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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

望まぬ世界のレクレイム

作者: 兎兄弟頑張れ←

皆様お久しぶりです慧琉です!

こちらをずっと書いていたので停滞していましたすみません

読んでいただけたら嬉しいです。

それでは本編どうぞっ!

大きいお屋敷。

使用人が沢山居て、大きな庭がある

そんな誰もが憧れる家。

しかし住んでいる者はその憧れを理解できないもので、まさに自分は住む側。

次期長だからって勉強を強いられ、能力を扱えるからと様々な武術と共に能力強化の方法を教えこまれた。

しかし力がない自分は武術には向かなかった、恐らく頭で考え能力を駆使して戦う方が向いているのだろうと自己分析していた

「お兄ちゃん?どうして難しい顔をしているの?」

ふわふわっと灰色の兎耳を揺らして弟…邇兎(にと)はこちらを覗き込んだ。

可愛らしく透き通った赤い目は純粋な光を讃えこちらを見つめる。

邇兎は自分と違い能力を持っていない、それに純粋過ぎるが故にアホだった。

その為母上や父上は邇兎を相手にせず、こちらばかりに構うので度々邇兎は自分の所へ来る。

こんな屋敷に同年代など居るはずはなく、暇をしているのだろう

父上や母上は邇兎を除け者扱いするが、自分は彼と話している時間が唯一の癒しとなっていた。

純粋だからこその観点は大人とは違い気付かされる部分も多く、教科書を読むよりも勉強になるし、なにより楽しい

ぽんぽんと灰色のふわっとしている髪に手を置くと邇兎は小さくはにかんだ

窓を見ると太陽が照らしまだ昼前である事が伺える。

「邇兎、少し散歩しましょうか?」

「やったー!お兄ちゃんと散歩!」

兎らしくぴょんぴょんと跳ねる。

何故自分達に兎耳と尻尾があるかは正直わからない、しかし兎の姿にもなれる事からそういう種族なのだろうと思うしかないのだ、解明出来ない謎は何処にだって存在する。

儘兎(じんと)様、お母様がお呼びです。」

「えー!まだお兄ちゃんと遊んでない!」

邇兎が駄々をこねる、その様子に使用人は困りきつく注意をしようとしたので手で静止した

止まった使用人を見て邇兎の目線に合わせる為にしゃがむ

「邇兎、用事が終わったら散歩しましょう、それまで待てますね?」

「…わかった!待つ!」

手をピンと天井に向かって伸ばしハイっと返事をする、その様子を見て使用人も安心したのか、行きましょうと促した


パタン…と扉が閉まる音がする。

目の前の大きな扉が閉まったのだ

背の低い自分は取手に届かず背伸びをしてみても無理があった

「んーお兄ちゃん行っちゃった…」

ペタンとその場に座り込みする事がないので窓を眺める。

青空の広がる緑の庭園に人はおらずその場は寂しげ、中央にある噴水は泣いているようだった。

手入れは行き届いているはずなのに、寂しさを感じるのは自分が今、広い空間に1人だからかもしれない。

ぼーっとしてるとガチャガチャと取手が捕まれる音がした

「お兄ちゃん?」

見上げるとそこには、お兄ちゃんではない見慣れた人物が立っていた


「と、いう事でいいですね?儘兎」

「はい、わかりました。」

溜息をつきながら母上の部屋を出る、母上の容姿は邇兎にそっくりではあるが、自分の子供を道具としか思ってないあたり、好きにはなれない

