第7夜 春の妖精
生あったかい春の夜だった。
私は心が充溢してくるのを抑えることが出来なかった。
扉を押し開けて私は、春の夜へ飛び出していた、
夜の街は淫靡に静まり返り、微風は、なまめしかった。
憑かれた様に私はただ、歩き続けた。
やがて、どれほど歩いたろうか?
町外れから、郊外へと出ていたようだった。
しかしいつもとは見慣れぬ風景がそこには広がっていた。
遠く春霞のように毛ぶった先に、
大きな桜の木が枝もたわわにかしいで、もう、折れんばかりに、鬱蒼と花をつけているのだった。
そんな桜の木があったっけ?
でもそんなことはもう、どうでも良かった。
急いでわたしは駆け寄り、
桜の木の下へ。
濃厚な香りが花をくすぐり、それは尋常な桜ではありえなかった。
一人の少女がそこにいて、
桜を眺めていた?
いや、というより桜が少女に化身していたといったほうが正しいだろう。
「春になると私はこうして、戻ってきます。でも、桜の木の下には死骸が一杯です。
冬に耐え切れなかった人がこうして埋まっているのです。
でもその,屍骸の養分をこうして吸って、こんなに美しく甘く咲くことが出来るのです」
少女はそんなことを私の心にテレパシーで送信してきていた。
私はうっすらと、そんなことを知っていたような気がした。
刃物で桜の幹を傷つけたら、そこから、血がしたたることも、
少女はいつの間にか消えていた。
そして春の宵はいつまでもふけていくのであった。
第7夜 終わり




