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過去編ではなく、婚約破棄会場の続きです。

少し長いです。

【お知らせ】

主人公の家名が間違えていたため、訂正いたしました。

申し訳ありません。


「そ、そんなの嘘よ。だって私見たもん、貴女が私を押したとこ見たもん!」

「でしたらその証拠か何かを私たちに見せてくださいな。そこまでおっしゃるからには、あるのですわよね?」

彼女の剣幕もヘレナ嬢は気にしない。

この場はすでに己の支配下にあるように、その存在を遺憾なく示し、振る舞っている。つまり社交界の若き女王、ヘレナ=リーマノイド公爵令嬢は漸くその本領を発揮し始めたのだ。





「ねぇシャルノーツ!シャルノーツは見てたよね、だって落ちてきた私を助けてくれたのシャルノーツだもんね!」

彼女は振り返って、シャルノーツ殿下に叫んだ。

殿下は彼女の勢いに怯みながら何度も頷く。

「確かに君が落ちてきたのは見たが、しかし、落とした相手まではわからなかった」

「そんな!」

「すまない、君が心配でよく見えていなかったんだ」


「えっ・・・ぁ、うん、そっかそうだよね!えへへ、ありがとうシャルノーツ!」

だが続いたすぐに笑顔を取り戻した。

彼女の笑顔に釣られて殿下もはにかみ、また生ぬるい空気が形成された。同時に、俺の近くのトレンツとオクタビオから身をつんざくような冷気が放たれる。

その一部始終を見て感じて、私はため息をつきたくなった。




「申し訳ありませんが、ヴェルマさん。それでは証拠たり得ません」

ヘレナ嬢は真っ直ぐ見つめながら、淡々と話す。

その声で彼女はまたヘレナ嬢へ厳しい視線を向けた。

「はぁ、何で?確かにシャルノーツはビミョーだったけど、私はちゃんと見たって言ってるじゃない」

「それは貴方の主観のみの見解だからです。私たちが求めた証拠にはなりません」

「何よそれ、意味わかんない!じゃあ私の教科書破いたりした人は?」

「知りません、少なくとも私は何も関与していません」

「あたしの悪口、いっぱい言ったじゃない!」

「言っていません」




ヘレナ嬢はきっぱりと否定の言葉を返した。しかし、何かに思い当たったのか。

数秒間だけ目を細めて、思案する顔作ってから口を開いた。

「悪口などという低俗な行為をした覚えはありません。ありませんが、思い返してみますと、確かに貴女には厳しい言い方をしてしまったときがあったと思います。そのことにつきましては、申し訳ないことをしたと反省しております」

言い終えるとヘレナ嬢は静かに一度、彼女に頭を垂れた。

会場から音が消えていた。思わず口からため息が漏れる。

また彼女は彼女で目を大きく開いて、信じられないものを見たかのように、静止していた。




「でもさぁ、それならアーシェが仲間外れにされたことはどう説明してくれるの?リーマノイド公爵令嬢」

静寂に石を穿ったのはオクタビオだった。

最早不機嫌さを隠そうとせず、腕組みした腕をそのまま指でつついている。

「珍しく意見が合うなオクタビオ。そういえば事件の日も茶会があったと言っていたが、何故アーシェは呼ばれなかったんだ?なぁ聞かせてもらおうじゃないか、リーマノイド公爵令嬢」

トレンツもオクタビオに追随した。また室内でざわめきが生まれる。

家柄はトレンツよりヘレナ嬢の方が高い。もう既にトレンツはチェックメイトをかけた気になっている。口角を上げながらヘレナ嬢へ好戦的に見据えていた。



ヘレナ嬢は2人を一瞥すると、口を――

「トレンツ、あんた馬鹿じゃないの?いや馬鹿だったわね、ごめんねわからなくて」

――開きかけていたのはわかった。

しかし言葉が紡がれる前にミリーネ嬢が割り込んだ、と考えて良いだろう。

数回だけだが、ヘレナ嬢はミリーネ嬢を見て瞬きをしていたからだ。

「そんなの呼ばないに決まってるじゃないの、あの日はヘレンと特別親しい間柄の女子しかいなかったんだから。身内の誕生パーティに、わざわざ芸者でも警備兵でもない顔見知り程度の人間を呼ぶの?アンタは」