そして父上もまた…

自室までの長い廊下を歩く、どうして上に立つ者はこうして広い館を建てたり、無駄に長い廊下を作るのか

見栄や威厳といったものなのだろうが、無意味に等しいと思ってしまう。

まだまだよくわからない館の中を歩いているといつもはちゃんと閉まっている扉が開いていた。

使用人が閉め忘れたのだろうか?気になって中に入ってみるとこの部屋の物と思われる鍵が落ちている。

「後で誰かに届けましょう」

鍵をポケットに入れると、下へと続く階段を降りる、どうやら地下室へと向かっているようだがこの館に地下室などあったとは

真っ暗な道をただただ降りていくと鉄の扉が見えてきた、手入れがされていないのか錆び付いてはいるものの自分の力でも開けれそうだ。

ギィ…と鈍い音を出してドアを開けると、スイッチがあったので押す、すると申し訳程度に電気が付いた。

「なんでしょうこの部屋は…牢屋…?」

黒い棒が立ち並び、一つ一つ部屋として区切られ、近くで見ると南京錠付きの扉があった。

明らかに牢屋で一体なぜこんなものがあるのか、罪人はきちんと管理する場所があったはず、手入れされてないところを見るに昔使われていたと仮定しても問題ないかもしれない

「どちらにしろ私には無縁な代物ですね、 さて邇兎を待たせてしまいます、部屋に戻りましょう」

電気を消し、扉を閉め今度は階段を上る。

この暗い場所の光景を今後見飽きるほどにこの部屋によく来ることになるなど今の彼には知る由もなかった。

地下室から出て再び長い廊下を歩く、気が遠くなるような一直線の廊下の向こうに木のアンティークな扉が見えてきた。

扉の前まで行き、開けようとした時中から声が聞こえる、邇兎と男性の声。

「何故お前がここに居る?」

「お兄ちゃんと遊ぶ為!」

いつものように無邪気に返事する邇兎と、怪訝そうな男。

男の方の声には聞き覚えがあった、父上だ、なぜ2人が会話をしているのか気になってドアの前に居ると、ガンっと殴るような音のあと怒鳴り声が響いた

「何度言ったらわかるんだ!お前が儘兎の場所に行くと儘兎が勉強も何も出来なくなるだろう!出来損ないは出来損ないらしく大人しくしていろっ!」

ドアの取手を掴み、割って入ろうとしたが我慢する。

邇兎は泣きもせず、ただただ黙っていた。

しばらく怒鳴り声が響いていたかと思うとピタリと止み、父上が部屋から出てきた

「ん?なんだ儘兎か」

「……。」

「勉強しっかりしなきゃダメだぞ」

笑顔で去っていく父上の顔もちゃんと見ずに部屋に入る、そこにはキョトンとした顔で座り込む邇兎の姿。

何で殴られたのかはわからないが、頭から血が出ている、見た感じ痛そうなのにケロッとしており、自分の顔を見るなり無邪気な笑顔で何事も無かったかのように、お兄

ちゃん!と駆け寄ってきた。

「邇兎…大丈夫ですか?血が…」

「えへへ〜お兄ちゃんの部屋から出れなくなってたら、なんでここに居るんだー!って怒られちゃった」

まるでそれが日常かのように、平然と怒られたで済ます、とりあえず手当をしようと救急箱を出して邇兎の頭に包帯を巻いた。

「わぁなぁにこれ?なんか頭にカサカサって白い布?」

「包帯と呼ばれるものです、血を止める道具ですよ」

キラキラと目を輝かせて包帯を見る邇兎を見て自分の中の”ナニカ”がプツンと糸が切れたかのような衝動に駆られた、ポケットに手を入れると、先程拾った鍵がまだ入っている、もしかしたら上手く使えるかもしれない。

