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〈大階段ー踊り場〉入団試験2

「始めなさい」


 試験官のメトロノームが開始を告げた。


 鍵束の男は宝箱の前にかがみ込み、早速作業を開始する。

 慣れた動作で宝箱に耳を聳てたり、拳で軽く叩いたりして、内部の罠を探ろうとしているようだ。


「これは……?」


 だがすぐに鍵束の男の顔色が変わった。

 溢れていたはずの自信がなくなり、手を止めて何かブツブツと呟いている。


絡繰(からく)りが複雑過ぎる……? だが予備団員の試験が……ここまで難しいわけが……?」


「どうなさいましたか?」


「なあ……この宝箱、どこの階層から持ってきた?」


「地下十ニ階層ですが?」


「じゅ十二階だあ⁉︎」


 鍵束の男は顔色を青ざめさせた。


「ありえねえだろ……そんなんが外せりゃあ罠外しだけで飯食っていけるじゃねえか……」


「どういう事ですか?」と僕は、青年冒険者に聞いてみた。


「うーんかなり難易度が高い罠が仕掛けてあるみたいだねえ」


 そう言えば師匠から聞いたことがある。

 深い階層に潜れば潜る程、そこで手に入る宝箱の解除難易度は高くなり、凶暴な罠が仕掛けられていると。


 地下十二階はかなり深い場所だ。

 腕利きばかりが集まった団が命がけでようやく到達できると聞いている。その領域まで踏み込める冒険者はそう多くないだろう。


 そんな階層から回収してきた宝箱なら、仕掛けられた罠は生半可な腕で解除できる代物ではないのだろう。


「勘違いしているようですから、御指摘させて頂きますがーー」


 試験管が長い髪をかきあげながら言う。


「うちは迷宮都市屈指の(クラン)です。例え予備団員だろうと見込みのないものを入団させるつもりはありません」


「楽勝だからって聞いてたのに話が違うじゃねえか」


「それはギブアップ宣言と捉えても宜しいですか?」


「ちくしょう! 開けりゃあ良いんだろう! 開けてやるぜ!」


 鍵束の男はやけになった様子で、宝箱に平たい棒の様な工具を突っ込むと、一気に持ち上げーー。

 ぷしゅーと隙間からピンク色の煙が吹き出した。


「は……げ……?」


 煙をまともに浴びてガクガクと全身を震わせたかと思うと、その場に崩れ落ちる鍵束男。

 全身をピクピク痙攣させているそのその様子を見る限り、罠は麻痺ガスだったのだろう。


「次の方、どうぞ」


 試験官は眉一つ動かさず、指を鳴らして参加者たちを促した。


「げへへ俺様がやるぜ」


 ざわつく参加者たちを掻き分けて、一際、巨体な人物が現れた。

 スキンヘッドで半裸、むっちりとしたガタイと入れ墨を晒した、如何にもパワーファイターといった感じの男だ。


 どう見ても罠外しという繊細な作業には向いていなさそうな外見だ。

 手持ちの道具は肩にかけた大きな木槌のようだ。


「あの人、盗賊には見えないんですけど?」


「そのようだね」


「これって罠を解除する試験なんですよね?」


「ノン。試験管は宝箱を開けろと言ってだけ。その意味を考えてみるといい」と青年冒険者が笑う。


 あの大男がこの試験をどうやって攻略するのか見当もつかない。

 ただ試験官は募集枠は戦士職か盗賊職と言っていた。だからきっと求められているのは罠解除の腕前だけではないのだろう。


「なあ姉ちゃん、開けりゃいいって話だがよ」


「ええ」


「壊しても構わないよな?」


 それは開けるとは言わないのではと、ツッコミを入れたくなった。


 だが「試してみれば宜しいかと」と試験管は促した。


「げへへ。楽勝、楽勝」


 パワーファイターは大木槌を振りかぶりると、「どりゃ」と地面目掛けて力いっぱい振り下ろした。

 カッ――次の瞬間、踊り場全体が閃光に包まれた。


「……」


 どうやら宝箱には爆弾の罠が仕掛けられていたようだ。

 ゆっくりと煙が晴れると、火薬の匂いを辺りに充満させながら黒焦げになって立ち尽くす巨漢の男。


「かは……」と口から煙を吐いた。

 それから半分墨と化した大木槌の持ち手が崩れ落ちると、ばたんと大の字で倒れてしまう。


「そのお方は、続行できそうですか?」


「こいつあ無理ですね。白目剥いちまってらあ」


 まさかの瞬殺だ。


「ふん……期待外れもいいところです」


 待機していた他の団員が、大柄の男を担架で移動させていく。

 長髪の試験官はこちらに向き直ると、淡々とした口調で告げてくる。


「御覧の通り威力も折り紙つきです。罠外しの技能もしくはタフさに自信のない者が開ければ致命傷にもなりかねません。決死の覚悟で取り組んで下さい」


 そして「さて次の方」と促した。

 だがもう前に出て試験に挑もうとする者は一人もいなかった。


「どうしたのです。ここにいるのは腰抜けさんばかりですか?」


 試験官が眉を顰め、周りを見回し、そう問うた。


 参加者たちは出方を伺うようにして縮こまり、ただ騒めいているだけだ。

 無理もない。想像していたよりも高い難易度の試験に萎縮してしまっているのだ。


「これはチャンスです。最初の待遇こそ呼び団員ですがいずれは正式なメンバーに迎え入れるつもりです」


「副団長……皆んなビビってやすぜ?」


「むう。もう飛び入りでも構わないから誰かいないのかしら」


「あ、それなら僕やります」


 僕はひとり手を挙げ、前に進み出た。


 正直、入団にはかけらも興味がない。

 交響遠征旅団は何となく雰囲気が地味だし陰気だし、人の多さで、地下迷宮を攻略しようとする理念も好きじゃない。


 何より自分が所属するなら、あの威風堂々か自分が立ち上げた団だけと心に決めていた。

 

 ただこの試験を攻略すれば、実力を示すことができそうではある。


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