春風と約束
彼女が声を発してからどれぐらい経っただろう
そんな事を考えてしまうほど
僕は固まってしまっていた
てっきり僕の脳内の段取りでは
少なからず
家に置かせてくださいという
エロゲ展開を望んでいた為
彼女の発した言葉を理解するのに
時間が経っていた
自分でもわかる程
かなりのアホヅラをしていたと思う
彼女が顔を少しづつあげる
上目遣いの彼女が僕を見る
あ…かわいい
僕は変態なのであろうか…
彼女『ダメ…ですか?…』
彼女が恐る恐る声を出す
ワイ『あ!いや、全然!ちょっとビックリしちゃってた…ハハ…』
彼女『よかったです!断られるかと思ってました』
彼女は目を細めて喜んでいた
今までの経験で感じたことのない感情になった
よく恋愛少女漫画とかにある
キュンッ
という意味のわからない擬音は
このことだったのかと瞬時に納得した
彼女『じゃ、じゃあ早速…』
と言いながらギターケースに手をかける彼女
ワイ『あ、いや…今は流石に…昨日警察の人に注意されたばっかりだしもう12時超えちゃってるし…』
流石に理性はまだあったようだ
自分で自分を褒めてあげたい
彼女『あ…そうですよね…』
悲しそうな彼女の顔が
瞬時に笑顔になり
彼女『結構待ってたんで、見つけた時すごい嬉しくて…すぐに聞いてもらおうと焦っちゃいました!』
ワイのHPがゴリゴリ削られていくのがわかる
いや回復してるのか?
とにかく癒しであった
ワイ『に、日曜日は休みだからさ!昼間の方がたぶん怒られはしないから日曜日に聞かせて?』
これがワイの限界である
今もし彼女の歌を聴いてしまったら
明日生きている保証がない気がした
車に轢かれるか
通り魔にでも刺されて
新聞の隅っこに載っている気がしたからである
彼女『…はい!じゃあ日曜日の夕方ぐらいにここにきます!』
彼女が言葉を発するのに少し間が空いた気がした
少し違和感があったが
予定を考えていたのだろうか
ワイ『とりあえず今日は遅いから帰りな?終電まだあるし、家の人も流石に心配してると思うよ?』
彼女が少しうつむく
まだ気持ちの整理がついていないのだろうか
彼女『…はい!帰ります!ありがとうございます!』
すぐに笑顔になって
ワイはホッとした
彼女『それじゃ…』
彼女がギターケースを小さい背中で背負い
駅の方へ歩いていく
彼女が小さいのかギターケースが大きいのか
彼女が歩いていくというよりは
ギターケースが左右に揺れながら進んでいた
ワイ『あ…連絡先…』
小さい声で呟いた
ま、いいか日曜日聞けばいいし
いやいやいやいやいやいや
彼女は僕と連絡交換したいなんて思ってないかもしれない
やっぱ男の人ってヤリモクなんだって思われるやん
アホか!
と一人で脳内でエセ関西弁で一人漫才をしていた
ギターケースから目線を帰り道に向けた
その時
彼女『あ!!!!』
ギターケースが振り返り
ギターケースに貼り付けにされているような彼女が
こっちに向かって走ってくる
ワイの前でピタッ止まって
少し照れ臭そうに
彼女『LINE…教えて貰っても い…いいですか?』
上目遣い悩殺ハートブレイクショット
これには一歩もKOだろう
え、なに?なに?おじさん期待しちゃうよ?
天然なの?策略なの?どっちなの?
ワイ『も…もちろんっ!』
最初の も だけ裏返ってしまったが
鼻血を出して倒れなかった事を
どうか褒めて欲しい
LINEを交換してからはよく覚えていない
彼女が急いで駅に向かっていくのを
ボーッと見つめていた
去り際彼女が何か話していたが
なんだったっけ?
それよりLINEを交換したことにより
ここは俺が大人な雰囲気を出しつつ
先に連絡するべきか
連絡するならなんて言葉が適切なのか
ってのを考えていた
ふと夜空を見上げる
ああ今日も寝れないんだろうなぁ
風が吹いた 樹の葉っぱたちがサラサラと音を鳴らしている
心地よかった