「わぁ!真っ暗!お兄ちゃん凄いねここっ!」

邇兎に包帯を巻いた後、先程の牢屋に仁兎を連れてくる。

錆び付いた戸を開け電気を付けると、物珍しさからか色々触ったりしている。

牢屋の隣にある箱を開けると、鍵束が入っていた南京錠の鍵と見て間違いない。

手前にある檻の扉に手を置き鍵を開けるとまだきちんと機能できるようだ

「邇兎、少し入ってくれませんか?」

「ここに?」

手で促すと素直に檻の中へと入っていく

せのまま扉を閉め南京錠をかけた

「少し…少しだけここに居てください、絶対壊しちゃダメですよ?」

「わかった!」

元気に返事をするとにっと笑ってみせる、邇兎に手を振り、自分は部屋を後にした。


暗い場所。

目の前には黒い棒がある、否それしかない。

お兄ちゃんが何故この場所の鍵を持っていたのか何故自分をここで待たせるのか

何もわからなかったが待っててと言われたのでちょこんと座り待つ。

どれだけの時間が流れたのか

暗く外も見えぬ空間で何も無い場所でただぼーっとしていたのは、短くも長いようにも感じれた

どれくらいの時間が過ぎたのか

暗い地下は時間の感覚も昼も夜もわからない、カチャリと足と手に付いた枷の鎖がただその場に鳴り響くのみ。

いつの間にか成長した体が年月を物語っていたが自分は結局成長しないままのような気がする。

あの日…お兄ちゃんにこの場所に入れられてから彼はどこかへ行ってしまった

いや、目の前にいる男性がそうなのかもしれない、黒い兎耳に尻尾、メガネ越しに見る青い瞳と余裕を称える笑はまさにお兄ちゃんそのものだ、そう姿だけは

「元気にしてましたか?」

「……。」

「そう睨まないでください、ね?」

いつも通りにこやかに笑う姿は、遊びに誘ってくれた時のようだが彼が自分をここから出してくれる事がないなどわかりきっている。

何度か外に出してと頼んだが断られてしまった

そして壊さぬようにと枷を付けられてしまったのだ、今更こんな状況になって大人の言っていることが理解出来たように思う。

いつもいつも殴られては連呼されてきた”出来損ない”という単語はこういう事なのだと

能力ありと無しじゃ格が違う

勝つことは愚か戦いを挑むものではない。

ただ従うしかなかった、幸い檻の中にさえ居れば何もしてこない、ならばずっとここで過ごすしかない

壊す方法もわからなければ、今目の前に居る兄と名乗る人物が誰なのかもわからないのだから


光の通さない赤い目がこちらを凝視する。

まるで他人でも見るかのような蔑むような、しかし怯えたようなその眼差しを愛しいと思ったのはいつからだろうか。

邇兎を閉じ込めた後、あのクズ両親を(めっ)するべく両親の部屋へと向かった

あの時はあっけなかったように思う

こんなにもあっさり障害は居なくなるのかと、何故今まで自分は自分の能力の強さに気付かなかったのか謎なくらいだ

時間を操り、薔薇を出現させ時に幻覚を見せる。

多少失敗しても近くにさえ来れば血を体から出すことだって簡単だ。

そして両親が居なくなった後の開放感は言い表し用がなかった

もう勉強を強制する者はいない、この喜びを邇兎にも分けようと地下室へ足を向けると使用人の会話が耳に入った

「そういえば今日まぁたあの子儘兎様の部屋に居たそうよ」

「えっ、最近儘兎様勉強に身が入ってないんでしょう?そろそろ追い出した方がいいんじゃないの?」

「でも一応領主様のお子さんだし…」

その後の言葉は覚えていない

ただ一つわかったのは、邇兎があの場所から出ても居場所がないという事。

彼を愛しているのは自分だけ、元から周りから要らないとされていたなら…

この事実を知ったら邇兎はどう思うだろうか、殴られた時のように笑うだろうか

普通の子供とは考えがズレていると思っていたが本当にズレているのはこの館の住人で邇兎ではない。

そしてそれと同時に”邇兎にはこのままで居てもらいたい”と思ってしまった

あの純粋で曇のない瞳をそのままにしておきたいと、そう思ってしまえば行動は一つ。邇兎をあの場所から出さないこと

