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地下二階〈塵捨て場〉ー新天地2

「別の塵捨て場を開拓しよう」


 今いる塵捨て場からはもう獲り尽くしてしまったなら、これはもう場所を変えるしかないだろう。


 早速、奥の通路を渡って、次々と別の広間ーー塵捨て場に移動する。


 この辺りなら以前にも何度か訪れたことがあるが、落ちている塵は比較的最近のものばかりだ。きっと拾っても今までと代わり映えのないものしか手に入らないに違いない。

 だから目指すべき新天地はここではない。


 指を舐めて、風の流れを確認してみる。

 風上を辿っていくと塵の山に隠れるようになっている通路を発見できた。大人にはきついかもしれないけれど自分なら何とか通れそうな隙間だ。


「よっこいしょっと……」


 無理矢理身体を滑り込ませるとちゃんと僅かだがヒカリゴケが群生している湿った通路に出る。


 ろくに魔物がいないとはいえ慣れない場所なのでおっかなびっくり進んだ。魔物もろくに出ないただの地下二階だけれど冒険している気分で何だかワクワクして楽しい。


 ここなら地下三階に降りたわけではないの勝手に行動しても師匠も文句は言うまい。


「ここが次の広間か」


 最初の広間よりは手狭だ。

 だがここにも塵は広がっており、薄っすらと埃が被っているものの塵自体は比較的新しい。折れた鉄製の円盾を指でなぞり、錆び具合を確かめてみるが、数年経過と言ったところだ。


