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そうして旅人は自由に生きる~魔と法を巡る物語~  作者: 宿木ミル


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第4話【評価の街】

 自分の存在に対する不安。

 他人からどう思われているかの心配。

 様々な感情が揺れ動きながら、人と人は寄り添って生きていく。

 もし、絶対的な価値観が他人に委ねられる世界があるのなら、幸福になれるのだろうか。

 そんな、答えのない疑問が私の頭を過っていた。





 静かな午後。

 太陽が沈み、月が空を照らす夜。

 ビスケットで空腹を誤魔化していた私の胃袋は限界を迎えていた。


「朝ビスケット、お昼ビスケットは流石にキツイかも……」


 空腹でお腹がぐぅと鳴る。

 どうにも困った。二日くらい街に到達できていない。

 ある程度荷物は軽めに行動するのが私のモットーだから、街にたどり着くこと前提で旅支度をしているのだ。

 だから、食料も一日持てばいい方、あとは非常食を用意するという方針でいつも行動している。

 ……しかし、今回はこの行動が裏目に出たみたいだ。


「はぁ、次の街ではある程度備蓄を蓄えようかな」


 空腹で倒れたところを拾われるというのは流石に旅人としてはよろしくない気がする。

 自己管理ができてこその旅人だ。

 空腹を紛らわす為に遠くの景色を見つめながら歩いていく。

 しばらくの時間が立ったのちだった。

 空に向かって煌々と光を放っている何かを見つけた。


「あれは?」


 ついに街に到達することができたのだろうか。

 急ぎ足で駆け寄って確認する。

 空に向かって放たれる光は街を賑やかにするサーチライト。

 そして、街の周囲に飛び交うのは機械仕掛けの飛空艇。

 飛空艇の側面には画面が取り付けられていて、そこには文字が書かれていた。


『今月の最大評価は73万ほどのインプレッションを得た〈光の英雄〉さんです! おめでとうございます!』

『より多く評価される人になれるように、低評価の方は見習うように!』


 空に浮かぶ飛空艇には様々な文字が書かれている。

 その中で、多く登場している言葉が気がかりだった。


「評価、ねぇ」


 まだどんな街かは把握しきれてはいないけれども、評価が法に関係しているのはなんとなく理解できた。

 歩いていき、街の入口に到達する。

 そこの看板も機械仕掛けになっていて、画面には『評価の街』と記載されていた。


「とにかく入ってみようか。色々備蓄も蓄えないといけないし」


 人と話す時はなるべく評価に関連する話題は気にしながら行動した方がいいかもいれない。

 そう思いながら、私はゆったりと街に足を運んでいくことにした。





 街の景色を一言で表すとするならば、近未来的というべきだろう。

 他の街ではあまり見ることが叶わないような新型の機械が街を支えている印象。

 街の建設物も風変りだ。レンガの家みたいなものは存在しない。異世界から伝えられたとされる『ビル』や『マンション』のような形式の建物が多い。

 小型の機械が街を掃除して、街は夜であっても光に包まれている。

 街の街灯も電灯形式になっている。


「ここまで機械がいっぱいの街はなんだか珍しいかも」


 街の法律から得られるエネルギーを利用して暮らす街はテクノロジーを駆使するというよりも、魔法の力と寄り添いながら生きている印象の方が強い。

 この街のように、機械が動き続けている光景は魔法的というより技術的な印象を強く感じさせる。

 中央通りを歩いている時に、街の人々の声がいくつか聞こえてきた。


「今日どうだった? 評価されるようなこと、できた?」

「うーん……どうだろ。あたし的には頑張ったんだけど、なかなか反応が来ないんだよね。なんかショック」


 掌で操作しやすいくらいの端末を持った少女ふたりが談笑している光景。

 そこでも評価という言葉が出てくる。


「ヤバい、低評価だ……街での立場がもっと落ち込むぜ……とほほ」


 端末を見つめてはがっかりした様子で肩を落とす青年の姿もある。


「なんでアイツら俺を見ないんだよ……くそっ、こんなに俺は努力してるのによぉ!」

「〈光の英雄〉みたいに評価されないと、どんどんボクはダメになっちゃいそうだ……! でも、どうすればいいんだ!?」


 怒る人、嘆く人。様々な人がいて、街を歩いている人々の多くが落ち着きがない印象。まるで、評価を求めて生きているみたいだ。

 これが『評価の街』での生き方というものなのだろうか。

 法に従って生きているのだとしても、どこか不安定な印象受ける。


「……中央通りだから、こんな感じなのかな」


 街を歩く人たちを見て、私は内心曇ってしまう。

 街の法は人の心に寄り添い、支えになるものであるのが理想的なのに、なんだかここの街の人々は元気があんまりないようにも思える。

 なんだか複雑な状況だ。


「少し、見方を変えてみた方がいいのかもしれないね」


 街の法についてフィーリングで知りたい場合、人が集まる賑やかな場所が有効だ。

 しかし、人の生活について分析したいのなら広い視野で見つめるのが重要になる。

 だから、次に私が行く場所は別のアプローチになるはずだ。


「よし、街外れの方にも寄ってみよう」


 逆転の発想も時に重要だろう。

 そう思いながら私は中央通りを離れ、そこから街の外側である街外れに向かうことにした。





 街外れも、ある程度の機械は存在していた。

 しかし、中央通りほど機械尽くしになっているわけでもなく、ここからはサーチライトも光らせてはいない。

 静かな雰囲気を感じる空間になっている。『ビル』や『マンション』も存在しないし、他の街でも見られるような素直な形状の家も多く見られる。


「こっちの方が私好みかも」


 ギラギラした空間はどうにも気を揉んでしまう。

 こういう落ち着いた感じの方が好みだ。

 ……ここなら、いい感じに食事とかできるかもしれない。

 そう思い、お店を探していく。

 ゆっくりと歩きながら進んでいく。