鍵は自分しか持っていない、邇兎を隠し、自分だけが見るのには丁度良い場所だった。

「ふふっ、怯える顔も愛しいですね」

「何が言いたい…」

本心を表に出したのか、どうしたのかわからないが最近邇兎の口調が変わった

少し男らしくなり口は少々悪いがご愛嬌という事にしておこう

鍵を使い檻の中に入る、抵抗する様子はなくただこちらの様子を伺うだけ。

静かなものだと思ったが、邇兎には能力が無い諦めている可能性の方が高そうだ。

しゃがみ邇兎の視線に合わせる。

いつぞやの光景だが目的は違った、枷により身動きのできない邇兎の背中に手を回す。

そのまま邇兎の舌に舌を絡ませた。

唾液のまじり合う音が静寂の中に吸い込まれていく。

誰も居ないただ2人だけの空間

「…んっ」

本心に関わらず体は正直なもので

背中を指でなぞると邇兎は体をよじらせる

そのまま押し倒すと服を脱がせる。

されるがままの邇兎もまた可愛いもので、自分を見る瞳に光はない

それでいい、ずっと自分だけをその瞳に映してさえくれたら、私はそれで満足…と言ったら嘘になるか。

今行っている行動はきっと全て矛盾した狂った思考なのだとわかってはいた

しかしわかっていたところで後戻りは出来ないし、止まることすら不可能なのだ。

カチャリと邇兎に付けらた枷の音がする

冷たく乾いたその音は最初の罪の始まり

弟の自由を奪う罪悪感と

愛しい者の全てを握る優越感が混ざり合い複雑な心境を隠す為に紛らわす為にまた罪を重ねる。

「はぁっ…はぁっ…」

甘い吐息が漏れる

邇兎はもう疲れていた。

疲弊しきっていたという方が正しい

牢屋に何年も閉じ込められ、夜の営みは週三日のペースで行われる。

しかしそんな疲れてやつれていく邇兎を見ても愛しいと思ってしまう自分はあの親以上に狂っているのだと、そう思わざるおえなかった。

狂愛…例えるならばこの言葉が最適なのだろう。

いつから自分は狂ったのかもうわからない。

そして狂っている自分を受け入れているのだからどうしようもない兄なのかもしれない。

止める者もおらず段々とエスカレートしていく行いは自分ではどうしようもなかった。

だからあの使用人の行動はむしろ弟を助けたのかもしれない。

それがこちらに不都合であったとしても。


「けほっ…」

ろくに食事も取ってない上に何やらわけのわからない状態に置かれて体調がすぐれるわけがない。

なんとかあの男はこの場所を去ってくれたが気持ち悪さだけが残った。

「何が起きてるんだよ…」

助けを求める人物など勿論居ない。

元々この屋敷に住んでいる者でちゃんと話を聞いてくれたのはお兄ちゃんとお世話係の人くらいだった。

自分が居なくなろうが構わない、むしろ良いと思っている人物の方が多いかもしれない。

お母さんやお父さんでさえ自分のことを「出来損ない」「我らの恥だ」と言っていたくらいなのだから。

「坊っちゃま?坊っちゃまおりますか!」

女性の緊迫したような声が狭い地下に響いた。

あの男以外に誰が来るというのだろう

「後探していないのはこの部屋だけ…合鍵を作るのに時間がかかりましたが…坊っちゃまおりましたら返事してくださいっ!」

段々と近づいてくる声を遠くに聞いていた。

疲れ果て動く気力すら今の自分にはない。

返事をする気力も無かった

パチンと電気のスイッチを押す音が聞こえると微かに明るくなる。

その光に照らされるかのように懐かしい人物が現れた。

清楚なメイド服に身を包み、短い茶髪は少し癖があるのか先の方がはねている。

ピクピクと動く茶色の兎耳は自分を見るなりピンと立ち上がった

「坊っちゃま!まぁ、なんて痛々しい姿…お待ちください今何か食べ物と飲み物を持ってきます!」

バタバタと駆けて行った使用人、メーベル、彼女は自分の世話係をやっていた人だ。

言動からして自分を探してくれていたようだが、頭の回らぬ状態では話す事は出来なかった。

「坊っちゃま、好きなだけ食べてください!」