「だ、だったら他の茶会に呼ばれないのは何故だ!呼ばれなくて寂しいと、一人で泣いていたんだぞアーシェはッ!!」

「そうなった理由もわからないとか、救いようないわねぇ私の婚約者って」

「何だとッ!」

額に手を当てて、やれやれと首を振るミリーネ嬢にトレンツは紛糾する。





そのとき、すっと誰かの右手が高く上がる。ぴたりと音が止まった。

「では僭越ながら私から説明させていただきますが、よろしいですね?」

殿下が頷くのを確認して、イーニッドは姿勢を正す。

その際に、一度だけ私をちらりと見てから、視線を逸らしたように見えた。

「アーシェさんが茶会に呼ばれない理由は2つあります。1つは単純に呼ばれなくなったためです」

「呼ばれなくなった?」

オクタビオが気の抜けた声だけが響く。イーニッドはこくりと頷いた。


「はい。ここでアーシェさんに確認いたしますが、学園に入学されたばかりの頃は何度かお茶会に招待されませんでしたか?」

「え、あ、あたし?まぁ、確かに最初のときは呼ばれたりしたこともあったけど、でもホントに最初の4,5回だけだったわよ」

「出席いたしましたか?」

「無理。だって何考えているかわかんないもん」

「やはりそうですか、それが呼ばれなくなった原因です」

返答を聞いて何度も頷くイーニッドに、彼女は未だ懐疑的な視線を向けている。

しかし周囲は違った。

特に令嬢たちは合点がいった様子で続く言葉に耳を傾けている。

「私たちにとって茶会は社交の一部ですが、それは貴族同士の情報交換の場であると同時に、親睦を深める場でもあります。それをアーシェさんはずっと欠席したので、『仲良くなる気が無い』と思われて招待状が届かなくなったものと考えられます」

「そんなッ、ひどい」






彼女は顔を覆って膝をついた。

その姿に少年少女は白い目を向け、ざわめきを大きくする。

殿下についていたキジナが頭を撫でて慰めているが、彼女は顔を上げようとしない。やがて嗚咽が漏れ、徐々に大きくなり、伝播してきた。そんな彼女を見てオクタビオはイーニッドを睨み、トレンツは拳を握りしめる。

が、イーニッドは淡々と続けた。

「もう1つの理由は単純な、人としての好き嫌いが理由でしょう」

「好き嫌い?つまりなんだ、こんなに愛らしいアーシェが嫌われるとでも?あり得ないだろ、もっとマシな理由を挙げないかアストロメリア伯爵令嬢」

トレンツはイーニッドを鼻で嗤う。そんなトレンツに対し、イーニッドは不快さを露わにすることもなく静かに見た。





「あら。そのことに関してですけど、あり得ないどころか当たり前だと思いますわよ?」

ぱたん、と扇子を閉じてレイジア嬢は口を開く。

「だってアーシェさんは貴方やファーレス様の他にも、殿下やクアドラート様といった方々にだけ近づくのですもの。良く思われる道理がありませんわ」

「ふーん、嫉妬したんだ?」

挑発するように鼻を鳴らすオクタビオに、レイジア嬢は微笑む。

「ええ。この公国第2王子である殿下を始め、現宰相様のご子息であるクアドラート様に現外務大臣様のご子息である貴方様、騎士団長のご子息であるヴァッカーノ様。素敵な方々ですので嫉妬する要素も否定できませんが、一番の理由はそこではありませんわ。ねぇ婚約者様(・・・・)、本当に簡単なことなのですよ?」

「ねぇ。僕、回りくどいことは嫌いだって、前に言わなかったっけ」




今にも舌打ちしそうなくらい、表情を歪ませてオクタビオは吐き捨てた。

しかしレイジア嬢は動じない。

笑みを濃くして自らの婚約者(オクタビオ)を見てから、彼女に視線を移した。

「ねぇアーシェさんには婚約者はいらっしゃいませんよね?」

「そうだよ。それが何か?」

「それが原因です。婚約者のいない令嬢が婚約者のいる子息と仲良くする、しかもアーシェさんは満遍なく人付き合いをなさるわけではなく、更にその仲が良い子息も最上級の家柄のお方のみ。これでは『身持ちが悪い』などと忌避されても反論できませんわね。そしてそんな方と仲良くしたいとは思いませんので、お茶会に呼ぶなどと関わりを持とうとしませんし」

「身持ちが悪いって、彼女のこと知らない癖に随分な物言いだね」

「令嬢の身の振り方を知らないのに私たちを悪だと断定する方は、おっしゃることが違いますわね」





オクタビオの眼光が鋭くなった。空気が瞬時に冷却する。

「ねぇレイジア、僕を馬鹿にしてるの?」

「うふふふ。非常に映りの良い鏡でしょう、婚約者様?」

レイジア嬢の言葉で空気に亀裂が走る。

レイジア嬢は笑みをたたえたままだが、今にも吹雪きそうな雰囲気が醸されていた。それ以降誰も口を開くことがなく、未だ止まない彼女の嗚咽だけが耳に残る。



次回も婚約破棄会場の続きです。

【お知らせ】

予定に反して投稿する話数が増えそうです。

もしよろしければお付き合いください。


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