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風の音  作者: 燦〜aki〜
2人だけのライブとココア
2/8

風が通った気がした










翌朝、いつもよりも起きるのが辛かった


なんだかんだで寝るのが遅くなってしまい


疲労感が体に残る


僕の朝のスタートはため息から始まるのが


モーニングルーティンってやつだ


身支度をし家を出る


駅に向かう道のりで彼女のことを考えていた


あの後どうしたんだろう


やっぱり一泊だけでもさせてあげたほうがよかったのか


いやいやそんなことしたら見えない何かに殺される


と思っていたら駅に着いた


見覚えのある服装で見覚えのある髪型のひとが


ベンチで横たわっていた


慌てて僕は駆け寄り声をかけた


ワイ『君!大丈夫?』


暖かくなってきたとは言え夜はかなり冷える


それなのにベンチで夜を過ごしたと思うと


心配になってしまった


彼女『わ!あ、お、お、おはようございます…』


かなり驚いた様子


そりゃそうだ寝ていたのにいきなり大きい声を


出されたのだから


ワイ『もしかしてここで寝たの?大丈夫?』


彼女『あ…昨日の…だ…大丈夫です…心配かけて申し訳ないです。あ!昨日のココアありがとうございました!』


彼女の横にココアの空の缶が置いてあった


ワイ『よかった…寒さで倒れちゃったのかと思った…』


横を通る人達が冷たい目でこっちを見ながら


改札へ向かっていく


正直目線が痛かった


自分も会社の時間があるので行かなくてはならない


この電車を逃すと本当にギリギリになってしまう


ワイ『と…とりあえず今日はちゃんと帰るんだよ?』


彼女『はい…ありがとうございます。お仕事頑張ってください!』


彼女は寝起きとは思えない素敵な笑顔で


こんな社会の歯車に向かって


キラキラした言葉をかけてくれた


危うく抱きしめそうになるが


理性と羞恥心とその他諸々ここには書けない


何かを抑えて


改札に向かった


電車の中でも仕事中でも298円と話ししている時でも


彼女が頭に浮かんでくる


こういう事を浮ついた気持ちと言うのだろうと思った


たしかに浮ついていた


そのせいで仕事が驚くほど捗らない


新入社員が笑顔でミスを残して帰る頃


残っているのは


いつものことながら僕と先輩と298円


本日3本目のブラックコーヒーを飲み干し


リポDの空ビン2本の横に置く


背伸びをして ラストスパートかけるかぁと時計を見た


今日は帰るのは終電になりそうだ…ハハ…


そこから午前中の巻き返しを図り


無心で仕事を終わらせた


終電には余裕で間に合う時間だった


ふと見上げると残っているのは298円だけだった


無意識に先輩が帰るタイミングで


うめき声をあげていたらしい


怖い怖い


終わったアピールをして298円の方を見ると


課長『やっと終わったのか、よし帰るか』


と言った


驚いた


僕を待っていたようだった


今までこの人は仕事が終わらないから


残っていたのではなく


仕事が終わらない俺らを待っていたのだと気づいた


なぜか感極まるものがあった


パソコンのせいでバーコード部分しかいつも見えないから


298円とかいつも思って申し訳ないと思った


初めてこんな上司になりたいと思った…




というのは嘘で早く帰りたいしか思っていなかった


駅までは少し距離がある


298円と一緒に歩いて帰るのは不思議だった


ふと昨日の出来事を話してみた


いや…たぶん話したくなったのだろう


こんなことが実際にあったのだと


誰かに話したくなったのだ


誰でもよかったんだと思う


昨日の出来事を298円に話してみると


課長『ハハッ…エロゲみたいな話だね』


こいつにはもう一生プライベートの話はしないと誓った


198円とは違う方向なのでホームで別れた


198円の歩く背中を見たが何も感じなかった


よし…正常だ…平常心だ…


昨日の事は奇跡みたいなもんで


今後起こりうることないイレギュラーだったんだ


あんなイレギュラーはゴールデングラブ賞とった


有名選手でも確実に捕球することは無理だろう


と思い改札を通り電車に乗った


今日も遅くなってしまった


今日は弁当ではなくカップ麺にしたい気分だと


思っていたらいつのまにか最寄駅に着いてしまった


ホームに降りる


198円の背中を見て平常心で


いられると思ったがダメだった


心臓が高鳴る


もしかしたら…


いやいやそんなことは…


いやでももしかしたら…


そんなこと考えていた


そしてゆっくりと改札をぬけ


覗き見るように柱から出口を見る


側から見ればただの不審者である


一日中考えていた予想の答え合わせは


妄想の方で正解してしまった


樹の下のベンチで朝と同じ服をきた


彼女が座っていた


なぜかため息が出た


このため息は疲労だったり嫌悪感だったりで出る


ため息とは何かが違っていた


彼女の方に向かって歩いていく


彼女が気づくそして立ち上がった


ワイ『どうして帰ってな…』


言葉を言い切る前に



彼女『もう一回だけ私の歌聞いてくれませんか!』



と言った


風が吹いた 樹の葉っぱたちがサラサラと音を鳴らしている


心地よかった













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