メーベルは戻ってくると、目の前にトレーを出した。

それを隙間からこちらへと渡す、正直食欲は無かったが、ずっと少量しか食べてなかったのもあり体は限界を迎えていた。

とりあえず出されたものを全て食べ終えると少し頭が働いた気がする。

「メーベル」

「なんでしょう?」

「なんでこの場所に?」

率直な疑問を彼女にぶつけた

すると答えは一瞬で返ってきた。

「私は坊っちゃまのお世話係です!もう亡くなっているとはいえ貴方の両親から預かっています!居なくなったら探すのは当然です」

「亡くなっている…?」

メーベルはあっ…といった表情をした。

両親が亡くなっている。

初めて知る事実に驚きつつもそこには、死んだという真実が自分の中でリピートされるだけ。

何の感情も生まれなかった

「あ…えと…その…」

「大丈夫、ちょっと驚いた、それだけだから」

自分がそう言うと、そうですか…と少し寂しげに頷いた。

話題を変えたかったのかおぼん受け取りますね!と明るく言って(から)になったおぼんを回収する。

「そうだ…お兄ちゃんは元気か?というか今はどこに…」

「儘兎様ですか?元気とおっしゃいますか…まぁ長として頑張っていらっしゃいます坊っちゃまならば知っていると思っていたのですが」

「え…?」

自分が聞き返したからかキョトンとした表情をされ次には両親の死より嫌な真実を言われた

「儘兎様がこの部屋に入るのはよく見かけます、毎日会っているんじゃないですか?」


穏やかなメロディが流れ舞踏会が開催された。

広いホールはシャンデリアの明かりで照らされ、その場に出される料理はどれも1級品。

明るい舞台は正に貴族の威厳を表しているかのようだった。

「領主様1曲どうですか?」

ドレスを着こなす奥様方からダンスに誘われる度に対応しなければならないとは面倒だ。

そこまで社交的な性格では無いし、ましてや領主となってまだ半年くらいしか経っていない。

前領主である父上は自分の手で殺した。

全て独学の1からスタートに少々手こずるとは計算外だ

「儘兎様お疲れのようですね?大丈夫ですか?」

ピンクの兎耳に赤い目をし、白いドレスを着た女性。

許嫁である、美瑠(みる)は心配そうにこちらを覗きこむ

許嫁(いいなずけ)といえど父上が勝手に決めたものでそこには愛情など欠けらも無い。

美瑠自身も戦略結婚(せんりゃくけっこん)である以上嫌々な部分もあるだろうが、表面上は仲良くせねばならぬのだ。

「大丈夫ですよ、美瑠さんご心配なさらず」

「そうですか?疲れましたらいつでもお休みくださいね?儘兎様は両親を亡くされてまだ日も浅い…気持ちの整理も付かずこの騒がしい舞踏会は大変でしょう?」

「そ…そうですね」

笑いそうになるのを我慢する。

気持ちの整理なんて言われたら笑うしかない、両親を殺したのは自分だ。

結局外部からの犯行路線(はんこうろせん)で話は進んでいるが犯人が捕まるはずもなかった。

警察自体が自分に疑いをかけることが無いためである。

実の子であり、邇兎の存在が表沙汰(おもてざた)になっていない以上周りからは一人っ子で可愛がられているというのが認識だ。

そんな愛情いっぱいに育てられた息子が殺すはずかないといった見解がこの街そして警察の考えらしい

つくづくアホらしいと思う

あの両親があまつさえ自分の子供を道具と扱う者が愛情を注ぐはずなどなかろうに。

これは全ての裏事情知る者など居ないのだから仕方のない話だが。

舞踏会も終わりいつも通りの静寂がホールを飲み込んだ、さて邇兎に会いに行こう。

毎日の日課となっている重い扉を開ける。

ここの扉、今度付け替えた方がいいだろうか?

階段を下り牢屋が見えてくるとそこには見張れた使用人の姿がありにっこりと微笑んでいた

「なんで君が…」

「親が親なら子も子なんて言葉があります。けれど坊っちゃまは誰にも似つかず素直に育ってくれました」

使用人、メーベルは微笑んだままだ。

何を考えている?その前に彼女はどうやってこの部屋に入った?

