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幸せな罪

作者: イフジタダヒロ

「マスター釣りはとっておいてよ」

「九郎ちゃん気をつけてなぁ」

橋田九郎(はしだくろう) 、その男の名だ。

行きつけの喫茶店を出ると、見知らぬ少女が走ってきてぶつかるやいなや走り去って行く。

ポケットに手を入れ財布がないことに気が付く。

「掏られた」

だが警察に届けようとはしない、面倒なことに巻き込まれるのが嫌なのでそのまま帰宅する。

「雲行きが怪しいな」

九郎は空を見上げボソリとつぶやくと足早に歩をすすめるが、雨がザーと降ってきてずぶぬれになる。

「おっさん」

後ろから声が聞こえてきて振り向くと、さっきの少女が雨に濡れ瞳は潤んで泣きだしそうだ。

「どうした?」

「おっさん今日泊めてくれない?」

唐突すぎる……

もし泊めたら警察に捕まるかもしれない。

その思いが先に出て九郎は手を伸ばして断る。

「ダメだ他を当たりな」

「変わってるねおっさん」

この町では家出の少女を泊めるのが当たり前なので、泊めないと言った九郎が物珍しく思え首をかしげて訊ねた。

「どうして?」

「面倒だからだ」

「そっか……」

それが理由として通じるこの町。

少女は涙を拭き無理に笑顔を作り財布を九郎に返すと走り去っていた。

「気の毒に金なんて入ってなかったのにな」

九郎はクスっと鼻で笑い財布の中を確認すと目を丸くした。

とりあえず雨が強くなってきたので帰宅し、風呂に入り服を着替えてもう一度財布を確認する。

「なんでこんなに入ってんだ?」

何も入っていないはずの財布だったがおよそ十万は入っていた。

おかしい……

九郎は考え込むとまた財布を見て、自分が何らかの事件に巻き込まれた事を想像した。

「警察」

九郎は携帯電話を手に取りかけようとしたが、自分が捕まりかねないので止めておき、再度財布を見て中に紙きれがあるのに気づき見てみると電話番号が書かれていた。

「……」

九郎は勇気を出してその番号に電話をかけると少女がでた。

「おっさんそのお金で泊めてくれる?」

「君はどこからこんな大金を?」

汗をタオルで拭い少女に問いかけると玄関先から笑い声が聞こえ、そこを見ると少女が立っていた。

「どこから?」

「普通に鍵あいてたし」

九郎は少女を家から押し出そうとしたら、逆に脅迫まがいなことを言われる。

「警察呼ぶよ?」

九郎は警察沙汰にはなりたくないのでとりあえず少女を家に入れてお茶を差し出す。

「いいとこあるねおっさん」

「君は一体?」

「あたしは實下七夢(みやしたななむ)、見ての通り女子高生」

七夢は家出常習犯で気の弱そうなおっさんばかりをカモにしては、その人の財産を食い尽くしていた。

「金ならないぞ」

「十万あるよね」

切り返す七夢に対し、ドっと勢いよく立ち上がり怒鳴る。

「大人をなめるなよ」

「キレないでよおっさんアレやる?」

今度は色仕掛けをしてきた七夢だがその手には乗らない九郎に、また物珍しく思い立ちあがって今度は逆ギレ。

「お前キモいんだよまさか不能とか」

雨が上がり綺麗な夕焼けが空に広がる中で、二人は言い争っていたが、次第に馬鹿馬鹿しくなってきた九郎が身を引いた。

七夢も段々と疲れてきてお互いに背を向き合い沈黙。

「風呂入れよ風邪ひくぞ」

「そうする」

七夢は風呂場へと向かいながら一言。

「絶対覗くなよ」

「誰が覗くか」

……とは言ってもやはり九郎も男、女子高生がどんな体つきか知りたいところだがグっと堪え想像をめぐらせる。

そのうちに七夢の声が聞こえてくる。

「おっさん着替えある?」

風呂上がりのバスタオルで身を包んだ女子高生にムラムラとするが手は出さないで、静かに元カノの服を手渡し九郎は部屋を出て行こうとした。

「ちょっとここまでやってんだよ襲うとかないの?」

「お前がどんな馬鹿の男と関わってきたかは知らんが俺はお前を犯す気はない」

「つまんないオヤジ」

服を奪うかのように取って風呂場に引き返す七夢、そのすきに警察を呼ぼうと考えるがやはりダメ。

幸せな罪か……

九郎はそう脳裏に浮かんだ。

「そうだおっさん名前は?」

不意に七夢が名前を訊ねてきて、頭をかきながら自分の名前を名乗る。

「めんどくさいから十万返す」

「あげる」

七夢は十万を受け取らないで九郎の手を押す。

「これはやばい金か?」

「言えない」

やばい金に違いないそう確信すし、やはり警察に電話をかけようと試みた。

「ダメ」

とっさにスマホを取り上げる七夢、今度はスマホの奪い合いになりドタバタと音をたてながら怒鳴りあう。

「放せ」

「警察にはいわないでよ」

状況から察するに九郎は逆転のチャンス。

「警察に言われたくなかったら出ていけ」

突如、インターホンが室内に鳴り響きドアをノックする音が聞こえてきて二人は顔を見合わせ声がハモる。

「やばい」

とりあえず七夢をトイレに隠れさせドアを開けると警察が二人立っていた。

「女子高生を誘拐して身代金十万を要求して幸せな罪ですね」

「はい?」

状況が全く掴めない九郎。

「助けて下さいお巡りさん」

泣く泣く七夢はトイレから出てきて、警察官にしがみつく。

「誘拐および監禁の罪で現行逮捕する」

手錠をかけられて、パトカーに乗せられる九郎。

翌日、喫茶店のテレビではニュースが流れていた。

『次のニュースです……このところ警官を装い、女子高生を十万で指示している詐欺グループの被害が多発しています。怪しい女子高生がいたら真っ先に警察へ通報して下さいと警視庁本部から警告を呼びかけています』

喫茶店のマスターは常連客とその話題について話していた。

「九郎ちゃんもきをつけてね」

「うん……」

もう遅い幸せな罪に引っかかていた。

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