大きな木の下で 1
本日投稿分の二話目です。
過去編です
『ねぇ、貴方はここで何をしていますの?』
突然、頭の上から知らない声が振ってきた。
6歳の時のことだ。
日差しがきつく、蒸し暑い日だった。
3つ下の妹のお披露目とやらで、
当時私の家では屋敷の庭で盛大なパーティが催されていた。
最初の方は私も妹のお守りで客人たちに挨拶回りをしていた。
だが、所詮は公爵家の次男坊。そつなくこなしていたものの、今パーティの主役でもなければ公爵家の跡取りでもない者への興味はすぐになくなったらしい。
すんなりと2つ上の兄であるディードとお守りをバトンタッチし、庭の外れにある大きな木の下に座っていた。ついでに本を読んでいた。
そして冒頭に至る。
顔を上げると、目の前にはやっぱり知らない女の子がいた。
使用人のような格好をしておらず、年相応に小綺麗だった。
大方客人うちの娘の一人だろう。
たった3つの妹のパーティとはいえ、私の父親は公国の宰相を務めている。
妹をパイプに縁を結びたいと願う人間など、腐るほど存在するのだ。
しかし。誰だこの女は。
貴族名鑑の公爵家の欄では見たことがないし、ここ数か月の間でどこぞの貴族が妾を取ったという話は聞かない。だったら私の家と釣り合う身分ならば伯爵家あたりだから、この女はそこの令嬢か。
ふぅん。
そこまで考えると、私は興味がなくなった。
さっさと追い払うつもりで、淡々と告げた。
『見た通りだ』
『そのようでしたね』
『わからなかったのか?』
『わかりませんでしたわ』
しかしその子は一歩も引かなかった。
なんだこいつ。
思わず半目で見ると、その子は口を尖らせた。
『だってその人が何をやっているかなんて、本当のところはその人にしかわかりませんもの』
『推察くらいは出来るだろう』
『ええそうですわね、でもそれだけですわ』
失礼してもよろしいでしょうか、とその子は私の隣を手のひらで示した。
頷くと嬉しそうにはにかんでから、こくりと礼をして私の隣へ腰を下ろす。
そのまま口を開いた。
『確かに推察をすれば、相手の行動は予測できるかもしれません』
『ですがそれはあくまでも予測でしかないのです』
以降は火曜・木曜に1話ずつ投稿します。