「そんな坊っちゃまをこの館にしかもこんな暗い場所に押し込んでおくなんて勿体ないです、もっと世界を見て自分の最適な居場所を見つけるべきなのです。」

「まさか…」

ルーベルを無視して邇兎を閉じ込めていたはずの檻を見るとそこには居るはずの邇兎の姿は無かった。

檻は壊されており足、手枷も破壊済みのようで残骸が無残にも転がっている

「お前…」

「坊っちゃまのお力は私が思った以上に強かったようですね、武器を渡したら楽に壊してしまいました、儘兎様が頭脳ならば坊っちゃまは力という事でしょうか?」

淡々と事実を述べていく。

メーベル、一番邇兎が見つかったら面倒な者に見つかったようだ先に排除すべきだったか

「さてどうしますか?私を殺しますか?」

もう覚悟は出来ていると言うように問いただしてくる彼女に少し考える。

殺してもいいがそれで邇兎に追いつくわけじゃないならば

「もっと重い罰を与えればいいんです、いつだって上に立つ者は下の者の命を握るもの、Night of cards」

呪文を唱えた時、メーベルは消え代わりに人形が目の前に出てきた

「その姿でいつまでも過ごせばよいですよ」

人形を掴みあげると地下室を出る為に階段を上った。


「それは…本当ですか?坊っちゃま…」

メーベルにここに閉じ込められた経緯を説明した。

話したくない内容もちらほらあったので重要な事だけ掻い摘んで

「そんな…儘兎様が坊っちゃまを…」

「逆によく入ってきたのを見たらならそう思わなかったのか?」

「私はてっきり出す方法を模索しているのかと思いました」

天然…といえば聞こえはいいかもしれない。

普通に考えて普段鍵の閉まっている牢屋の扉を開け閉めする必要があるのは、牢屋を使う本人だ。

管理者又は監視者といえばいいだろうか。

「やはりあの2人の子供なのですね、儘兎様…」

「え?」

いえなんでもないですと言われたが、両親と兄が似ている場所があるという事だろうか?

いや、こんな場所に自分を閉じ込めて好き勝手するやつと手を上げる者は同類か

「あの坊っちゃまこれをお使い下さい。」

「えーっと?」

「ヌンチャクです。」

「ぬんちゃく?」

黒い2本の棒が鎖で繋がっている謎の武器を渡された。

ヌンチャクというらしいが使い方がイマイチよくわからない。

とりあえず振ってみるとたまたま足の枷に当たり枷が壊れた。

「あ、こう使うのか」

「そうです坊っちゃま!そのままエイエイと壊しちゃってください!」

「え…でも…」

このまま仮に枷と檻を壊せたとしよう。

その後どうすればいい?あいつはすぐに来る、もしメーベルが俺にコレを渡したことがバレればただじゃ済まないだろう。

「私なら大丈夫です!これでも強いんですから、だからほら遠慮せずに逃げてください」

「…信じるぞ、その言葉」

自分は思いっきり力を入れて檻を破壊した、正直自分でも驚くくらいに怪力が出たものだ。

そのまま地下を出ると窓を割り、外に出る。

その後はひたらすらに走った、外は暗いが牢屋程じゃない。

月明かりがおぼつかない足元を照らしまるで夢の中にいるようだった。

どこかもわからない場所を裸足で息を切らしながら走る。

しかし限界はやってくるものでついには倒れた

「げほっ…ごほっ…」

「ん?誰か居るのか?」

低い男性の声が聞きこえ、咄嗟に身構える。

しかし暗闇から顔を出したのは見知らぬ男性だった


夜の森を歩く。

別に何か用事があったわけじゃない

強いて言うならばこの街に住む貴族達が舞踏会をしていたので少し興味を持ち見に来たのだ。

たしかに華やかな舞台ではあったがなんとなくあの館は好きにはなれなかった

否、あの館の主と言った方がいい。

儘兎…前領主が死に繰り上げで半年前領主になった男。

表面は良くしているがああゆうタイプは執着しやすい、下手に関わると面倒だ。

そんな事を考えながら歩いているとふいにガンっと人が盛大に倒れたような音がした。

茂みから顔を覗かせるとそこには警戒するかのようにこちらを見る1人の少年の姿

「えーっと…」

「…なんだ知らない奴か」

安心したかのように呟く彼に違和感を持つ

普通ならば知らない者の方が警戒するはずだ。

家出でもしたのかとよく観察すると裸足なのに気付く、しかも血だらけだ

「ちょ君血だらけだじゃないか!」

「え?ちだらけ?」

まるで気付いていないかのような素振りに彼の足を指さすが、反応はないもしかしてこの少年痛覚が麻痺しているのか?