 ふと、右を向いた時にシチュー専門店と書かれたお店の看板が目に入った。

 シチュー。温かくなれそうだし、よさそうだ。


「よし、ここで夕食をとろう」


 とんとんと扉を叩き、お店の中に入る。


「いらっしゃい。何名で?」


 お店でシチューを温めていたのは壮年のおばあさんだった。

 腰は曲がっていないけれども、しわの数がしっかりとした年月を重ねてきたことを感じさせる。

 お店全体はレンガでできていて、町全体の雰囲気とは大きく異なる。


「ひとりだよ」

「そうかい。その荷物は旅人だろう」

「うん、旅人」


 ゆったりとした話し方には思いやりが込められているように感じる。

 私好みの雰囲気だ。


「その身なりなら、もっといい場所で食べれるそうだけれども、ここを夕食の場所にして本当にいいのかい?」


 心配しながら尋ねてくる。

 おばあさんが言うように、私はある程度お金には余裕を持たせている。

 多分、中央通りのレストランか何かで食べるのも容易ではあるだろう。

 それでも、私はここを選びたかった。


「雰囲気が好きだから、ここにしたいなぁって思って」

「ほっほ、年寄りには嬉しい言葉だね。旅人さんが満足できるように、あたしも少し頑張ろうかね。席はあちらだよ」

「楽しみにしてるね」


 おばあさんに案内された席に移動し、そのまま座る。

 木製の椅子に机。シックな雰囲気が心も落ち着かせてくれる。

 机を見つめて、ふと気が付く。メニューがない。


「注文する時はどうすればいいかな」

「ビーフシチューかクリームシチューのふたつからひとつ選ぶのさ。ご飯はサービスで付ける。で、値段は……こんな感じさ」


 指で値段を提示されて、その内容に頷く。うん、私からしたら悪くない値段だ。しっかり払える。

 ふたつのシチューから選ぶなら私は……


「ビーフシチューにしたいな」


 ビーフシチューが食べたいと思った。

 連日空腹続きだったから、こってりしたものが食べたいと思ったのだ。


「わかったよ。ちょっと待ってな」


 おばあさんが大きな鍋に向かうと、その中身をぐるぐるとかき回していく。


「あれ、見えなかったところにもう一個あったんだ」

「ひひっ、そうさね。シチュー専門店としてふたつ作ってるのさ」


 おばあさんは笑いながら、ビーフシチューを仕上げていく。

 ご飯とは別々のお皿に盛りつけて、私の目の前に提供されていって完成だ。

 お水もしっかり添えられている。


「どうぞ、ビーフシチューだ。火傷しないように気を付けて食べるんだよ」

「ありがとう、いただきます」


 一緒に運ばれてきたスプーンを使ってビーフシチューを味わう。

 舌に運んだ瞬間、温かさが口いっぱいに広がる。なるほど、急いで食べると火傷しそうだ。

 ゆっくり味わい、味を噛みしめていく。


「……おいしい」

「だろう?」


 まず、お肉が柔らかい。

 コトコトと煮込んでいたからだろうか。少し噛むだけでも溶けるような食感が広がる。それがシチューの味わいと交わって、満足感を引き立たせる。

 他の具材についても、いい感じだ。玉ねぎやニンジンの甘味が、濃いシチューの味に交わっているのが感じられたり、お芋のホクホク感が心地よい。

 総じて、美味しい。

 それ以外の言葉が口に出てこないくらいには、美味しい。久しぶりのこってりした食事だったからというのもあるかもしれないけれど、美味しい。


「他人にどう思われようと、あたしが自信を持ってお客さんに送る最高のビーフシチューさ」

「他の人になにか言われたりしたんだ?」

「あぁ、されたとも。値段がどうだとか、店の仕組みが気に喰わないとかいう輩もいた」


 私の目の前に座り、おばあさんが続ける。

 遠くを見る目をした、彼女の姿は苦労してきたことを感じさせる。


「一番文句を言われたのはメニューの少なさだね。ふたつのシチューだけだと選べるものが足りないって言われて出て行かれたこともあった」

「こんなに美味しいのに……」

「専門店だから、多く種類があると思ったんだろうね。まぁ、仕方ない。そういうことも多いのさ」


 ゆったりと息を吐くおばあさん。長くお店をやってきたからか、そういうことは慣れているという印象だ。

 彼女の話を聞いて、私も考える。

 ……確かに人によっては割高に感じる値段かもしれない。

 メニューはふたつで、おばあさんがそのまま注文を受ける形でもある。

 けれど私はこういう雰囲気が好きだから、なんだか少しもやもやしてしまう。


「ま、あたしからしてみれば、これくらい静かな方がちょうどいいよ。爆発的に評価されたりするとそれはそれで面倒だからね」

「評価……」


 そうだ、ここは評価の街だ。

 だからこそ、他人の視線が鋭いのかもしれない。

 ふと、気になり、おばあさんに色々聞いてみたくなった。


「この街で評価されるとどうなるの?」

「中央通りや飛空艇で名前が挙がるくらいの有名人になれるね。そして、裕福な暮らしが街から担保される」

「……街の法律に貢献できるから?」

「おや、それがわかるんだね。旅人なのに勉強家だ」

「街ごとに違う仕組みがあったとしても、このあたりは変わらないからね」


 街に貢献した存在は暮らしが裕福になる。貴族のように立場が強くなる。

 そういったシステムはどの街でも多く存在するものだ。

 そう考えると評価の街で最優先される概念が『評価』なのはわかりやすいかもしれない。


「街の法律は街を支えるエネルギーになる。この街の場合は機械を動かす動力に主に使われるのさ」

「機械に使われるっていうけど、その機械の量がかなり多い気がするけど……」

「そりゃそうだ。だって、人は評価されたい生き物だからね。多くの街の住民が評価を求める以上、エネルギーの循環率は上がるのさ」

「爆発的成長の要因ってわけだね」

「そういうことさ」


 端末を持っているような人が多いのも、飛空艇が飛んでいたり、未来的な印象を感じさせる街の様相なのも『評価』が街を支えているから。

 確かに、納得できる。評価されたいという気持ちはみんな持っている。私だって他人から褒められたりすると嬉しいくらいだ。強く評価されることを望む人が多ければ多いほど発展するというのは、街の仕組み、法律として強いと感じる。

