第10夜 神秘の夜
秋の霧がどんよりとたちこめていた夜だった。
私は何日も前から、しつこい頭痛に悩まされていた。吐き気とめまいもしていた。
私は熱に浮かされたようになって、
あらぬ事を口走っていた。自分でもとめようがなかったのだ。
「なぜ私の拾った捨て子は、罪の子だったのですか?
そして摘み取ったバラがなぜあんなにも見る間に、かれてしまったのですか?
そして永久の迷路で、愛し合うはずもなかった二人はなぜ出会ってしまったのでしょう?
重苦しいカーテンの向こうには、結晶体のメタルクイーンがいるのですか?」
私は自分でも何を言っているのかわからなかった、ただ、口が勝手に喋り続けるのだ。永遠の夜の闇に向かって。
もちろん答えが帰ってくるはずもなかった。
私は再び、夜の街へさまよい出るしかなかった。
そこは見たこともない町。
霧がたれこめて、やがて少し晴れると、
古い陰気な店がずっと続いているのだった。
古い人形を並べた店、
かび臭い古本がぎっしり詰まれた、古本屋、
骨董店の店先には、怪しげなふるい雛人形が目を細めてこちらを見ていた。
ふと私はその骨董店の前で足を止めた。
私が享保雛に見とれていると、店の老主人がおくからこんなことを言った。
「人形達はいつも少女の夢をかなえてくれますよ」
私はなぜかゾッとして足早にそこを立ち去った。
私は急にめまいと激しい頭痛に襲われた。
幻影はちらついては消えていった。
何匹もの猫の影が通り過ぎたかと思うと、それは仮面をかぶった一団だった。
鏡の間には、もうとうの、むかしになくなった妹が死衣のまま徘徊しているのだった。
そして、ミラーホールから続く、長い回廊には、
ランプがともされて、
全て神秘の夜を、かすかに照らし続けるのだった。
第10夜 終わり