更に見てみるとたしかに服装は貴族のソレに似ているが所々ボロボロで足首や手首には枷が付いていたような跡がある。

体も傷だらけで今にも死にそうな程やつれていた、奴隷だってここまで酷くはない。

「君一体どこからこの森まで走ってきたんだい?」

「もり?どこから?」

単語をあまり理解出来ていないのか、単に混乱しているのか会話が成り立たない。

とりあえず家に来るか?と誘ったが断れてしまった、相当警戒されている。

いやさっきの安心したのような反応がおかしいだけなのだけれど

「そうだなぁ…じゃあ自己紹介でもしようか、俺はレイ、君は?」

「にと…」

仁兎(にと)か、了解」

頭の中の漢字変換が合っていたかはわからないが仁兎が一般的に使われる漢字なので恐らく当っているだろう。

仁兎と視線を合わせるべくしゃがむと一気に距離を取られた

「え、あ、え?」

「………。」

自分が思う以上に目の前の人物は繊細のようだ

いや、行動一つ一つが嫌な記憶と結びつくのかもしれない、そうとう精神的に傷を負っていると見た。

「とりあえず、その足じゃ歩けないだろうし何もしないから家に来なよ、少々うるさいけど」

苦笑いで返すと観念したのか頷いたので、家への門を出す。

驚いたのか固まる仁兎に入って大丈夫だよ、と声をかけると恐る恐る門へと入った。

「レイ様!お帰りなさいませ!おや?そちらの兎耳の少年は?」

「森で行き倒れていたんだ、手当をお願いしたい、この傷じゃお風呂に入れたら逆効果だからね」

「分かりました!」

神殿の中へと戻っていく女性を見送る

何か言いたげな様子の仁兎に微笑むと自分もまた中に入った。

見慣れた景色ではあるが、彼には新鮮なのか目をキラキラとさせる。

「す…すげぇ…」

「君には見るもの全てが初めてなのかな?」

「え?」

問いたかった質問を問う

しかしキョトンとされてしまった、一体どんな生活をしていたのか、見た目から考えたら成人はしている年齢のはずだ、実年齢より老けて見えるのではなければ。

何を聞いても理解されないのでとにかく手当を先程の女性…カレンに任せる。

カレンはこの神殿の医者みたいなものださっきはたまたま通りかかったのだろう、丁度よかったとも言える。

「あの兎相当世間知らずみたいじゃないかレイ」

「清瀧…君またこっちに来たのかい?」

二兎をカレンに任せた後。

二兎の服を用意しようと自室に入ると長い黒髪を靡かせ、顔は黒く良く見えない一見したら女性のような見た目をした男性…とある村の守り神清瀧が居た。

暇を持て余しているのか度々この場所に姿を現す

「お前が面白そうな事をしているからな」

「二兎は保護対象だよ」

「保護ね…相変わらずお人好しな神なことで」

嫌味のような呆れのような、そんな声色で言われた。


「はぁあ、毎回こうなるんでしたらめんどうですねぇ…」

月明かりが窓から入り赤い床を照らし出す。

その赤は絨毯やタイルといった装飾ではなく液体。

その液体の出どころ白いドレスを着て、ピンク色の兎耳を付けたもう動かない人形。

ソレを抱き上げるとまた窓の外を見た

季節は夏。

青々と茂木々が風に揺れ、蛍の光が幻想的に映し出されている景色に、白い粉が混じった。

季節外れの雪

最近世界各国で降り始めたらしい雪は止む気配はなく、暑さで溶ける事も無かった

「恐らくは…この雪も魔法の一種なのでしょうね」

ボソリと呟いた言葉は誰に言うでもない

人形は目を瞑りもう聞く耳を持たないのだから


二兎。

その呼ばれ方にも慣れてきた。

森で保護され連れてこられた場所神殿

この場所の土地神様であるレイ様が治めている土地であり拠点らしい

助けられた恩と行く場所が無かったので仕える事にした。

神獣その響も何か気に入っている、今まで役ただずと言われてきた事しか無かったからかもしれない”誰かに頼られる”という体験はしてこなかった

「にっと〜」

「え、あっはい!」

いきなり後ろから呼ばれて振り向くと笑顔の男性がいた。

清瀧さん…見た目は女性だしノリも軽い最初は女性だとばかり思っていたが男性らしい神に男子女子があるのかと問いたいが

実際レイ様には人間の美人な奥さんが居るので性別の概念はありそうだ

