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最終日

 電話が、鳴った。

 電話をかけた主が後藤巡査であるということは、電話機のディスプレイの表示で既に分かっている。

 ――駄目押しが利いたの、かしら?

 電話機のディスプレイを確認した電話の持ち主はそうニヤリと微笑んだ。昨日、向こうを出る前にちょっとした仕掛けをしてきたその事を考えているのだろう。

 ――とにかく、電話に出なければ分からないわ。落ち着いて。

 そして受話器はとられた。

「もしもし、後藤です。あの、美千子さんですか?」

 彼女の耳に少し慌てた様子の後藤巡査の声が飛び込んでくる。

「ええ。何かあったの、かしら?」

「はい。あの、申し訳ありません。実は悪いお知らせが……」

 巡査のその声色には、焦りのみではなく落胆やショック、あるいは不甲斐なさなどが多分に含まれていた。

「なんでしょうか……」

 美千子は緊張した面持ちでそう訊ねる。この後藤巡査の回答によってこの度の計画の成否が判明するのであるから、当然のことであった。勿論巡査は彼女がそういった意味で緊張していることを知る由もない。おそらくどんなに悪いお知らせなのか、不安で緊張しているのだろうとでも考えているのであろう。そんな彼は、言葉を続けた。

「……本野角朗さんが、亡くなりました。自殺でした。止められなくて、申し訳ありませんでした」

 美千子の耳に、角朗の死の報せが流れ込んでくる。美千子はその慶びに身を任せたくなった。しかしもう少しの辛抱である。だから美千子は、そのまま身を隠してもおかしくないような、努めて大きなショックを受けたような声色でそれに答えた。

「そんな……」

 その声を聞いた後藤巡査は大きな不安に落とし込まれ、彼女を励ますような台詞を焦って紡ぎ出した。

「あっ、大丈夫ですよご安心下さい、事件は必ず解決させますから」

「えぇ、ありがとうございます……」

 美千子はか弱そうでありつつも後藤巡査の心配を煽りすぎないような絶妙な調子を探りながら答える。巡査が不安になりすぎて美千子宅へ来たりでもしたら、この後の愛車との逃走が困難になりかねないからだ。しかしその心配はいらなかった。

「それでは、また」

 そう言うと、後藤巡査は電話をきったのであった。


 美千子の気は抜けた。それとともに、彼女の顔にはこの上ない笑みがこぼれ出す。

「あはは……はははは」

 そして美千子の口から狂気に満ちた笑い声が噴き出す。

「はは……私が呪いを演出しているのにも気づかずに……。馬鹿じゃないのかしら? それにこれはあいつの自業自得なのよ、私を…………。あはははははは……うっ、うっ、ううぅ」

 突如として美千子の笑い声に嗚咽が混ざり始めた。

「うう……。どうして私は泣いているの、かしら? 嬉しいことこの上ない筈なのに……」

 そんな疑問を浮かべながら、美千子は泣いていた。たった独り、自分の家で。

 そしてその声は、いつまでも美千子の在る空白で空虚な空間に響き渡っていくのであった。


 第一部、最後まで読んでいただきまして本当にありがとうございました。

 これにて第一部は終了となります。ハッピーエンドを目指していたはずなのに登場人物が暴走しおって……。

 第二部では作者わたしが(キャラに暴走されぬよう)あがいてみます。よろしければお待ち頂けますと非常に嬉しく思います。

 また、何か至らぬ箇所が御座いましたら、指摘戴けると幸いです。


第一部 完


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