「うーんまだちょっと新しいな」


 もっと古い塵、少なくても十年モノの塵が落ちてる場所が望ましいのだ。


 僕が探しているのは師匠が以前に話してくれた徴税官がいた時代の塵捨て場だ。

 あの頃は税金対策で泣く泣く必要最低限の物だけを持ち出したという。ならば当時は使えそうなものまでも捨てられている可能性が高い。


 つまりそこが僕の目指すべき新天地。

 そこで《妖精眼》を行使すれば今拾っている物よりも格段に良い品ーー例えば魔導具のようなお宝が拾えるかもしれなかった。


「おや?」


 先客がいた。

 白いワンピースを着た少女だ。


 白く長い髪の毛が地面について汚れるのも気にしないで、一生懸命に足元の塵をひっくり返している。


 僕のように塵拾いをしている冒険者が他にいるとは思えなかったが、一体何をしているのだろう。


「あのーどうかしたんですか?」


「誰?」


 少女が険のある視線を向けてくる。


「いや何してるんだろうと思って」


「落し物を探しているだけ……用がなければ余所に行って……」


 その顔は少し泣きそうになっていた。

 余程大切なものを落としたらしい。


「落し物ってどういうの?」


「ペンダントだけど……」


「ちょっと待ってて」


 簡易鑑定使えば手助けできるかもしれないと思った。

 できる限り周りが見渡せるように小高くなった場所に移動してから、《妖精眼》を発動させる。


 結果、三度目の行使でそれらしいものを見つけた。

 近づいてみると少し古びた太陽と月の絵が入ってるペンダント――多分これじゃないだろうか。


「もしかしてこれかな?」


「ずっと探しても見つからなかったのに……どうやって見つけたの?」と驚かれてしまった。


「目がいいんだ。ええと素敵なペンダントだね」


「うん。ママの形見」と少女が真面目な顔で何度も頷く。


 成る程、それは大事な物だ。


「暇つぶしに水饅頭(スライム)の雄と雌の違いを調べてたら、うっかり外れちゃったの」


 どうしよう。

 ちょっと変わった女の子だ。


「ちなみに人間の雄と雌の違いは」と言いながらスカートの裾を持ち上げ出したので慌てて制止する。


「ある程度、知ってるから言わなくていいです。教えてくれなくてもいいです」


「そう」と何故か不満そうにスカートから手を離した。


「私、ルーナだよ」


「僕はナード」


軟弱者(ナード)? 変な名前」


 少女がようやくくすりと笑った。


 ルーナはもしかして魔術師なのだろうか。

 白いワンピース姿という出で立ちは、かなりの軽装で荷袋も持っていない。


 かの職業は体力がなく呪文詠唱で邪魔になるので、重量のある服装を避けるというがここまで身軽な装いはしない気がする。

 ただ杖すら持っていないのは冒険者としてどうなのだろう。


 それにしても地下二階を出入りする冒険者なんて僕と師匠以外にいないと思っていたけど、案外いるもんだ。


「ごめんなさい。今のうちに謝っておくけど、私あんまりお金持ってないからお礼とかできないよ」


 別にお礼目当てではなかったので気にしないで欲しい。

 ただ丁度、聞きたいことがひとつあった。


「もしこの辺りに古い塵捨て場があれば教えて欲しいんだけど」


「古い塵捨て場? 何するの?」


「まあちょっと」


「ふうん心当たりがあるから、案内してあげる」


 そう言って、広間の奥にある通路に向かって少女が歩き出した。

 訊いてみるもんだ。



「こっち」


 少女――ルーナに案内されながら、僕は頭のなかで地図を描いていく。

 地下二階は案外広大だ。

 今までいつもの塵捨て場しか出入りしていなかったので気づかなかったけれど、こんなに冒険しがいある場所なら、もっと早く探索しておけば良かった。


「ルーナこの辺りには詳しいの?」


「うん私の庭」


 軽やかな足取りで通路を先導するルーナ。


 庭と豪語するくらいだから、相当詳しいのだろう。わりと歩くのも早くて追いつくのが大変だった。


「大階段の近くは寄らないようにしてるけど、緑色の水饅頭(スライム)が出るからたまに遊びにくるんだ」


「ふうん」


「水饅頭ふにふにして可愛いでしょう?」


「……」


 よく理解できない感性だ。

 害のない水饅頭であれ、迷宮の魔物である以上、侵入者である人間には過剰な害意を持つ。

 いわゆる、敵愾心(ヘイト)と言われている現象だ。


 だから相手は攻撃を仕掛けるか、逃げ出すかのどちらかしかせず、人に懐く事はないのだが、彼女にとっては遊び相手らしい。

 一応注意しておこう。


「あーでももし緑色以外のに出会ったら気をつけた方がいいよ」


「紫色のに出会ったら毒持ち。それから青いのが酸持ちで、赤いのが猛毒持ちだよね。そんなの常識」とルーナ。


「……」


 何だ僕より詳しいじゃないか。

 この辺りには滅多に出現しないので、出会うことはないし、見たこともないのだけど確かに水饅頭にも危険な種類がいる。

 僕の場合、師匠の受け売りであったのでひけらかそうとしたみたいで少し恥ずかしかった。


 彼女は見かけによらず実力のある冒険者なのかもしれない。


「この地下二階にはそれよりさらに恐ろしい魔物がいるって知ってる?」


 少女は得意げに言ってきた。


「それどんなの?」


「見上げるくらい巨大な水饅頭」


「は……それ冗談だよね?」


 水饅頭の大きさには個体差がある。

 けれど、そんな大きなものは見たことがない。大きいと言っても子猫から大型犬のサイズがせいぜいだ。まさかそんな大物がいるとは知らなかった。


「一番大きいのはヌシって呼ばれてて何百年も生きてるやつ」


 ルーナは至極真面目な顔で言う。


「襲いかかってくることはないけど、地下迷宮の一部に擬態してやってきた生き物を捕食するんだって、うっかり飲み込まれちゃうと人生詰むって」


「き、気をつけよう」


「とは言っても私も見たことがないし、もっともっと奥深くに行かないといないと思うけど」


 僕はほっと胸を撫で下ろした。

 きっと水饅頭の長老的存在なのだろう。あんまり水饅頭をいじめないようにしよう。


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