星になった妖精
ハイドは夜空にひろがる満開の星々を、ひとり、ながめていた。
ひとつひとつの星たちがきらきらと輝いている。でもね、輝いていたのは、星だけじゃなかったんだ。ハイドの目元をよくごらん。ひと雫の涙が、まるで星のようにきらきら輝いてるでしょ?
「ルーシーおばあさんは、星におなりになったのよ。なんて綺麗なんでしょ……」
あれは、たしか幾年もまえのことだった。
そういや、ルーシーおばあさんは、手編みがとてもお上手で、よく孫にあたるハイドには、洋服を作ってあげていたね。
そして、いま、ハイドが着ている白い絹のワンピースも、ルーシーおばあさんが作ってくれたものなんだ。そしてルーシーおばあさんは、まるでお花のように繊細で、まるでお星さまのように明るかった。そんなルーシーおばあさんが、ハイドも妖精も鼠や虫だってみんな好きだった。
じゃあなんで、ハイドはルーシーおばあさんのことで泣いてるのだろうっ、て思うでしょ? ルーシーおばあさんは、そうとうなお年寄りの妖精だった。つまり、ながらくこの世を知り尽くし、だれよりも辛いことを乗り越えてきた大先輩ってことさ。だからね、天の妖精が、こう言ったんだ。
「お疲れさま。もう、いいわよ」ってね。そして、連れていってあげたんだ。あの綺麗なお空のさきへ。お空のさきには、辛いことを乗り越えてきて、頑張ったひとにしか、けっして与えられることのないご褒美が与えられるんだ。
それがなにかって? それは、このぼくにだってわからないさ。ただね、お空へいった妖精たちはみんな星のように輝くんだ。それはそれは美しく……。
そんでハイドは、星になったルーシーおばあさんのことを思って、星空を眺めながら泣いているんだ。
いっぽう、ほかの妖精たちは、ルーシーおばあさんのお葬式を終えたあと、みんな忙しかった。ふつうなら、お葬式だもの、つかれてみんな休んでいるんじゃないの? って思うよね。でも、彼らは、とっても忙しかったんだ。
赤や黄色や緑なんかの、きれいなお花をつんでは、そのつんだ花を、ちっちゃな舞台のまわりに飾るんだ。
女の子の妖精は、お花ばかりで作りこんだドレスに着替えていた。それはそれは、薔薇の花なんかよりずっときれいに着こなしていたよ。男の子の妖精は、きらきらの宝石でいっぱいの礼服に着替えていた。それはそれは、宝石なんかよりも、ずっと紳士らしく着こなしていたよ。
そうして黒い模様から、いっきに、はなやかで彩り豊かになっていったんだ。
何をしようとしているかって? それは、これからお話しよう。
「ハイド! あんね……」
声が聞こえて、ハイドは涙を腕でぬぐいながら、ふりむいた。
それは、友だちのエナンだった。
「どうかして?」
「あんね、このお手紙を読んでちょうだいな」
そう言って、エナンはハイドに四角に折りたたんだお手紙を手渡した。
そしたら、ハイドは、その場で読みはじめることにしたんだ――(気を紛らわしたかったのかもね)
「ハイドおじょうさんへ。このたび、ルーシーおばあさんにおいて、おくやみ申し上げます。けんど、私どもからお誘い申しあげますわ。いやだったらいいのよ。ただね、こういうときこそ、笑顔がいちばんと私たちは考えていますのよ。もし、気が向いたら、そのときは、原っぱの舞台にきてちょうだいな。きっと、すてきな星空になってよ。あなたを愛する妖精たちより」
それは読んだとたんのことだった。ハイドは、エナンに抱きついてこう言ったんだ。
「ああ、なんてお優しいのかしら。わたし、行くわ」
そうして、ふたりして舞台へとうちゃくした。
みんな綺麗な服をきて待っていた。そんで、みんな笑顔だった。
「さあ! ハイド、楽しいダンスのはじまりだ!」
ひとりの妖精が、そう言うやいなや、音楽とともに、みんな踊りだしたんだ。
バイオリンや、ピアノ、フルートなんかの音を奏でる妖精たちも、ちゃんといたからね。
見てごらんよ、ハイドがさっきまであんな泣いてたのは、嘘のようだ! 愛らしいえくぼを作って笑っているのだから。
そう、ほんとうに辛いときって言うのは、大事なものやひとを、なくしたときだ。だけども、その辛さや痛みを、支えてくれるものも、また、ひとなんだ。
それだけ、思いやりが、とても肝心なものだってこと、忘れちゃだめだよ。
もしも、妖精たちの思いやりがなかったのなら、今のように、ハイドが笑顔になれることも、なかったかもしれないのだからね。
ああ、感心、感心。妖精はやっぱり感心だ。お友だちが悩んでいたら、みんなが、助けてあげたのですもの。
これは、ハイドにとって、おおきな救いだったろうね。
ああ、よかった、よかった!
あっ、ほら見てごらんよ。いちばん星がまるで太陽のように輝きだした。ルーシーおばあさんも、これで安心したのだね!
お し ま い