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1.0.2 もう大丈夫。私がいるから・・・

 しかし少年は、はっと我に返った。

 どうして自分は泣いているんだ・・・?と。彼女の言葉はそれほどまでに心を揺らがせるものだったのかと信じられない気持ちになってしまった。というのも、唐突すぎる出来事事態が、今までの自分にとって考えられるものではなかったので、少年はもう一度、自分が涙を流した理由を考えてみた。やはり、急に人が来てこんなことになってびっくりしたせいなのかもしれない。若しくは、死のうとしていたのにそれを止められてつらかったかもしれない。若しくは・・・何なのだろうか。そう、少年は少女の言葉になかなか素直になれなかったのだった。

 次第に頭が混乱してきたのが少年にはわかった。そして、彼女の言葉をもう一度心の中で反芻する。自殺したい――――――それは、本当は生きたいのにそれがどうしてもできなくなったから逃げているだけ。だから本当の自分の思いを封じ込めて、嘘の自分に従うから―――――嘘を信じちゃだめだから―――――。

 宅急便のアルバイトの少女は、それからもまだ少年の右腕をしっかりと掴み、自分の左手を比較的豊かに膨らんだ胸の上に当て、少年の目を朗らかな笑顔で見つめている。

 30秒ほどが経った。

 しんとした暗い部屋の中、少年のすすり泣きの声だけが聞こえる。不規則に鼻に流れる水を吸う音がする。


 少年は少女に問うた。

 「きぃ、君は何を言っているんだ・・・何なんだよ一体、どぉして、どうして、僕は今泣いているんだぁ・・・!?」

 少年は左手で頭を抱えながら聞いた。

 「いい。いいよ、泣いてる理由なんて気にしなくていいんだよ。でも、泣いてるってことは、本当の自分の思いを思い出したってことだと思うよ。だから、いいことだよ。それは。もう君は、自分に嘘をついたらだめだよ。正直になるんだ」

 そんな少女の言葉が質問の答えなのだろうか。やはり、自分はこの少女に―――――

 しかし。少年は思い出したように細い声で叫んだ。

 「でもぉぉおおおおお!!き、君にぶぉおくのな、何がはぁわかるってんだよ!?僕の・・・僕のい、今までは、僕にしか分からない位ひどいものだったんだからなぁ・・・生きたい、何て、思ったことがいちぃどもおおぉないん、だぁあああ・・・!!」

 「わかるよ」

 「何が!?何がわかるんだよぉ!?生きることが何なのかも知らねえんだ・・・いつ死ぬのか、いつが自分の終わりなのかばかり考えていぃ生きて・・・きたはぁんだよ!!いつも感情を殺しながらいた・・・やりたいことなんて何もなかった・・・何にもできないから・・・!!色々とやりたいことがあって、やることができる君のような人間とは全く違うんだ、僕は。天国と地獄のようなもんなんだぁ!!」

 「だから、そうやって怒るのは、そう思うのは、そういう幸せな世界に普通は生きるもんなんだってことを知っていて、それを望むからでしょ!?僕はこんなだからこんなだなんて言ってるだけで何になるの!?それがどんなに最低なことだったとしても、幸せになりたいって思ってるくせに、何でそんなことをまだ言うの!?私は、君の本当の思いをわかる。だからその分の辛い思いをしてきたこともわかるよ」

 少し少女の声が抗った。首をかしげて、本当にどうして、というように眉を顰める。

 「そうだよぉ!!望んでるよ・・・!!それは認める、認めているに決まっている!!だができ、ないぃぃいいいいあああああ!!もう今の自分には本当の自分になることなんてでき、きないんだ・・・!!そ、そうだよ、人間なら望んでもいいことを望むことさえできない・・・どうしても叶わないからさ・・・!!路頭に迷っているんだ、ああ、身内は誰もいなくなった金はない住むところがそのうちなくなる、体は弱い読み書きも人並みにできてるなんていえないふ、ふぉぉおおおああああ!!!」

 「落ち着いて!!何よ、いつまでもその今の現状を口にするだけで何になるの!?自分の人生の何が変わるっていうのよ!?本当の自分の思いを叶えたいなら、嘘の自分を変えなきゃだめなんだよ!?いい加減、わかってよぉ!!!」