 しかし、そうなると疑問を感じる。


「おばあさんのシチュー屋さんは機械が少ないように見えるけど……」


 あまり評価されない人間はどうなってしまうのか、という話だ。

 私が今いるシチュー屋さんは街の外れにある。

 お店の中には大層な機械があるわけでもない。必要最低限のコンロとキッチン、そして大型の鍋があるくらいだ。

 私の言葉に対して、おばあさんは苦笑しながら返答する。


「あたしは、あんまり評価されてないのさ」


 その苦笑には様々な意味が込められているように思えた。

 わかりきったこととか、寂しさとか、色んな感情が見える不思議な感じ。

 ……評価という概念は、やっぱり色々難しいのかもしれない。


「この街の法について、しっかり聞いたことはあるかい?」

「ううん、ないよ」

「『人の価値は評価で決まる。人に誇れる存在として街を支える為に高評価を受け取るべし』というものさ。旅人さんはどう思うかい?」

「ちょっと尖った法律に思える」

「そうかい」


 静かに頷くおばあさん。

 私的には、かなり強い言葉がある街の法だと感じた。

 『人の価値は評価で決まる』という一文が法律に存在するのなら、焦ったりするのも仕方がないと思う。それこそ中央通りの人々のように。


「おばあさんはどう思うの? この街のこと」

「そうさね……やきもきしないのなら悪くない街だと思うよ」

「嫌、というわけではないんだ」

「住めば都っていうだろう?」


 窓を見つめておばあさんが続ける。


「ある程度の評価を求める気持ちっていうのは人には必要なのさ。あたしだって美味しいってシチューを評価してもらったら嬉しいし、街の性質上評価がやってくることが多いっていうのは料理人としてはありがたい」

