連人
「なぁなぁ、冬休みにどっか、思い出に残るようなところに行かねぇか?」
---------きっかけは、そんな些細な言葉だったような気がする。
その時は皆、その提案にノリノリだったし、誰ひとり反対する人なんていなかったから、当然それは実行される事になった。
季節は冬。
雪が多いこの地域は、その雪の多さを生かした祭りが多く開かれる。
今年もたくさんの祭りがあちこちで開催されるようで、私たちはどれにしようか悩んでいた。
私は香月弥生。
高校1年生だ。
「うーん.....どれも1度は行ったことのあるヤツばっかりだなー」
長瀬拓史が言った。
彼は私たちにいつも何か面白いことを提案してくれる、まとめ役のような人だ。
「そーだねぇ。どうしようか?」
そう相槌を打つのは綾部千佳。
とても活動的で、私の幼馴染みだ。
「なぁ、じゃあよ、ここに行ってみねぇか?」
そう言って不敵に笑っているのは鈴木文弥。
噂好きな彼は、いろいろな話を聞かせてくれる。
「えっ?ここって確か、今年中に取り壊すとか言って放置されてる古い神社?」
「あぁ、そういえばここの神社も毎年冬の祭りしてたな」
「そうなんだよ。でさー、なんかここ......出るらしいぜ?」
文弥がニヤリとする。何か噂話をする時、彼は決まってこの顔をする。
「えー!またまたぁ、うそでしょー!?」
「いやいや、それがどーも本当らしい。先輩がマジやべぇって言ってたんだ」
「いや流石にそれは誇張だろ?」
「いやだーかーらー!」
「ねぇねぇ、弥生はどう思う?」
「えっ、私は....信じる、かな」
「おおー!流石弥生ちゃん!分かってるぅ!!」
「で、どうする皆?出る云々は置いといて、行ってみるか?」
拓史が意見をまとめる。いつも私たちは多数決で決めている。
「千佳ははんたーい!だってホントに出たら、怖いじゃん!!」
「俺は提案者だし、勿論賛成っつーことで」
「弥生は?」
「私も賛成で」
「たっくんはー?」
「うーん、そうだな、まぁ、行くだけなら大丈夫じゃないか?」
「えぇー!?みんな賛成なの!?」
「ふっ、これで決定だな!!」
文弥が勝ち誇ったように言う。
その神社に行くことに決定し、集合場所や集合時間を決めて、その日は各々帰宅した。
私たちは高校に入ってから仲良くなり、よく一緒に行動するようになった。
みんなでたくさんのことをしてきて、今年はいい思い出をたくさん作ることが出来た。
あっという間に季節は冬になり、さっきの話題が出たのである。
祭り当日の昼頃。
「よーし、全員集まったな!それじゃ、行くか」
いつものように拓史の先導で私たちは歩き出す。
例の神社は、少々遠い所にあるので、少し歩くことになった。
先頭に拓史。
その後ろに文弥と千佳が話しながら歩き、私は1番後ろにいた。
辺りはすっかり白銀の世界で、しかも木々が多いため、まるで別世界に迷い込んでしまった様だった。
「でよ、そろそろどんな噂なのか、言ってくれてもいいんじゃねぇか?」
拓史が振り返りながら聞く。今日まで、文弥は一切なにも教えてくれなかった。
「そうだなー、確かに、雰囲気出てきたし、話すか」
そう言って文弥は全員に説明を始めた。
「まず、ここら辺の伝承?って分かるよな?」
「あれだよね、お化けが夜に出て、昔から人を喰べてるっていう」
「そうそう。まぁ、今になって考えてみると、なんでお化けが人を喰べるとか、ツッコミどころが満載な話だけど」
「それで?」
「あぁ、実はそれ、人を喰うんじゃなくて、連れていくらしいんだよ」
「はぁ?何処にだよ?」
「黄泉の国だってよ。それで、だ。そのお化けが封印されてるのが今向かってる神社なんだよ」
雪が降ってきた。今日は降雪確率0%じゃなかったっけ......。
「え?それでもしかして取り壊せないとか?」
「おっ、鋭いなぁ千佳。そうなんだよ。何でも、中のものは全部別のところに移して、お祓いとかもしっかりしたのに、そのお化けが強すぎて神社から離れないらしい。で、取り壊そうとすると必ず誰かは行方不明になるらしい」
何だろう、みんなの歩くスピードが速い。なんでみんなそんな早足なんだろう......。
「でよ、もうちょいなんだろ?早く行こうぜ!」
「うん!そうだよね!千佳も楽しみ!」
「ほらほら、弥生ちゃんも、イコウ?」
そこで初めて気付いた。
彼らの表情がないことに。目が虚ろなことに。
そして奥には、こちらを手招きする血だらけの手が無数にある。
それらが一斉に私に向かってきている。
「イコウ?イコウ?イコウ?イコウ?........」
「イコウ?イコウ?イコウ?イコウ?........」
「イコウ?イコウ?イコウ?イコウ?........」
元は人間だった者達が、私に言葉をかける。
震えて動けない私に、それまで不明瞭だった声が、急に確かな響きを持って私に届く。
「来い」
一斉に血まみれの手が私に迫る----------。
--------おい、知ってるか?
--------何をだよ?
--------人をどっかに連れて喰うお化けの話。
--------なんだよそれ、今どきいんのか?
--------それがさ、いるんだよ!行こうぜ!
--------........そうだな。行こうか。
彼らが何処に行ったのか、それは誰も知らない。