 少女はこれでもかというくらいに少年の右腕を下に振りしならせた。そして今度は優しく言った。


 「いいよ。もう大丈夫。私がいるから。今まで私があなたに言ったことに対して、私が責任をもつ。だから、お願い。私を信じて。自分にもうこれ以上嘘をつかないで」


 涙あふれる少年の目は、少女の眼差しに吸い込まれたようにもうそこから目を離そうとしない。


 そうか。と、少年は気づいた。泣いたのは、優しさを感じたからなんだと。


 人の優しさで泣くだなんて。そんなことを今まで経験したことがなかったから、何故泣いているのか、わからなかったのだと、ふと思ってはまた涙が零れた。少女には先を見据えたような眼差しがあった。そして少年に対して微笑みかけている、




 「ど、どうしてそんなふうにっ、わ、笑っていられるんだよ・・・?君は怖くなかったのか?じ、自殺をしようとぉっ、して、いる人間にぃちかっ、ち、近づこうなんて普通できるのかぁ・・・!?」

 「こんなこと言ったら、君、怒っちゃうかもしれないけど、君は弱そうだったもん。今に首をつろうとしてたんだろうけど、どこかもうどうにでもなっていいやって思ってそうだったし、消えちゃいそうな背中をしてたし」

 少女はぷくくっと笑ってみせた。なんだよそれは、というような表情で少年はそんな彼女を見つめた。

 「じ、じゃあ首吊りじゃなくて火の中に、は、、入ろうとしてぇ・・・たらど、どうしたんだ・・・!?それか刃物でも持ってたら、自分が襲われたかもしれないだ・・・ろぉ?それでも止めに向かったか?」

 「向かうよ。当然」

 少女は険しい表情になったものの、余裕の笑みを見せた。

 「自殺をしようとしてるとこを見られるなんて恥だよ普通。だからその人は、いや、これは違うんだ、そ、そのお・・・とかいってごまかすぐらいだよ。それくらい弱っているんだから、私は助けやすいと思うんだよね。でも、そうやって誰かに助けられて嫌だって思う人もいるんだよね。君みたいに。そういう人こそ、自分なんてどうでもいいやって思ってるんじゃなくって、本気で死にたいんだろうね。だからそういう人は、生きたいっていう思いをより持っていると思うんだ、だから君は一見自分なんてもうどうにでもなればいいなんて思っていそうに見えたけど、そんなことなかったんだ。生きたいって必死に思ってたから、私に刃向かって来たんだよね」

 「それは・・・そうかもしれない。ほ、本当に絶望ばかりで、死にたい人こそ・・・ほ、本当の自分から遠ざかっているんだなぁ・・・でぇ、でも、止めにかかったのにまき沿いになって殺されようとしたたらどうするんだよ・・・?」

 「そうだね・・・それでもあたしはその人を憎まないかも」

 なんて気だ、と、強気な少女の答えに少年驚きを隠せなかった。

 「その人が例え、自分は死ぬから助けようとした人も殺そうとしても、私は諦めずにその人を助けたい。必死に慰めてあげたい。そうすることが本当の私の望みでもあるし、生きている理由だと思うの。人を助けることができるのって幸せなことだよ。自分の身に危険が及ぶ状況だったとしても、見て見ぬふりをしないで立ち向かって、何かできることを考える。例えその結果が良くなかったとしてもね、自分がそういう行動をとったことには満足できるから、望みが叶ったって思えるから、殺されてもいいくらい、なんだっ」

 「す、すごいんだな・・・はは・・・」

 「ふははっ、笑った!!で君、何か声も良くなってきたね!!」

 少年は少女の意志の強さに信じられなくなり、思わず笑って口から息が漏れた。

 

 「あ、ちょっと待って、私今仕事中だからさー、やばいんだよねー、宅配物の運搬用の無人運転トラックで来てるんだけどなー、君が心配だよ、ほおっておくわけにはいかないしー」

 といって、少女は制服のポケットからタッチ式の最新携帯電話を取り出す。

 「あと3件ほどまわんなきゃだめたったかも。でもいいや。ちょっと先輩に手伝ってもらおうっと、ちょっと待ってね!?」

 そういって彼女はアルバイトの先輩に電話を掛けた。

「あ、もしもし先輩、あのすみません、私今セメンテイラー団地3階のお宅に訪問してるんですけど、その宅配物の宛先のお客様が玄関先で意識を失われたんでやばいと思って助けたところぉお、あの、意識は回復なされたので今、かんびょー中なんですう!!?だからその、ちょっと残り3件分ほどの荷物の宅配をお願いできませんか!?トラックは今から携帯でそちらの宅配本部に戻るよう信号送りますので!!よろしくお願いできますかぁー!?」