「最近は慣れてきたみたいだな、会話も成立するし」

「あの頃は…その色々わかってなかったですから」

いきなり飛び出した外と知らない世界。

牢屋の暗い世界しか知らなかったような自分にはとても縁遠かった世界にほおり投げられパニックになっていたのと

知らな過ぎた、今だからこそ、それなりの知識はあるがあの頃は本当に無かったのだ

それでもメーベルと話せていたのだから彼女の理解力は並々ならぬものだったのかもしれない。

「ま、頑張れよ真っ白なキャンパスほど描ける情報は多い、まだまだ色々覚える事はあるさ、お前年の割に無知だからな」

「言い返せないです…」

はっはっはっと笑い、背中を叩かれる。

ノリは軽いが言ってることがグサッとくる。

年はもう成人、ここまで無知なのはおかしいくらいだ、もっと勉強しなければと考えていると、前からレイ様が歩いてきた。

「二兎ちょっといいかな?」

「は、はい!」

にっこりと微笑むレイ様から何か嫌な予感がした。


1面の銀世界。

灰色のうさぎはぴょん、ぴょんとゆっくり跳ねて道無き道を進む。

季節外れの雪は止まずついには街をも飲み込んだ。

レイはそれの解決の為に二兎に頼み事をしたのだ

時は少し戻り神殿

「二兎に頼みたい事があるんだよ」

「頼みたい事?」

バサッとレイ様は地図を広げある場所に指を置くそこには『研究所中央地区』と書かれていた

「この場所にハイナという研究者がいるそこ人に会って今世界を包む雪と氷について聞いてほしいそして出来れば解決してきてくれないか?」

俺は黙る。

やっと言葉を覚えて神獣として成長してきた段階でまさか重大な任務を与えようとするとは思わなかった。

言葉に詰まる俺を見て更にレイ様は別の場所を指す、ユークドシティ…まだちゃんとは把握してないが一番法律がしっかりしており平和な国のはずだ

「ここに本当は警察特殊部署いや、特殊部隊と言うべきか、があるんだけどユークドシティ自体が氷漬けな為に連絡が取れないんだせめて水鏡くらいには連絡を取りたかったんだけど…彼女に通じないならハイハさんしか居ない、俺は二兎を信頼して頼んでる、恐らく君にしかできないからね」

何かを知っている、そう取れるような発言をされ言いたいことはあったが

信頼して頼んでるなんて言われたら断れるわけがない、俺は仕方なく承諾して今まさに研究所中央地区へ向かっていた。

深い雪は足を取られ思うように進めない、しかし人の姿では更に足を取られてしまうだろう

「まさか兎の姿になれるなんてなぁ…」

レイ様になれるだろ?って言われた時は驚いたが本当になった時はあまり驚かなかった

なんか当たり前の行動に感じてしまったのだ、本能か何かなのかもしれない。

どちらにしろ任務に役に立つならば利用しない理由はないわけで考えながら1人歩き続ける

珍しく晴れたこの日は照りつける太陽のせいで眩しく雪は真っ白に光を反射しており前が見えなかった。

ズボっ…鈍い音がするといきなり足元の雪が崩れてガンっと背中に痛みが走る

「いっててて…」

最近痛覚が戻ってきたからか痛みを感じやすくなっていた俺はしばらく悶えると上空を見上げた

穴は深くうさぎの姿では出られそうにない

しかし人間の姿になればたちまち雪に埋まってしまう…

どうやって出ようか頭を巡らせていると男女数人の声が聞こえた

「…ちた…する…」

「き…せい……じゃな…」

遠くにいるのか上手く聞き取れないでいると視界が一気に暗くなり驚きで声を出すところだったがなんとか我慢する

すると手が伸ばされひょいと持ち上げられた。

持ち上げた張本人、目の前にいる少女の髪は紫で、髪よりもピンクに近い赤紫の瞳と赤い瞳のオッドアイ。

そこに光はなくまるでアンドロイドのような少女がこちらを見つめていた…

狂った物語っていいですよね…

個人的な趣味趣向を詰め込みました

少しでも興味を持ち読んでくださった方々ありがとうございます

感想等頂けたら励みになりますし、次回作の参考になりますので助かります!

なろうは辞める気無いのでゆっくりペースですがこれからも慧琉にお付き合い下さい!

それではまた!

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