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連投1話目。

いきなり甘くなります。


私は王宮での事情説明や報告書の提出のため、学園の門へ急ぐ。

門の傍には王宮へ移動してくれる馬車が待機している。

陛下が直々に準備してくださったのだ。

空は日が傾きそうになっていた。

穏やかに吹く風は少し冷たい。暖かくなるにはまだ時間がかかるだろう。

「ロドルフ様」


呼ばれた声に足を止める。振り向くと少し離れた場所にイーニッドが立っていた。

退出する前にパーティ会場へいたことは確認したはず。何故ここにいる?

「会場へは戻らないのか、パーティは仕切り直されたのではなかったか?」

「いえ、そうなのですが。その」





私の問いにイーニッド、彼女は視線を落とす。

酷く歯切れが悪かった。

あの、その、と何かを言おうとして、その都度黙ってしまう。

話を始めたのに言葉が出ないとは。頭の回転が速く饒舌な彼女にしては珍しい。


気がつくと、謝罪の言葉が口から出ていた。

彼女はハッとした顔をして、慌てて言葉を紡ぐ。

「いえ、謝罪は要りませんわ」

「だが」

「本当に要らないのですロドルフ様。ただ、少しほっとしただけなのです」

彼女は胸元に右手を添える。顔を上げてふにゃりと微笑んだ。

じわりと胸の奥が温かくなる。久しぶりに見た婚約者の笑顔は酷く安心した。




ですが、と彼女はこてりと首を傾げる。

「意外でしたわ、貴方はてっきりアーシェさんのことが好きなのだと思っていましたから」

「そんなことはない」

非常に不本意な発言を聞いて、私は無意識に否定の言葉を告げていた。彼女は驚いて、口元へ手を添える。その姿に冷や汗が垂れた。私の足は彼女の方へ踏み出す。

「本当だ、私はあの女のことなど端から眼中にない。ただ断罪するために関わっていただけだ。決して好きで近くにいたわけではないのだ」

「あの女、ですか。えぇと、その、はい。わかりましたわ」



近づいてくる私の剣幕に呑まれて、彼女は小刻みに頷いた。

しかし未だに不思議そうな表情を変えない。何故だ。

彼女は小さな口を開く。

「あの、ロドルフ様」

「なんだ」


「私、ロドルフ様に愛人がいらしても構いませんからね?」






は?

「は?」

私はあんぐりと口を開けた。何故か恥ずかしげに彼女は続ける。

「好きな気持ちを止めてはいけないと思いますから。その、きちんとご自分のお仕事や私や私の家などへ礼儀を忘れないでくださるのでしたら、私は良いと思いますの。だからロドルフ様は、本日みたいなことにはならないように」

「大丈夫だ愛人など絶対に持たない約束する」

早口で弁解した。考えがまとまらない。

何故、何故そんな思考を持っているのだ私の婚約者は!

あいつか、あいつ。シャルノーツの所為か。変な置き土産を残して行きやがって。許さん。



彼女は彼女で、そうですかと返事をする。先程から表情の変化はない。

「でも好きな人ができたら」

「大丈夫だ、君が心配する必要など無い」

イーニッドの肩に両手を置いた。目を合わせて言い聞かせるように、話しかけた。

「いいかなイーニッド、俺は既に、ずっと幼い頃から好きな人がいるんだ。ずっと傍にいるし、今もずっと愛しているんだ。だから愛人なんて作らないし、君との婚約を破棄することは絶対にあり得ない」

「そうなんですか」

了承したようにイーニッドは頷いて、何か考えだした。

そして首を傾げる。





「どなたですか?」





目の前が白で埋め尽くされた。


肩に載せていた手が落ち、その衝撃で我に返る。

しかし、言葉が出ない。

おかしい、今告白まがいのことを言ってしまった気がするのに。

目の前にいるのはイーニッドだ。私の婚約者だ。私の愛する人だ。

何故だ。

「ロドルフ様?」




イーニッドはというと、また首を傾げて私を見ていた。

わざとではないことくらい理解できる。

だってわざと言っているなら、こんなに澄んだ目はしない。

星屑があんなに数え切れないほど浮かんだ瞳で、私を映すはずがないのだ。

「ロドルフ様?大丈夫ですか、ロドルフ様」

「大丈夫なわけがあるか。全く君という人は、これだから本当に」

「そ、そうですか。すみません」



彼女は少し驚いたように身を引いた。

違う、こんなことを言いたかったわけではない。

「私は、いや俺は」

弁解しようと思って、やめた。

これではまた堂々巡りになってしまう。そんな予感がした。

どうしたら良いのか。意識してもらうにはどうしたら――



思い巡らそうとして、閃いた。

イーニッドを呼びかけ、手を伸ばす。彼女はさらりと返事を返した。

「何か気になることでも――」

私は彼女の頭の後ろへ手を添えると、顔を近づける。






重なった瞬間に、彼女の金色の瞳がきらりと光った。



柔らかい感触を確認してすぐに離れる。

未だ呆然と俺を見るイーニッドに短く言った。

「こういうことだ。せいぜい覚悟しておけ」

踵を返して手を振った。今度こそ王宮へ向かってゆっくりと歩き出す。


俺は門へ到着すると速やかに馬車に乗り、窓の外を見る。

ガス灯の光が街中を淡く、照らし初めていた。




今日、イーニッドは俺をまだ異性として見ていないのだと知った。

それは非常に不愉快で、憎らしい。だが同時に、あの女へ抱いた感情とは違って、温かくて愛おしくて、ずっと手放したくないと思う。

だったら簡単だ、意識してもらえればいい。俺を好きになってもらえばいい。

彼女は俺の婚約者だ。時間はいくらでもある。

「覚悟しておけ、エナ」


まずはまた愛称で呼んでもらえるように。

沢山関わって、沢山甘やかして、沢山愛そう。

この1年間離れてしまった分、ずっと一緒に過ごしていたい。




月が照らす街を見ながら、俺は静かに口角を上げた。


次回更新は20時です。

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