9話:初詣でと犬山重臣の課長昇進
犬山家では近くの神社に初詣でに行き今年の家族の安全・健康・幸福を祈願した。その足で奥さんの実家の吉祥寺の木下家に生まれたばかりの幸子を連れて訪問して両親に見せると喜んでくれた。御両親、別々に幸子に1万円ずつの、お年玉をいただいた。これに対して犬山重臣が、いつも、お気遣いいただきまして本当にありがとうございますと深々と頭を下げた。すると義理の母の木下貴子さんが、あなたは、いつも素敵な笑顔で、きちっと挨拶ができて知らず知らずのうちに、ついつい、何かをして上げなくちゃと言う気にさせる徳があるからですよと言ってくれた。その様に躾けてくれた家族の方々に感謝しなさいと言われた。
その話を脇で聞いていた淑子さんは本当に犬山重臣さんを選んで良かったと思うと涙ぐんだ。そして母の貴子さんが淑子さんに元気で幸せに暮らしなさいと肩を抱くと淑子さんの涙が止めどもなく流れ落ちた。あわててハンカチで涙をふき、しばらく落ち着いてから帰った。帰る途中、犬山重臣は淑子さんの御両親の人を見抜く目の確かさ気遣い寛大さに感動した。彼らの人徳で、あれだけの資産を作り守り続けられるのだろうとつくづく感心した。それにしても良い御両親に恵まれたものだと神に感謝せずにはいられなかった。
1月になり真弓ちゃんが来ないのを心配し1978年1月18日に犬山重臣が和子・姉ちゃんの家を訪ねた。すると真弓ちゃんと聡君が風邪で1月初旬から体調を壊し遊びに出られないことがわかった。お土産のりんごを置いて帰って来た。しかし2月になると、すっかり元気になった真弓ちゃんが頻繁に遊びに来た。そして幸子をかまってくれて仲良く遊ぶようになった。やがて暖かくなり始め3月、4月と時は巡り犬山重臣の会社の4月の人事で何と課長昇進が決まった。
中学卒業者での課長昇進は初めてだった。しかし会社の方針で実力主義を掲げていた事も合って社内でも大きなニュースになった。だが、いろいろ調べていくと犬山重臣の上司の佐藤忠次課長が仕事をしないで部下の経理のチェックを、ほとんど全部、犬山重臣係長に任せてるという噂が広がった。
そのため佐藤忠次課長が左遷されて子会社に出向させられた。そして学歴がなくても頑張れば課長になれるという、若手へのアピールが多分にあったようだ。
また犬山重臣係長が懇切丁寧に部下の経理で計算が合わない時、最後まで付き合ってくれる。そう言う良い評判が後押ししてくれたことも間違いない。部下からの信頼が高いか低いかで出世が左右されると言う風に日本の会社が民主的になったと言うことでもあった。そして今年4月から給料も月7万円に上がった。貯金は全て和子・姉ちゃんの多摩信用金庫に預けて金利の良い割引金融債での運用してもらった。そして、お金が増える方法で管理してもらっていたので利息が増えるのが早い事とも非常に良かった。お陰で1978年の夏のボーナスで犬山家の資産が400万円に増えた。資産が増えても質素な生活に変わりはなく堅実に預金を増やしていく努力をした。それと会社の寮費が安かったのも大きな要因だった。