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今回は少し長めです。

私は咳払いをした。

「すまない。ではリーマノイド公爵令嬢、貴女は無実だと」

「はい。私はそちらの方の身を害するような行為をしておりません」

私の問いに短く返事をすると、ヘレナ嬢はよどみなく答えた。

その様子を見て、彼女がまたヘレナ嬢へ食ってかかろうとしていたが、シャルノーツ殿下が引き留めていた。上手いこと言っているらしい。彼女は一瞬で機嫌を直したようだった。やり取りはかんに障るが、そのままでいてくれるなら何よりだ。




私はヘレナ嬢へ視線を戻す。

「成る程。ではヴェルマ男爵令嬢が事故に遭っている間、貴女は何をしていたのかお答えいただけないか?」

「その日は午後から学園の庭園を借りて、お茶会を開いておりました」

「ふむ。それを立証できる者はいるか?」

「はい。ここにいるイニやレイジア=ユーグミル、ミリーネ=ジュエナーリャ、オルタンシア=ブラフィルド、ロベルタ=ヤンソンの5名、あと彼女たちの従僕たちは証人になってくれますわ」

言い終わると同時に、私は会場中に呼びかける。するとヘレナ嬢の言葉通り、イーニッドも含めてヘレナ嬢の証人として名乗り出た。





それを見て、オクタビオ=ファーレスが俺の横まで歩いてくる。

眉間にシワを寄せて、小さな声で話しかけてきた。

「どういうことだロドルフ、ヘレナ嬢が優勢じゃあないか」

「優勢?」

「俺たちの可愛いアーシェが悪者扱いされてるってことだよ、察しろよ石頭」

呆れたようにため息をついて、オクタビオはヘレナ嬢の方へ向いた。

呆れられるのは別に気にしない。だが小さい声で「これだからむっつりは」と言ったことは忘れない。是非とも然るべき報いを受けさせたい。

そう思いながらオクタビオを睨んだ。




しかし本人は気にしていないようで、ヘレナ嬢へ話しかける。

「ねぇリーマノイド公爵令嬢、それってずっと席に座ってお茶を飲んだり話しているわけじゃないでしょ?退席する時間もあったよね、その間にアーシェに危害を加えることもできるんじゃない?」

「いいえ、退席した時間は長くても5分程度です。そんなに長い間退席したことはありません」

「そぉ?でも5分もあればできるんじゃない?」



「それは不可能です」

オクタビオの言葉にイーニッドが切り込んだ。

また視線がイーニッドへ集中する。

「アーシェさんが被害に遭ったとされる西棟の階段は、庭園のある南側の区域から離れています。ですので庭園から西棟の階段まで行くだけでも、5分以上は時間がかかると考えられます」

私は静かに頷いた。

「だとしたらリーマノイド公爵令嬢が、ヴェルマ男爵令嬢に危害を与えることは不可能だな」

「なっ、ロドルフッ!?」

「だったらその茶会に出席していたリーマノイド公爵令嬢は、リーマノイド公爵令嬢じゃなかったんじゃねぇの?」



突然私の後ろから声が上がる。また何かあるのか。

私がそう思うや否か、オクタビオ共々背中を押され、代わりに一人の男が前へ出る。それぞれ私は右へオクタビオは左へ散った。特にオクタビオは床の大理石に躓いて転びかけていた。じんわりと痛む背中をさすりたい衝動を我慢して、押した人物、トレンツ=ヴァッカーノを見る。

ヘレナ嬢がいぶかしげにトレンツに投げかけた。


「どういう意味ですの?」

「単純だろ。茶会にいたのはリーマノイド公爵令嬢のフリをした別人で、本物のリーマノイド公爵令嬢はアーシェを害しに行ったってことさ」

自信満々なトレンツにヘレナ嬢は吐き捨てた。

「斬新なアイデアですわね、そんな事実はまっっったくございませんが」

「じゃあ何だって言うんだよ」




「そりゃあヘレンは何もやってないってことよ、こ・ん・や・く・しゃ・さ・ま!」


溌剌とした声がミリーネ=ジェエナーリャから上がる。

腕を組んで勝ち気に微笑む姿には、同い年とは思えないほどの貫禄があった。

トレンツはミリーネ嬢を見て顔をしかめた。

「貴様かミリーネ。さっさと失せろ、不愉快だ」

「友達悪く言われて引き下がれるわけないでしょ。貴方のおつむ、お花畑にも程があるわよ」

そう言ってミリーネ嬢は鼻で嗤った。更にトレンツが怒鳴ろうと大きく口を開けて声を発する前に、ミリーネ嬢は割り込む。

「そもそもねぇ!ヘレンはその日、先生の手伝いをしたり後輩と交流したり色々忙しかったのよ?影武者なんてモノと入れ替わるヒマなんてないのよ、仕事サボりまくってるどっかの誰かさんと違ってね!」

「ふん、貴様のような女の言うことなんざ信じられるか!」





ふふっと笑い声が漏れた。

「でしたら私からも証言いたしますね?もっとも私もミリーと同じ内容ですので、繰り返しになってしまいますが」

にこにこと人畜無害な笑顔で言ったのはレイジア=ユーグミルだった。

レイジア嬢は自分を睨んでくるトレンツを一瞥した。持っている扇子を開くと、口元を隠す。

「ふふ、もし私でもダメでしたらイニはどうでしょう?彼女はその日、ヘレンが登校してからずっと一緒に行動していましたから、非常に素晴らしい証言をしてくださると思いますわよ?」





「うそつき」





ぼそりと誰かが呟いた。誰の声だっただろうか。

振り向くと彼女が殿下の腕の中で震えていた。

「みんな、嘘ばっかり。なんでそんなことばかり言うの?」

蚊の鳴くような声はだんだんと叫びに変わっていく。

「証拠、証拠って証拠がそんなに大事?それにいくらそんなの言ったって、みんなで一緒に嘘ついてたら変わんないじゃないッ!いい加減にしてよ、罪を認めてよッッ!!」

最後は感情を露わにし、殿下の胸の中から飛び出した。ぼろり、ぼろりと目頭からせき止めきれなかった涙が溢れて、ドレスの裾に染みていく。だが彼女は気にならないのか、ヘレナ嬢たちの方へ向き、憎々しげに睨むのだ。




「嘘ではありませんわ。そして証拠は重要です、その者がどういう者であるか知るためにも」

ヘレナ嬢の落ち着き払った言葉が会場に響く。

「確かに貴女のおっしゃる通り、私たちが全員で口裏を合わせていた場合は効果がありませんわね」

会場がにわかに騒ついた。

「ですので、どうしても信用なされないのならば、どうぞ学園の方へ問い合わせてくださいませ。学園の敷地で行なったお茶会ですもの、事前に学園へ使用許可や近辺警備などの手配を書類で行なっておりますわ。きっと閲覧申請をなされば、すぐに証拠が形となって目に止められるでしょう」

そこでヘレナ嬢はにっこりと、淑女の笑みを浮かべる。さっき私が言った言葉を忘れてしまったらしい、彼女は自らの主張を肯定された際に何かまた発言しようとしていた。だが、後に続く言葉に呑まれたのか。力いっぱい歯を噛み締めていた。



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