 いかにもな嘘をついてくれた。しかし、その結果どうもそれならそれをどうか実行し続けろと命令されたらしく、電話を切った後彼女は少年に向、けてグッドと右手の親指を突き立ててウインクをした。

 「よかった。じゃあさっそくお届け物をオープンしちゃいましょっか!!」

 「ぁ、あ、いいのか、そんな、仕事中断してまでって、いいのに」

 「だって、このまま私がどっかいっちゃぁ、君はまた今までのことを心の中で掘り返して自殺しようなんて思うかもしれないじゃん」

 「そう簡単に・・・俺を信じれないぃ・・・と・・・」

 「まあいいから。だって君のこと、何にも聞いてなかったし。少し、聞いてあげたいし。その前にごめんね、私、ドアノブ勝手に開けちゃったよ。時々しちゃうんだよねー、お客様がピンポンの音聞こえてなかったらと思って直接ドア開けて声かけることー。玄関の鍵、し忘れてるとこなんてたまたまだからほとんど話せないけど。ほんとはだめだけど、留守だってまた来なきゃダメなのって結構面倒だしー」

 そこで少年ははっと思い出した。

 「そうだ、どうしてドアが開いたんだ?鍵、かかっていなかったというのか・・・?」

 「え?うん、そうだね、開いてたよ?危ないよ、泥棒きちゃうよー気を付けるんだよー?」

 「違うんだ、僕のドアは・・・」

 父親が鍵をかけ忘れることがあったんだろうか。父親が死ぬ前、最後に少年を訪れたのは4日ほど前で、その時彼は寝ていたのだ。そういえば、不思議とその時は父親に起こされて暴力をふるうなんてことはされなかった。そして台所前の小さなちゃぶ台の上に、スーパーの売れ残った残飯物をこっそり分けてくれる友人にいつものように頼んで持ってきてくれ、一週間分の、コッペパンと牛乳と、腐りかけたリンゴと卵焼きと梅おにぎりとサラダが置いてあった。それはいつもに増していい品ばかりで量も種類も多かったように思われる。4日たった今も、それらの半分以上が食べていなくてまだ残っているくらいだ。その時が、父親と会う最後のときだったというのに。自分は寝ていた。

 どうしてそんな風にしただけで帰ってしまったのか。

 そして、鍵をかけ忘れるだなんてどうしたものだったのか。

 疑問に思うも、もう父親はいなくなった。一生、どうしても帰ってこない答えを一つもってしまったと少年は思った。

 

 「僕のドアはさ・・・」

 少年は腹を割ってこの少女に自分の今迄を話すことにした。さすがの少年も、彼女ならわかってくれると思ったので話すことができた。途切れ途切れではあったものの次第に話すのに慣れ、最後のほうになるともう流暢に話せていた。それも、彼女が一生懸命に聞いてくれたからである。耳の後ろで括ったツインテールをうなずくたびに揺らし、時には帽子をぐしゃぐしゃにしながら一生懸命に少年の話を聞いていた。涙をうっすらと浮かべ、話が終わるころ、その涙を拭いながら、もう一度、少年の手の上に自分の手を重ね、大丈夫だと、私をを信じてと繰り返した。

 

 そして、宅配物を取りに玄関先へ戻りながら彼女は言った。

 

 「あの・・・私、君を助けられたよね・・・?」

 小さな声で聞いたので、少年はそれより少し大きな声で答えた。

 「ぁああ、も・・・もちろんだ、ありがとう」

 プルンとツインテールを揺らしながら即座に少年の方を彼女は振り返った。

 「本当・・・!?よかった、ありがとう、私こそありがとう、君を助けられて嬉しいよ、何よりも。本当に、君の力になれて嬉しい・・・!!」

 「礼を言うのは・・・こ、こっちだけさ」

 「あ、そうそう、君じゃなくて名前は?君の名前」

 「ぼ、僕は庭舎ていや。庭に宿舎の舎と書くんだ。留流場庭舎。君は?」

 「私は居寧琉彩いむしろるさ。よろしくね」


 庭舎と琉彩は見つめ合い、微笑みあった。

 琉彩は宅配物をいつものように笑顔で運んで庭舎のところまで持ってきた。



時はレゴ歴1382年の9月18日、パガルドート国キニエ州ノイフェン市街でのことであった。

 



ここまで読んで下さりありがとうございます。この連載は自分の中では一応処女作ではありませんが日々温めていたネタにより創り上げたものです。

ご意見、ご感想をお待ちしております。Twitterやっております。@hirosa_agatsuki 不定期になると思いますが今後も投稿させていただきます、宜しくお願いします。

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