序章 魔界にて
魔界と呼ばれる場所がある。
地が割れ、空は黄昏に染まり、草木は枯れ、生命の息吹きが感じられない場所……………。
という事は全然無く、自然が溢れ、人間とは異なるが、人間界でいう悪魔やモンスターが、人間界と変わらない生活を送っていた。
長閑な田舎があれば、忙しない都会もある。
都会の中心部に、恐ろしく大きな建造物がそびえ立っており、その建物を魔界の住人はこう呼んでいた__【魔王城】
【魔王城】は日本でいうところの都庁の役割を持っており、建物の中では、沢山の種族が忙しなく働いていた。
「郵便です」
ガルーダの郵便職員が、窓口に大量の書簡やら何やらを置いていく。
「また随分な量を持ってきたわね……仕分けが大変そう」
ため息をつきつつ、クラーケン族の女性職員がぼやいた。
「いつもはこんなに多くは無いんですけどねぇ……今日は特別に多いみたいです。受領印を下さい」
受領印を受け取ったガルーダの郵便職員は、忙しなく次の配達場所へと飛んでいった。
その姿を見送りつつ、今日は本当に忙しいのねぇと呟き、十本の触手を駆使して郵便物の仕分けを始める。
「……これは税務課。これは地域活性課。それでこれは……」
どんどん仕分けられていく郵便物の中に、見馴れないハガキを一つ発見する。
「……魔界家政婦派遣センター?……ああ、この前新設された部署」
女性職員はハガキを手に取り、よく確認をせず、転送魔方陣に放り込んだ。
その時、もし、このクラーケン族の女性職員がしっかりと確認していたら__。
本来、他世界の接触__特に人間界との接触を厳しく制限しているこの魔界の審査が、ちょっとした歪みで誤作動を起こし、通る筈の無い審査がされないまま素通りされてしまっていたら__?
この日が特別に忙しくなかったら__?
様々な偶然が重なり、何かの歯車が、ゆっくりと回り始めた。