報われない少年
「空はあんなに青いのに……」
翔はうろんげな目付きで空を仰ぐ。雲一つ無い晴天である。彼の心は雨模様であるが。
入学式という事で、彼の学校は午前中に終わり、気になっていた女子生徒に声をかけて、意を決して告白したのだが__。
(『阿蘇川君って、凄く綺麗な顔をしてるでしょう?それこそ下手な芸能人なんかより余程……一緒にいたら比較される上、悪口まで言われたら胃に悪いから無理です』ってなんだよ!?俺だって好きでこんな顔をしてねぇわ!)
やり場の無い苛立ちに、思わず足下の小石を思い切り蹴りつける。蹴られた小石は放物線を描き、何処かへ飛んでいった。
(いつもそうだよクソッタレ!)
彼はモテる為に様々な努力をしてきた。
清潔にするのは当然の事で、筋肉を付ける為に毎日トレーニング&プロテイン。だが、筋肉が付きにくいのか、一向にムキムキになってくれない。
それならばと、身だしなみにこだわろうと様々なファッション雑誌を駆使して、デパートやらアウトレットやらに向かったところ、中性的な見た目が災いして、婦人服売り場に案内された上、ブラジャーやショーツまで履かされそうになる始末。
だったら香りとかアクセサリーならどうよ?とばかりに、新宿や渋谷に繰り出してみれば、女性の店員にガチメイクされた上、チャラい兄ちゃんにしつこくナンパされるわ、スカウトっぽい連中に付きまとわれるわ、挙げ句の果てには性欲を持て余してそうな『兄貴』に目をつけられるわと散々な仕打ちを受けた。
SNSに『渋谷の街に超絶美少女降臨』と題された写真をアップされているのを知った時は、軽く自殺を考えた程である。
報われない。全くもって報われない少年である。
「畜生……どうしたら良いってんだよ……」
深くため息をつきつつ、今日は枕を濡らしてふて寝してやる事を心に決め、顔を上げて正面を向いた。
__そこには、白いタンクトップを羽織った、筋肉ムキムキな、多分名前は『さぶ』だろうと思われる笑顔が素敵そうな兄貴が、小石を摘まんで立っていた。
「……あ、あの……」
さぶが摘まんでいる小石を見て、さっき蹴った小石である事に気が付きつつ、さぶの頭部に軽くこぶがあると確認できる。
「……運命って、君は信じているかい?」
「はい?……は……え?」
意味不明な事を呟きながら、さぶは眩しい笑顔で翔に近づいて来る。
「俺は信じた。だって、こんなにも可愛らしい『弟』が現れたのだから……」
「弟!?いや、え?」
身の危険を感じた翔は、ジリジリと後退していく。
「………」
さぶはズボンのチャックに手をかけ、ゆっくりと下げていく。
「やらないか?」
「い、いいです!」
「…いいんだね?」
「け、結構です!」
「…結構なんだね?」
「……ご」
「?」
「ごめんなさいぃぃぃぃ!」
謝りながら逃げ出した。
何やらさぶも追いかけてきているみたいだが、振り向いたら終わりとばかりに全力疾走である。
「恨むぜ神様!どうしてこうなる!?女にゃ縁が無い癖に、モーホーは黙ってても寄って来やがる!前世か?前世が悪かったのか!?」
翔とさぶの追いかけっこは、それから一時間続いた。