大きな木の下で 2
過去編2
眉にシワが寄ったのを自分でも感じた。
『予測でしかない、とは?』
『そうですね、でしたら例え話をお一つ。子供が木に登っていると伝えられたときはどう思われますか?』
『木登りか。遊んでいるのではないか?』
『そうですわね、そう思われるのが自然であると思います』
ですが、と言葉を切ってその女の子は続ける。
『その木には可愛らしいリボンが引っかかっていたのです。傍らには泣いている小さな女の子がいたそうですよ』
『リボンに女の子、ということは、まさか』
『ええ。その子供が木を登っていたのは遊んでいた訳ではなく、そのリボンを取るためだった。こちらがこの事例の所謂、真実というものになります』
『つまり正解か』
頭上でさらさらと枝葉のこすれる音が起こる。
本を閉じて、私はため息をついた。
『後出しで重要な情報を出すとは。少々卑怯ではないか?』
『そうかもしれません。ですが私は、これは現実ではよくあることだとも思いますの』
『何?』
『人は一度に1つの方面しか物事を見ることができない生き物だと思います。同じ物事を見ても、貴族は貴族の考え方があって平民は平民の考え方しかできないように』
『完全に他人と同じ、物の見方ができないと?』
私の答えに女の子は嬉しそうに頷いた。
先程の話に戻りますが、と私に向き直り、ぴん、と右の人差し指を立てる。
『最初に子供が木登りをしていると伝えた方は、勿論その子供がリボンを取ろうとしていたということは知っていました。しかし』
ここまで言ってから、今度は左の人差し指を立てた。
『先程のように言ったため、伝えられた方にはそこまで知ることはできませんでした』
『ああ、そこまでならお――いや私もわかった』
本を置き、私は女の子の方へ顔を向けた。
『だが、何故伝えた奴は、伝えられた奴にその子供が『リボンを取ってあげるため』に登っていたことを言わなかったんだ?』
過去編はあえて短くしてます。