1. 若き女王の誕生
この日の街は、まるで祭りのように賑わっていた。
鐘の音が鳴り響き、人々の歓声が空を震わせる。
それも当然だ。
今日は――この国で初めて、女王が誕生する日なのだから。
私の名は、シェイラ・セントビル。18歳です。
コールデスト王国、第50代目の王位継承者。
そして、本日即位する女王。
この国では代々、王位は男性が継いできた。
けれど様々な事情が重なり、気がつけば玉座に座るのは私になっていた。
運命か、偶然か。
あるいは、誰かの策略か。
少なくとも――望んで掴み取ったものではない。
戴冠式の翌日。
私は、王の執務室にいた。
「シェイラ様。改めまして、即位おめでとうございます。」
恭しく頭を下げるのは、侍従長アンルシア。
幼い頃から共に育った、私の一番の友人でもある。
「もう、いつも通りでいいってば。アンルシア。」
思わず肩をすくめる。
「いえいえ。目の前に近衛師団長殿がいらっしゃいますから。
いつもの調子で話したら、私の首が飛びかねません。」
ちらり、と彼女は部屋の隅に立つ近衛師団長へ視線を向けた。
冗談めいた口調だが、その背筋はぴんと伸びたままだ。
なぜか気まずい雰囲気だと感じた私は、近衛師団長さんに声をかけた。
「えっと……近衛師団長さんって、なんていうお名前なんですか?」
その問いに応じるように、部屋の隅に控えていた男が一歩、また一歩と前へ出た。
重い軍靴の音が、静かな執務室に響く。
私の前まで進み出ると、彼は膝を折り、深く頭を垂れた。
「近衛師団長、イノール・アルブミンにございます。以後、お見知りおきを。」
低く落ち着いた声。
無駄のない所作は、いかにも武人らしい。
「あ……よろしくお願いします。」
思わずこちらもぺこりと頭を下げてしまう。
……いや、今は私が女王なんだけど。
即位した王は、戴冠式の翌日に市中を行進する――それが、この国の慣例らしい。
「わぁ……とっても綺麗なドレス……」
目の前に広げられた純白のドレスに、思わず息を呑む。
繊細な刺繍と宝石の装飾が、朝の光を受けてきらきらと輝いていた。
「シェイラ様、もうお時間がございません。」
アンルシアの落ち着いた声が飛ぶ。
「あっ……ごめん、ごめん。すぐ着替える!」
名残惜しさを振り切り、侍女たちに手伝われながら袖を通す。
やがて、真白のドレスに身を包んだ私は、金
色に輝く豪奢な馬車へと乗り込んだ。
扉が開かれると、外からどっと歓声が押し寄せる。
道の両端には、埋め尽くすほどの民衆。
花びらが舞い、旗が揺れ、祝福の声が空を震わせる。
私は背筋を伸ばし、ゆっくりと手を振った。
――もう、ただのシェイラではない。
この国の、女王なのだから。
無事に市中行進を終えた私は、重たいドレスを脱ぎ、いつものシンプルな服へと着替えた。
「豪華なのも素敵だけど……やっぱり、動きやすいのが一番だよね。」
ほっと肩の力が抜ける。
そのまま執務室へ戻ると――
机の上に、見覚えのない“壁”ができていた。
いや、違う。
あれは紙だ。
紙、紙、紙。
きれいに積み上げられた書類の山が、堂々と
私を待ち構えている。
「あ〜……えっと……これは、何?」
恐る恐る隣のアンルシアに尋ねる。
「シェイラ様のご決裁をお待ちしている書類でございます。」
にこやかな笑顔付きである。
その瞬間、私は悟った。
――戦いは、まだ終わっていなかったのだと。
「えぇ……うそでしょ……」
「女王陛下。どうかご健闘を。」
アンルシアはさらりと言い放つ。
敵は外にあらず。
目の前の紙の山である。
次回に続く。




