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プロローグ 『共犯者』
高すぎる天井、分厚い絨毯、そして何重もの鍵。
この部屋は私を守るための場所であり、同時に私を閉じ込めるための厳重な檻でもあった。
王女という名ばかりの称号と、飾られるためだけのドレス。
結婚させられる相手はもう決まっている。
窓から見える世界はいつも遠く、私はただ、誰かが決めた未来をあきらめて受け入れるだけの存在のはずだった。
――あの日、彼が私の前に現れるまでは。
「王女様、そんなに悲しそうな顔をしないでください。……距離が近すぎますかね?」
悪びれもせずに微笑み、私の髪に触れたお世話係であり護衛でもある少年。
その瞳の奥に隠されていたのは、忠誠心などではなかった。
この世界を塗り替えてやる、という青い炎だったのだろう。
彼が私を城から連れ出した夜の、夜風の冷たさを今でも覚えている。
恐怖なんてなかった。
奪われたのは私の身代金でも、王家の権力でもない。
――私の心と、ここではないどこかへ踏み出す未来だ。
「王女様。」
「あなたを、誘拐します。」
彼は口元でうっすら笑みを浮かべながらそう言った。
いつもの「彼」とは違った「彼」だった。
でも、私はそんな彼に興味を抱いた。
彼に手を掴まれた瞬間、私は籠の中の姫君であることをやめた。
これは、さらわれた王女と、嘘つきな護衛の物語。
そして——
世界でいちばん静かで、美しい叛逆の記録。




