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魔無剣士の探求道  作者: NITU
序章
8/15

相棒の気遣い

 いざ歩き出そうとした瞬間ーー

 グ〜……。

 アレクの腹がかすかに鳴った。

 アレクは気恥ずかしさを覚え、誤魔化すように足を進めるが……レイスがそれを聞き逃すはずもなく。

「すみません。わたくしとしたことが、アレク様がお腹を空かせていたことにも気付かないなんて」

「いや、僕は別にお腹空いてないし(グ〜」

 必死に誤魔化そうとするが、無慈悲にも主張を示す腹の虫。

 無理もない、時刻はちょうど昼食の時間なのだから。

 アレクは観念して、苦笑しながらレイスに言う。

「ははは……なにか、食べるものはあるかな?」

 アレクの注文に、レイスはコクリと頷いてからスカートをたくし上げた。

 その予想だにしてない突然の行動に、アレクは慌てて目をそらす。

 が、ほんの雑念から視線を戻すと、あったのは手のひら二つサイズほどの干し肉であった。

「どうぞ、お召し上がりください」

「……今、どこからとったの?」

「太もものベルトにつけてある袋からですが」

 と、またもやスカートを惜しげも無くたくし上げるレイス。

 アレクは喜びにも似た悲鳴をあげ、次に肩を落としてから干し肉を受け取った。

 レイスはもう一つ干し肉をスカートの中から取り出す。

 自分用だろう。

 さすがのアレクも、そろそろ黙ってはいなかった。

「レイス……あのさ、そういうことは恥じらいを持ってだね、控えてだね……

 干し肉よりも赤くなった顔で、レイスに注意する。

 しかし、

「いえ、ワザとですので問題ありません」

「ワザとかよ⁉」

 相変わらずの相棒に、諦めよりも先に笑みがこぼれた。

 ーーこいつといると、本当に楽しいな。

 アレクの人間関係は、驚くほど少ない。

 両親もいなければ兄弟もいず、友達と呼べるような存在もいない。

 更には自分に魔力がないことから、深く人と関わるのが苦手なのだ。

 そんなアレクにとって、レイスの存在は大きい。

 干し肉を噛みちぎりながら咀嚼し、歩みを進めながら、ふとその相棒の方を見る。

 すると、何やら干し肉を棒状に丸めて、その先に舌を伸ばしているところだった。

「……なにをやっているんだい?」

「ん……ちゅ……アレク様のお肉、とても美味しいれす……」

 形の良い唇から伸びる赤い舌は干し肉を舐めまわし、垂れる唾液は干し肉を伝い落ちる。

 さらにレイスは、妖艶な笑みを浮かべ、吐息を漏らすのでーー

「レイス、やめなさい」

「かしこまりました」

 健全な男子の一人として、やめさせるしかなかった。

「ぶちっ」

「あッ」

 レイスが棒状になった干し肉を噛みちぎる時、無意識に股間を押さえたのは男の性だろうか。

 しかし、レイスは意味もなくこういうことをしたりはしない。

 今も、アレクにやめろと言われすぐにやめるほどだ。

 なら、何故。素直に聞く。

「どうして、こんなことをしたんだい?」

 アレクの問いに、レイスは干し肉を飲み込んでから答えた。

「アレク様が、元気がなさそうでしたから」

 やっぱりね。

 アレクはレイスの元まで歩き、その頭を優しく撫でた。

「ありがとう、レイス。でも、もう大丈夫だからね」

「はい。どう。致しまして。です」

 レイスは表情を変えないが、気持ち良さそうにそれを受け入れた。

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