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風の音  作者: 燦〜aki〜
2人だけのライブとココア
1/8

幸せのギター




彼女は


小さい体で


大きい歌声で


小さい幸せを


届けてくれた



*一章*


自分語りになってはしまうが


ワイは立花洋介(24)独身


ナルシズム全開でいうとそこそこな顔立ちの


しがないサラリーマン


中学の頃にバンドにはまり


バンドを組んでギターをやっていた


高校でもギターを引きずり


バンドを組んで日本のトップになると夢を持ったりしたが


社会の働かなきゃ生きる価値なしという風潮に飲まれ


2流大学を出て今スーツを着てパソコンに向かっている


社会というのは残酷だ


夢を追っているものは後ろ指を指され


目標を持たないものは夢がないと叩かれる


この国のこの風潮に


何人の夢追い人が敗れた事か


ただ全国民が夢を追っていたら


この国が回らないというのも


理解しているつもりだ


だからこそ夢を追って成功するのが


かっこいいのだ


社会と言う世界に入ってはや2年を終え


この4月で3年目となったが


もう愛想が尽きてきている


このまま何も感じずに年をとって


嗚呼あの頃はあの頃はと


後悔ばかりする


大人になっていくのだろうと


正直たかをくくっている


今日は残業で遅くなる


正確に言えば今日もだ


ここ最近定時退勤というものは幻だったのでは


と思い始めてきた


今日のノルマをなんとかリポDを味方に達成し


帰り支度をする


会社に残ってるのは


バーコードリーダーをしたら


298円と出てきそうな頭の持ち主の


冴えない課長と


新入社員のゆとりっぷりに頭を抱え続けている


3つだか 4つ上の先輩


先輩は新入社員のミスを責任持って


修正しているところだ


20年後には先輩も298円ぐらいになってそうだ


『お先に失礼します』


と声をかける 返ってきたのは


もはやうめき声に近い低い音


僕の優秀な先輩上司達は終電に間に合うのだろうか


そんなこと考えたら僕も20年後には298円になりそうだ


何かを吹っ切って退社し駅へ向かう


どの時間でも明るい駅は


疲れた僕には眩しすぎる


大学生だろうか


若者達がまだ火曜日だというのに


駅の目の前の樹の下のベンチで缶チューハイを飲んでいる


やけに甲高い笑い声とスマホのスピーカーから流れる


今の気分とは程遠い


音楽が耳に刺さる


『嗚呼 あの頃は…』


不意に出た一言


不覚にも大学の頃を思い出してしまった


仲の良かったグループでお金もないのに


みんなでワイワイしたあの頃が懐かしい


あいつら元気してんのかなぁ


社会に出て元気で入れてるのかなぁ


ため息を若者達の横にそっと置いて


改札を通る


ただ立っているだけでも疲れてしまう


自分の体に衰えを感じながら揺られる


電車の窓には大学の頃こんな大人にはなりたくない


と思っていたであろう大人が映し出されていた


ため息が出る


体がついでにと言わんばかりに腹を鳴らす


もうあと30分で今日が終わる


まだ火曜か…辛いなぁ…


腹を鳴らしながら最寄駅に降り立つ


改札を抜け近くのコンビニに行こうとした時だった


先ほど聞いてきた今の気分とは


程遠い音楽とは違うまた別の


気分とは程遠い音楽が聞こえてくる


綺麗な音程で綺麗なアコースティックギターの音が鳴っていた


自分の家から1番近い駅は比較的静かで


普段は暗さと静けさが


帰ってきた自分を落ち着かせていた


嫌いではなかった


普段静かな分余計に綺麗に聞こえたのかもしれない


僕は少しの間固まっていた


先程と同様に駅の目の前の樹の下のベンチで


先程とはまた違う雰囲気の若者が


アコースティックギターを弾いて歌っていた


街灯がアコースティックギターを照らしていた


黒髪で肩にかかるぐらいの髪の女の子が


ギターを奏でている


すごい綺麗な音だ


そして何よりすごい綺麗な声だった


僕は少し離れたところで立ち尽くしていた


少し音楽をかじっていたのもあるせいか


余計に引き込まれた


すごい気持ちのいいリズムキープと音程で


腹が鳴っていることさえ忘れさせられた


ふと気づいたら曲が終わってしまっていた


僕は彼女が顔を上げ終わる前にと


すぐさま近くの喫煙所に行きタバコに火をつける


ここからは彼女は見えない


心臓がドキドキしているのを感じた


なぜなのかがわからない


日頃の不摂生にあいまってすこし急いで


喫煙所まで来たからか?もはや不整脈?


そんなことを考えているとまた音が聞こえてきた


先程の綺麗な声だった


心臓が高鳴る


彼女の歌のせいだと確信した


タバコをふかしながら空を見上げて


綺麗な曲と声を聞いていた


すごく幸せな気持ちになれた


それもつかの間


おじさんの声が聞こえたと同時に


綺麗な音は消えてしまった


なんだなんだ?と思っていたら


警察が彼女に声をかけていた


周りが静かなだけあっておじさんの声はよく聞こえる


おじさん『君何時だと思ってるの!許可取ってあるの?身分証提示してもらえる?』


タバコの火を消し覗いてみた


彼女は下を向いたまま立っていた


おじさん『君いくつ?学生かい?深夜にこんなことしちゃダメってことぐらいわからないかな?』


おじさんの声が大きくなっていく


耳に刺さる 先程と同様嫌な音だ


彼女は答えようとしない俯いたまま


ギターを大事そうに抱えている


おじさん『君とりあえず来てもらうよ?親御さんの連絡先ぐらいはわかるよね?そこに交番があるから…』


その声が終わる前に僕は


彼女らの方に向かって行っていた


警察官の後ろから彼女に声をかける


ワイ『ごめんごめん遅くなった会社の残業長引いちゃってさごめんね?』


と明らかに知り合い感を装っていた


不審者である


警察官『お知り合いですか?』


ワイ『あ、妹です!今日実家から遊びに来るって事だったんですけど自分の仕事が長引きそうだったんで駅で待っててくれって話であったんです。かなり待たせちゃったので…もしかして何かしました?』


