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7  作者: りな


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6/11

回復の兆し

高校は、杏樹と同じだった。


学科は違ったけれど、それはあまり関係なかった。


朝、昇降口で会えば、何も言わなくても一緒に歩いた。

昼休みは、時間が合えば並んで座った。


放課後、どちらかが「帰る?」と聞けば、もう一方は黙って頷く。


それだけで、十分だった。


杏樹がいるという事実は、私にとって「ここにいていい理由」だった。


高校生になっても、私の生活は安定していなかった。

義母の家と祖父母の家。

私はその二つを行き来していた。


どちらにも「帰っている」はずなのに、

どちらにも完全には属していない。


義母の家では、相変わらず息が浅くなった。

怒鳴られる回数は減った。

殴られることも、ほとんどなくなった。


でも、それは「許された」からではない。

私が感情を見せなくなったからだ。

何を言われても表情を変えず、反応しない。

傷ついていないふりを、覚えてしまった。


祖父母の家では、相変わらず優しくされた。

ご飯は温かく、「疲れてない?」と声をかけられる。


それなのに私は、完全に安心することができなかった。

夜になると、理由もなく胸がざわつく。


突然、死にたい衝動に襲われる。

きっかけは、本当に些細なことだった。

誰かの一言、テストの点数、ふとした沈黙。


気づくと、思考が一点に集まる。


――消えたい。

――終わらせたい。


中学生の頃より頻度は減っていた。

でも、なくなったわけではなかった。


私は、その衝動を誰にも言わなかった。

言えば、壊れてしまう気がしたから。


そんな中で、好きな人ができた。

同じ高校の、1つ年上の先輩だった。


優しかった。

否定しなかった。

「かわいいね」「一緒にいると落ち着く」

その言葉が、胸に染みた。


でも、付き合ってはいなかった。

彼女じゃない。でも友達でもない。

名前のつかない関係。

体だけが近い関係。


初めてのとき、私は怖かった。

でも同時に、安心していた。

求められている。必要とされている。

その事実が、私をこの世界に繋ぎ止めてくれた。


触れられることで、自分の輪郭がはっきりする。

「ここにいる」と思えた。


それが愛かどうかは分からなかった。

ただ、ひとりじゃないと感じられる時間が、どうしても欲しかった。


杏樹には、全部は話さなかった。

でも、何かを察していたと思う。


「無理してない?」

そう聞かれるたび、私は笑って誤魔化した。


杏樹は、それ以上踏み込まなかった。

それが、ありがたかった。

踏み込まれたら、崩れてしまいそうだったから。


私たちは、高校生になってもよく一緒にいた。

帰り道、コンビニの前、何も話さずに並んで歩く。


「大人になったら、どうする?」

杏樹が、ぽつりと聞いたことがある。


私は少し考えて答えた。

「生きてはいたい」


正直な気持ちだった。

幸せになりたいとは言えなかった。

夢も希望も、まだ遠かった。


でも、死なずにいたいとは思っていた。


杏樹は少し笑って言った。

「じゃあ、それでいいじゃん」


その言葉に、救われた気がした。

生きる理由なんて、立派じゃなくていい。


高校生活は、穏やかだったわけではない。

でも、完全に壊れることもなかった。


義母の言葉は、まだ私の中に残っていた。

死にたい衝動も、突然やってきた。


それでも、杏樹がいて、学校があって、

誰かに触れられる場所があった。


私は、かろうじて自分を保っていた。


この頃の私は、「生きている」と胸を張って言える状態ではなかった。

それでも、「まだ終わっていない」と思える場所には立っていた。


それが、高校生の私だった。


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