待望の非日常と不安
案の定 翌朝の目覚めは悪かった
連絡するべきか
するとしたらどういう内容にするべきか
と考えるうちに日が昇っていた
結局 連絡はできていない
出勤してパソコンに向かう
今日は早く帰って寝たい
ふと考えたが
今日の仕事のノルマを見て諦めた
仕事中 ふとスマホを見てはLINEの画面を開く
連絡はない
不安になってきていた
彼女のLINEのアイコンは
柔らかいタッチで描かれたアコースティックギター
名前のところは mi とだけ表示されてある
今日だけで何回見たのだろう
このアイコンと名前を見るたびに
実際はLINEを聞かれる前にKOされていて
昨日のことは妄想だったのではないか
とか
帰った後よくよく考えたら
やっぱり気持ち悪いと感じてしまい
ブロックされたのではないか
とか
そもそも彼氏がいて2人で同棲していて
あのあとよろしくやっていたのではないか
とか
妄想が膨らむばかり
根っからのネガティヴ思考である
いやもともとはこんなんじゃなかったはず
そもそも6つも年下の女の子と
話すことがすでにいけないことだと感じているからか
こんなネガティヴ思考に至ったのであろう
と自己完結した
自己完結できたからと言って
切り替えができて
連絡をする とはならない自分に
ため息が出る
新入社員『どぉしたんすかぁ先輩ぃ暗い顔してぇ!
運気落ちますよ!そんな顔してたらいつまでたっても彼女できないですよ!』
こ…こいつ…
図星すぎて腹をたてる事すらもできなかった
ワイ『少しは新入社員らしくしろよ榊原…俺先輩だぞ?敬え馬鹿野郎ぉ…』
榊原『だってぇ先輩がため息ばっかつくから気が散って全然仕事進まないんですもん(笑) 悩みがあるなら聞きますよぉ!今度飲み連れてってください!』
若さ全開の子犬みたいな笑顔で見てくる
イケメンでありながらポジティブ思考で
大学ノリが抜けていないコイツに
嫉妬すら感じてしまっていた
情けない…
またため息が出た
ワイ『それ奢ってもらいてぇだけだろ!調子いい事いいがって、そんなことより仕事し…』
先輩『うるせーぞぉ お前らぁ無駄口叩いてる暇あったらキーボード叩け馬鹿野郎ども』
榊原『うわ!進藤先輩うまいっすね!勉強なります!』
ワイ『すみません!おら仕事しろ』
後ろ側から榊原の教育係の進藤さんに注意された
隣の席の榊原の椅子をくるっと回転させ
パソコンに向かわせる
榊原は鼻歌交じりに仕事を再開した
ふぅと息を吐き落ち着いたところで
スマホを覗き込む
連絡はまだきていない
不安になっている場合ではないと
自分に言い聞かせ仕事を再開する
榊原『お先失礼しまーす!』
新入社員榊原が今日も仕事を残して
先に上がるという
最近できた美大の彼女と映画を観に行くと
昼飯の時に自慢していた事を思い出す
リア充なんて×××××××!!!
と心で叫んだが
その頃には榊原はいなかった
進藤先輩と
198円に値下がりした課長と
いつもの残業タイムが始まる
窓から差し込む夕陽が綺麗だと思った
窓際の198円課長の頭がいつもより輝いていた
そんな事を思いつつ本日初開封の
頼れる味方リポDを開けたと同時に
スマホが鳴る
画面を覗き込む
"mi から一件の新着メッセージがあります"
心臓が高鳴った
昨日初めて感じた感覚とはまた違った感情が湧く
これはあれだ
ギャグ漫画とかでよくある
周りがお花畑で蝶々を追いかける空想シーン
あの感情なのだろう
神様…今日も美味しいリポDをありがとう。
すぐさま画面を開く
LINEのアプリのアイコンを
これでもかというほど連打する
お袋からのどうでもいい
日常報告は未読スルーだが
すぐさま mi のアイコンにタッチしようとした
が
止まる
待て待て
既読になるのが早すぎたらキモいと思われないか?
待ってましたーーー!感が出すぎやしないか?
でも早く確認したい!!
確認したすぎる!!
いやでもやっぱり日曜日ダメでしたとか書いてあったら
仕事ができなくなる
よし
仕事終わってから開けることにしよう
そう決めて
はやる気持ちと好奇心と不安と汗と何かを
抑えつつ
仕事をすることにした
これが捗る捗る
早く見たすぎて捗る捗る
入社して未だかつてこんな早さで
仕事を処理したことがあるのか
というスピードで仕事を終わらせられた
今週最速退勤記録を樹立
オリンピックで もし
男子個人タイピング打り
高速タイムカード切り
の種目があったら間違いなくメダルは獲得したであろう
ワイ『お先に失礼します!』
進藤先輩と198円が驚いた顔をしていたが
気にも留めず退社する
会社近くのちょっとした広場のベンチに座る
恐る恐るスマホ開く
あれからお袋の日常報告がまたあり
LINEの通知の一番上がお袋な事に
多少苛立ちを感じつつ
さっき見た mi からの新着メッセージが
幻ではない事を確認する
緊張した
トーク画面を開くのに10秒はかかった
mi
『昨日一昨日○○駅でお世話になったギターの者です!
まだ仕事ですよね?頑張ってください!
昨日は急にあんなこと言ってすみませんでした!
何か恩返しがしたいと思って私なりに考えて
歌を聴いてもらいたいと思いました!
日曜日楽しみにしてます!!』
5回は読み返した
かわいい絵文字とかわいい文章に
彼女の無邪気な笑顔が浮かんだ
フッと画面が暗くなる
我ながら気持ち悪すぎる顔をしていた
我にかえる
読むだけに自動ロックの3分も費やした事に驚いた。
返信を考える
んーーーーあーーーー
と声を上げながら
ベンチでスマホをみて体を左右に揺らしている
スーツ姿の男がいた
ワイか
自分が見たら動画を撮ってツイッターにあげるレベルだ
進藤『おい!立花!なにしてんだ?』
公園の前の道から進藤先輩が声をかけてきた
ワイ『あ!えーと、ちょっと考え事してました』
進藤『せっかく早く仕事終わらせたのになにしてんだ
終電なくなるぞ』
すでに終電しか残っていない時間になっていた
アホかワイは
ワイ『え!あ!帰ります帰ります!』
進藤『ほら行くぞ!』
家に帰ってから返そう…
帰り道ずっと考えていたが結局まとまらない
既読をつけてからかなり時間が経ってしまった
その事についても話さなきゃ
あーー
と考えてるうちに家について
歯磨きをしてすでに布団にいた
立花
『お疲れ様!今仕事終わって帰ってきたよ!
日曜日楽しみにしてるね!』
結局2行
語彙力の無さに悲しくなる
今日は寝よう…
明日を乗り切れば休みだ
LINEを返して数秒後に
死んだように眠りについた
ピロンッ
通知の効果音はいびきにかき消されていた