警察官『深夜にギター弾いて歌っていたのでクレームが来る前にと止めてたんですよ。とりあえず今回は大丈夫ですが妹さんによおく伝えておいてください。夜は危険ですし、何があるかわからないので』


ワイ『わかりましたぁお手数かけて申し訳ありませんでした』


警察官が去っていくのを見届けて一応お辞儀しといた


せっかくのひと時を邪魔しやがってっと内心思っていた


がここからどうするかは全くのノープラン


明らかに知らない人がいきなり妹呼ばわりして


逆に通報されるんじゃないかと一瞬で考える


緊張が走る


警察官が去っていた方を見つめて固まっていた


彼女『あ…あの』


ワイ『は…はい!』


声が裏返った


我ながら見事なハイトーンボイスだった


たぶん某有名バンドのボーカルもビックリだと思う


彼女『あ…ありがとうございます』


ここでやっと良かったと思った


ワイ『あ…いや大丈夫だよ別に…ハハ…すごい綺麗な歌声だったからさ…僕もなんていうかずっと聴いていたかったんだけど警察のバカヤロウ!みたいな…ハハ』


何を言っているのだろう


我ながら恥ずかしげもなく


綺麗とかずっと聴いていたいとか


よく言えたもんだと心から思った


彼女が目を見開いてこっちを見ていた


ちょっとした沈黙の後


彼女『あ…ありがとうございます!すごい嬉しいです』


照れた様子でこう答えた


風が吹いた 樹の葉っぱたちがサラサラと音を鳴らしている


心地よかった


ワイ『じゃ僕はこれで!き…きおつけてね!』


と言って広場の向かいにあるコンビニに向かった


心臓が高鳴っていた


久しく女性と話していなかったからか


警察官とのやりとりの緊張がまだあったのか


わからないが心臓が高鳴っていた


ここで心臓が低いドの音で高鳴っていたとか言えたら


かっこいいんだろうけどあいにく


絶対音感は持ち合わせていない


コンビニに入ったが店員の声も


入店音もかかっている曲も耳に通って来ない


とりあえず落ち着こうと


これから寝るのに


なぜか缶コーヒーを手に取り


コンビニ弁当と一緒にレジを通す


レジを待っている間ふと外を見てみた


彼女はまだそこにいた


帰るとこが無いのだろうか


帰れない事情があるのだろうか


終電を逃したのか?


とにかくあそこにずっといるのは危ない気がした


自分はふと思いつきで横にあるホットココアを


一緒に購入した


袋をぶら下げて彼女に近づく


ワイ『あの…これ…よかったら飲んで』


後ろから声かけたせいか彼女がビクッとしてこっちをみた


さっきの人だと気づいたのか


よかったと顔にでている


彼女『あ…ありがとうございます…何から何まで…』


ワイ『全然!気にしないで!』


ワイ『ところで…どうしてこんな時間に歌ってたの?』


とりあえず会話をつなげようと思ったが


喋った後に気づいたがこれじゃ


警官と何も変わらなくて


話した後に後悔していた


彼女がまた下を向く


今度はケースにしまわれたギターを


見つめていた


彼女『帰れないんです…今は…』


想像してはいたが本当にこの答えが来るとは


思っていなかった為


脳みそがフル回転したのがわかった


うちの会社のオンボロPCと同じ音が


鳴ってるんじゃ無いかと思うぐらい脳みそがぐるぐるした


ワイ『え…えーと…じゃあどうするつもりだったの?』


彼女『ここなら警察も近くにいますし…明るくなるぐらいまでは入れると思ったんですが…』


ワイ『いや流石に若いし警察近いって言ってもずっと駐在してるわけでは無いから…かなり危ないと思うよ?お家帰らないの?』


彼女『家追い出されちゃって…』


どうやら家出少女らしい


こんなのどっかのアニメかエロゲでしか聞いたことがない


エロゲの展開を想像するが


俺の家に連れ込むなんてそんなことしたら


社会という今一番嫌悪感があるものに殺されてしまう


とりあえずこの場所で話をするのも


また警察に見られたら


不自然なことなのでちょっと歩いたところの


ベンチで話を聞いた


どうやら彼女はこの春高校を卒業したようだ


実家から離れて音楽で食べていくために夢を持ち


上京してきたらしい


誰との家とは言わなかったが住んでいるところの人と


いざこざがあって勢いのままでてきてしまったと言う


もうこの時点で終電は無くなってしまって


駅は静かになっていた


残念ながらこの駅の近くには夜を越せる


漫画喫茶やファミレスはない


駅のホームの前にちょっとした広場と


コンビニが一軒あるだけだ


とりあえず帰るだけのお金はあるという事と


連絡手段のスマホは持ってきたというので


何かあったらコンビニの店員さんでも


警察にでも言うんだぞと注意して家に帰ってきた


帰ってきて弁当を食べている間も


シャワー浴びている間も


寝るために横になった布団の中でも


彼女の歌声と彼女のことが思い浮かんでいた















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