「改良点が見つかるから?」

「そういうことさ。停滞することがそうそうない刺激が常に存在する街、それが評価の街なのさ」

「なるほど……」


 私は少し誤解していたのかもしれない。

 評価されることが嫌いだから、おばあさんは今の暮らしをしていたのだと思っていた。けれど、そうではなかったみたいだ。


「おばあさんは、変えたくないところは変えないけれど、参考にするべきところは評価として受け止めてるんだね」

「当たり前じゃないか。あたしの拘りのシチューは変えるつもりはない。でもね、味が気に喰わないとか言われたなら研究はする。そういうもんさ」

「評価の強い点に思えるね」

「だから言ったろ? 住めば都と。ま、やきもきしてる奴は苦労するだろうがね」


 おばあさんがそうして話を続けようとしていた時だった。

 ダッダッと音を鳴らして、お店の中にツインテールの女の子が入って来た。


「おばあちゃん! 私、今日こんなに頑張ったのに評価されなかった!」


 お店に入って来た少女は紙のリストを見せつけながら、シチュー屋のおばあさんに嘆きの声をあげる。

 それに対して、おばあさんは口を尖らせていた。


「それじゃ駄目だ」

「評価されないわたしはダメってこと!?」

「そうじゃない。評価をされることを求めて行動したら人様にバレるんだよ。もっと自発的な行動を考えて動くべきさね」

「どういうこと……?」

「旅人さんが教えてくれるさ」

「えっ、私?」


 急に話が飛んできた。

 きょとんとしてしまったけれど、アドバイスした方がいいなら動くべきだろう。

 そう思い、女の子に近づく。


「えっと……リスト、見せてもらってもいいかな」

「う、うん」


 女の子のリストに目を通していく。

 その中には今日やったであろうリストが書かれていた。


『みんなに刺さる絵を描いて褒められる作戦!』

『困ってそうな人に積極的に評価されるために話しかける作戦!』

『人に称えられるために、ごみを拾う作戦!』


 そこには褒められたい、評価されたいという気持ちがいっぱい書かれたメモがたくさんあった。

 そのひとつひとつを見て考える。

 評価されたいという承認欲求は時に人を動かす原動力になるのではないか、と。


「あんたは褒められたい一心で行動してるだろう? それはよくない。下心があると後々大変だよ」

「で、でも、でもぉ……」

「もっと誠実に頑張る方がいいよ。シチュー一筋のあたしみたいにさ」

「でも、おばあちゃんはあんまり裕福じゃないし……」

「裕福じゃなくてもいいじゃないか」

「私は評価されたいんだけどなぁ」


 おばあさんのスタンスと女の子の価値観は少しズレがあるみたいだ。

 やきもきしなければ、悪くないというのはもしかしてこの女の子の話も関連しているのかもしれない。

 他人が存在して、その人に評価されないと意味がないみたいな。

 そこまで話を聞いて、ようやく私も考えが纏まった気がする。

 メモを机に置いて、女の子に話しかける。


「君はどうしてそんなに評価されたいの?」

「評価される人になれば、裕福になれるから。それに認められたって実感が湧くから!」

「誰に認められたい?」

「みんな! できるだけ多くの人!」

「でも、認められたり、評価されたりしないと」

「うん、すぐに褒められたりしたことがないの。なにやっても評価された数が少なかったりして、駄目なのかな私って」


 そういって中央通りの人が持っているような端末を私に見せる彼女。

 そこには女の子が書いた絵が少しの人に評価されていた。


「もっとすっごい人になる為には計画的にならないとダメだと思うの。でも、おばあちゃんにはそれはよくないって言われて……どうしよう!」


 本気で悩んでいる女の子。

 この悩みは素直な形で解決した方がいいのかもしれない。

 そう思い、静かに私は自分の魔力を使って『魔法辞典』を手元に展開していった。

 街の法律に寄り添い、時に向き合う私の力、『魔の法律』を使い、状況を変えよう。


「難しいことじゃないと思うんだ。きっと、もっと簡単で、だからこそ悩んじゃったりする問題」

「どういうこと?」

