど…でも本当に大丈夫?手当てしなくて平気なの?』


彼女『ほんとうに大丈夫です!私は大丈夫ですので、あ、えーと立花さん?は大丈夫ですか?寒かったですよね?』


始めて立花さんと呼んでもらえた


LINEの名前にしているからであろう


よくよく考えたら彼女の名前も知らなかった


が…そんなことより


さっきとは違う不安が押し寄せてきていた


ワイ『俺は全然平気だよ?とりあえず待ってて!』


ワイは彼女の返答を待たずにコンビニに走った


絆創膏と水とホットココアを買って


急いで彼女の元に戻る


ワイ『これ使って?ばい菌入っちゃうかもだし』


彼女『あ、ありがとうございます…』


そう言って彼女は小さな手鏡を出し


絆創膏を頬につけた


彼女『なんかやんちゃな男の子みたいですね!』


彼女は笑顔で言う


少しホッとした


彼女『今日のためにいっぱい練習したんです!聴いてもらえますか?』


ワイ『も、もちろんもちろん!是非聞かせてよ!』


彼女『わかりました!じゃ準備しますね!』


と言い彼女はギターケースから


アコースティックギターを取り出し


ピックを口にくわえ


手首についていた髪ゴムで髪を縛った


その仕草がなんともセクシーで


魅力的で


とてもいい匂いがs


彼女『で…では…聴いてください…』


彼女は見るからに緊張していた


それを見るワイも気が引き締まる


どんな顔をすればいいのかなぁ


てか今ワイどんな顔してる?!


さっきのいい匂いのせいで鼻の下伸びてないかな?



人が散った駅の広場に


綺麗な音が流れ始めた


柔らかい音


左手が弦を滑って鳴るキュッて音すらも


心地が良い


彼女が歌い出す


僕の耳は彼女の弾くギターの音と


彼女の声だけを拾っていた


周りの音は何も聞こえない


綺麗な音と


優しい歌声だけが耳に入ってくる


街灯が彼女だけを照らしているように思えた


たかが駅の広場のベンチだが


ライブ会場のように


彼女の声が響き、彼女にスポットライトが当たっていた


幸せな気持ちになれた


幸せな気持ちのまま


曲が終わっていた


彼女『ど、どうでした?』


ワイ『すごいよかったよ…言葉に表しづらいんだけど…なんていうか…幸せな気持ちになってる』


彼女『ありがとうございます…でもやっぱり恥ずかしいですね…近くで見られながら歌うの…』


ワイ『え…そんなに俺見てた?ご…ごめんなんかやり辛かったでしょ…』


彼女『い…いえそんな!すごい嬉しいです!』


よかった


彼女『あ、あの…もう一曲歌ってもいいですか?』


ワイ『もちろん!是非歌ってほしいな!』


彼女『次の曲は自分で作詞作曲したんです…恥ずかしいので人前でまだ歌ったことないんですけど』


ワイ『え…そんな大事な曲 僕が聴いていいの?』


彼女『是非立花さんに聴いてもらいたいと思って…』


ワイ『僕でよければ…』


彼女『こっちに来る前に書いた曲なんです…』


彼女『じゃ…お願いします。変だったりしたらあとで教えてください』


ワイは頷く


曲のタイトルは未定らしい


優しいはじまり


ギターの音だけで優しさが伝わってくるような音


彼女が歌い出す


彼女らしい歌詞だった


上京の時の期待と不安がその声だけでわかった


サビを迎えたところで彼女の声が震える


涙が伝うのがわかった


彼女の手が止まり


涙がギターに落ちた


彼女がすすり泣く


ワイは彼女の背中を無意識にさすっていた


ただただ彼女が心配になった


ワイ『大丈夫?』


彼女は背中を震わせている


風が吹く


少し肌寒いが心地が良い


沈黙の中彼女のすすり泣く声だけが響いていた


彼女が落ち着いてきたようだ


ワイ『と、とりあえずココア飲む?』


彼女『ありがとう…ございます』


彼女が水を少しのみ


沈黙が続いてしまった


ワイ『すごいよかったよ…上京に期待してる女の子が不安も抱えながら夢を追うのが伝わったよ!』


彼女はうつむいたままだ


なんとか元気になってもらいたい


きっと彼女は不安なんだろうと思った


その時彼女が声を出した


彼女『私、怖くて…夢を追うのも…1人でいるのも…』


彼女『わたし…どうしていいのか…』


彼女がまた泣き出してしまう


彼女『わたし…わたし…』


彼女が何かを言い切る前に


僕は彼女を抱きしめていた




風が吹いた 樹の葉っぱたちがサラサラと音を鳴らしている




甘いココアの匂いがした


















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