「チーズの香りの瞑想」— 短編
掲載日:2026/06/28
吸って——
濃厚な旨味が心に広がる。
吐いて——
塩気が静かに溶けていく。
「チーズの香りの瞑想」— 短編
部屋に静けさが落ちたころ、
私はそっと目を閉じた。
鼻先をくすぐるのは、
どこか懐かしく、どこか挑発的な、
あの——チーズの香り。
最初はただの匂いだった。
けれど、呼吸をゆっくりと整えるうちに、
その香りは形を変え、
まるで柔らかな雲のように
胸の奥へと漂い込んでくる。
チーズの香りは、
私の思考をひとつずつ溶かし、
昨日の後悔も、明日の不安も、
まるで温かいミルクの中に沈んでいくように
静かに姿を消していく。
最後に残ったのは、
ただ「今」という味だけ。
目を開けると、
部屋は同じなのに、
世界が少しだけまろやかになっていた。
まるで——
心そのものが熟成されたみたいに。
吸って——
濃厚な旨味が心に広がる。
吐いて——
塩気が静かに溶けていく。




