相棒の気遣い
いざ歩き出そうとした瞬間ーー
グ〜……。
アレクの腹がかすかに鳴った。
アレクは気恥ずかしさを覚え、誤魔化すように足を進めるが……レイスがそれを聞き逃すはずもなく。
「すみません。わたくしとしたことが、アレク様がお腹を空かせていたことにも気付かないなんて」
「いや、僕は別にお腹空いてないし(グ〜」
必死に誤魔化そうとするが、無慈悲にも主張を示す腹の虫。
無理もない、時刻はちょうど昼食の時間なのだから。
アレクは観念して、苦笑しながらレイスに言う。
「ははは……なにか、食べるものはあるかな?」
アレクの注文に、レイスはコクリと頷いてからスカートをたくし上げた。
その予想だにしてない突然の行動に、アレクは慌てて目をそらす。
が、ほんの雑念から視線を戻すと、あったのは手のひら二つサイズほどの干し肉であった。
「どうぞ、お召し上がりください」
「……今、どこからとったの?」
「太もものベルトにつけてある袋からですが」
と、またもやスカートを惜しげも無くたくし上げるレイス。
アレクは喜びにも似た悲鳴をあげ、次に肩を落としてから干し肉を受け取った。
レイスはもう一つ干し肉をスカートの中から取り出す。
自分用だろう。
さすがのアレクも、そろそろ黙ってはいなかった。
「レイス……あのさ、そういうことは恥じらいを持ってだね、控えてだね……
」
干し肉よりも赤くなった顔で、レイスに注意する。
しかし、
「いえ、ワザとですので問題ありません」
「ワザとかよ⁉」
相変わらずの相棒に、諦めよりも先に笑みがこぼれた。
ーーこいつといると、本当に楽しいな。
アレクの人間関係は、驚くほど少ない。
両親もいなければ兄弟もいず、友達と呼べるような存在もいない。
更には自分に魔力がないことから、深く人と関わるのが苦手なのだ。
そんなアレクにとって、レイスの存在は大きい。
干し肉を噛みちぎりながら咀嚼し、歩みを進めながら、ふとその相棒の方を見る。
すると、何やら干し肉を棒状に丸めて、その先に舌を伸ばしているところだった。
「……なにをやっているんだい?」
「ん……ちゅ……アレク様のお肉、とても美味しいれす……」
形の良い唇から伸びる赤い舌は干し肉を舐めまわし、垂れる唾液は干し肉を伝い落ちる。
さらにレイスは、妖艶な笑みを浮かべ、吐息を漏らすのでーー
「レイス、やめなさい」
「かしこまりました」
健全な男子の一人として、やめさせるしかなかった。
「ぶちっ」
「あッ」
レイスが棒状になった干し肉を噛みちぎる時、無意識に股間を押さえたのは男の性だろうか。
しかし、レイスは意味もなくこういうことをしたりはしない。
今も、アレクにやめろと言われすぐにやめるほどだ。
なら、何故。素直に聞く。
「どうして、こんなことをしたんだい?」
アレクの問いに、レイスは干し肉を飲み込んでから答えた。
「アレク様が、元気がなさそうでしたから」
やっぱりね。
アレクはレイスの元まで歩き、その頭を優しく撫でた。
「ありがとう、レイス。でも、もう大丈夫だからね」
「はい。どう。致しまして。です」
レイスは表情を変えないが、気持ち良さそうにそれを受け入れた。