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「シャルノーツ王太子殿下、私にも発言をお許しいただけますか」






凜とした声が、ホールの中に響いた。

視線がヘレナ嬢から一斉に、

彼女の後ろにいた声の主のイーニッド=アストロメリア伯爵令嬢へ移る。

そんな筵のような状態に気を向けず、イーニッドは優雅にヘレナ嬢の横へ進んだ。

「イニ、貴女」

「ごめんなさいね、ヘレン。でも私」


例え相手が王太子殿下たちだとしても、

これ以上貴女が悪く言われるのは耐えられないの。


ヘレナ嬢へそう言ってイーニッドは私たちへ対峙した。

ヘレナ嬢へ向けた微笑みから一転、大切な宝物を守るかのように表情は険しい。





殿下は殿下でヘレナ嬢の取り巻きから声が上がるとは思わなかったらしく、

眉根を下げ戸惑っていた。

だがイーニッドがヘレナ嬢の横に立った今は、調子を取り戻していた。

鷹揚に頷く殿下に礼をしてから、イーニッドは口を開く。

「まずはクアドラード様の疑念について、発言いたします。確かにクアドラード様がおっしゃったように、貴族が【身の危険に遭った】と噂された場合は大抵ならず者からの被害が連想できます」




しかし。

イーニッドは一旦息を止め、ゆっくり吸った。

「今回のヴェルマ男爵令嬢の場合はその被害に遭ったとされる日の翌日には学園全体に話が広まっており、何より被害者である彼女自身が被害に受けたことを話す姿を多くの学生が、至る場所で目撃しております。このためヘレナ様はご質問を受けて、【学園での事故】をおっしゃったのだと思われます」

「今の話は(まこと)か、リーマノイド公爵令嬢?」





私の問いかけにヘレナ嬢は頷く。

「はい、イーニッドの言う通りで間違いございませんわ」

「成る程。その根拠は?」

私の言葉にヘレナ嬢は、

言っている意味がわからないというように表情を固くさせ、次に目を見開いた。

すぐに表情は険しいものへ戻ったが、

ヘレナ嬢は少し顔を伏せ、何かを逡巡するかの如く瞳を揺るがせる。

そして静かに目を閉じて、吹っ切れたように開いた。

「まずヴェルマ男爵令嬢が階段で事故が遭ったことは、学園内がその話で持ちきりでしたし、私自身学園へ登校してすぐに耳にいたしました。次に被害者である彼女が話していたことですが、普段の彼女は大変賑やかな方でしたし、話していた場所も食堂や広場という多数の生徒が集まる所ばかりでした。何より、その、初めの頃から彼女は私が犯人だと言っていましたから、私は」


「言ってたじゃないでしょ、ですよ!貴女が私を突き落としたんです!」






殿下の腕の中から彼女は憤慨した。

そして殿下から離れると、右手の人差し指を勢いよくヘレナ嬢へ差す。

「私は見たんです、貴方が私の背中を押す瞬間を!押した瞬間の濁った笑顔を!ざまぁみろと嗤った言葉を!全部!全部!」

「ヴェルマ男爵令嬢、落ち着きなさい」

私は彼女の右肩に手を置いた。瞬時に彼女は振り向いて私に詰め寄る。

「ロドルフ様!だってあの人たち嘘をつくんですよ!自分たちがやったのにやってないって言うんですよ!酷いでしょう?!」

「嘘をつくことは、良いことではないな」

「なら!」




食い下がろうとする彼女を制しつつ、私は続ける。

「今はリーマノイド公爵令嬢の話を聞く時間であり、まだ話は終わっていなかった。だから今私たちはリーマノイド公爵令嬢の話を聞かねばならない」

「なんで?黙って聞けっていうことですか、あの人嘘しか言わないのに?貴族っておかしいですよ!」





彼女は私の胸へ飛び込んだ。

ガラス玉の涙が赤い頬を塗らして、唇を噛みしめて私の顔を覗き込む。

そんな姿は庇護欲を掻きたてられるところだろう、が、周囲の目が痛い。

殿下やその近くに控えている“影”のキジナは勿論、彼女以外のホール中の人間が、

種類は違えど私へ非難の視線を向けている。

特にオクタビオとトレンツが酷い。

殺気を向けられているように思えるのは、おそらく気のせいではないだろう。





思考を切り替えるように、私は首を左右に振った。

ついでにやんわりと、彼女を自分から離すことも忘れない。

「例えば相手が嘘をついているとしよう。相手の話す内容が実際に起こった出来事と違った場合、私たちは『相手が嘘を話した』と証言することができる。そうすると相手に空白の時間、つまりアリバイが説明できない時間ができるから、相手を犯人だと判断することができる」

「ふぇ、へ、へぇ!そうなんですね!」

「だから相手の話は最後まで聞かなくてはならない。わかったか?」

「はい!す、すみませんでした。えへへ、でも、すごいですねロドルフ様は!」






男爵令嬢は途中から目を泳がせていたが、話が終わると笑って拍手する。

ホール中の空気が一気に生ぬるくなった。

同じ壇上にいる殿下やキジナ、オクタビオ、トレンツから向けられる視線は、

未だに痛いままだが。




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