「こういうこと。我、リベラ・マギアロアの名を持って法に寄り添う。『小さな評価を見つめるきっかけを探れ』」


 その言葉に反応して女の子の端末が動く。

 街の外の人である私は、端末の使い方が詳しくない。だから、『魔の法律』の力を使って操作することにしたんだ。


「その端末では、人と人がやり取りしてるんだよね」

「う、うん。色々お話したりできるよ。評価してくれる人の中にはコメントを残してくれる人もいる」

「なるほどね」


 私の魔力で端末を動かし、それぞれ情報を探っていく。

 絵の評価、ゴミ拾いの話題、相談。それらのコメントを拾っていく。

 大きい評価には繋がらない。それでも、彼女がやってきたことについて、話している人は存在した。


「君に必要なのは、大きな評価じゃないと思うんだ」

「それって……」

「無理に背伸びしなくっても見てくれてる人はいるってこと。ほら」


 そういって画面を見せていく。


『すごい魅力的なイラストです! あんまり上手な言葉が出てこないですが、色彩が素敵です!』


 彼女のイラストを評価するコメント……


『今日、積極的な女の子に財布を探してもらうのを手伝ってもらったんだ。本当に助かった。彼女、急いでたみたいでお礼は言えなかったけど……ツインテールの特徴的な髪をしていたから覚えてる。今度あの子にあったらお礼を言わないと』


 行動を評価する声もある。


『本日のゴミ拾いに参加したみなさん、本当にありがとうございました! 多くの手伝いで街が綺麗になりました!』


 大勢の中で、行動を称えられてもいた。

 全部、彼女の功績だ。


「なんだい、褒められてるじゃないか。そこまで焦らなくてもいいじゃないか」


 おばあさんが微笑ましい表情で見つめる。

 女の子はそれに対して、考えながらも、静かに情報を受け止めていた。


「私のことを気にしてくれる人、いたんだ……」

「多く、より多くって考えると忘れてしまいそうになるけど、評価の積み重ねがより多くの評価に繋がるんだよ」

「じゃあ、無理に頑張らないでいいってこと?」

「少なくとも私はそう思う、かな」


 もちろん、評価されたいから頑張るというきっかけも大切だと思う。

 だけれども、それで自分に負担をかけるというのはよくないことだ。

 自分なりに、できることを頑張るというのがきっと大切なはずだ。


「いいかい? あんたは今、あんたを見てくれている人を大切にするんだ。そうしていけばきっと大成するよ」

「おばあちゃんよりも?」

「あんたはまだ若い。どこまでも成長できるさ」


 そう言葉にするおばあさんのは優しい笑みを浮かべていた。

 どんなことがあっても、背中を支える。そんな思いが籠っているようにも思える。


「……ありがとう! おばあちゃん! 不思議な旅人さん! わたし、もっと頑張る! わたしなりに!」

「どういたしまして。端末、返すね」

「うん! じゃあ、行ってくる!」


 私が端末を返したのち、少女はすぐに店から去っていった。

 評価されるというのは、時に心に負担をかけるけれども、支えにもなる。そんな気持ちになる出来事だった。


「孫のアドバイス、助かったよ」

「お孫さんだったんだ」

「そうだとも。あの子は昔のあたしを思い出させる。あたしもギラギラした目をしていたね」

「そっか」

「評価されるっていうのはいいことも悪いこともあるって、わかっただろう?」

「うん。なんとなくだけど、わかった気がする」


 評価されたい気持ちや承認欲求は誰もが持っている感情。それとどう向き合っていくかが大切なのだ。

 会話を繰り返す中で、私もなんだか成長できた気がする。


「次の日には出発するんだろう?」

「そうだね。ちょっと備蓄を用意しながら行く予定」

「なら、あたしのオススメの店を教えてようか。あと、宿はここにするといい。あたしが泊めさせてやる」

「いいの?」

「孫がお世話になったからね。恩には礼で尽くすものだよ」

「ありがとう、おばあさん」


 評価の街。

 人の感情が揺れ動く街の中で、私は暖かい感情を受け取ることができた。








「……さて、備蓄は十分!」


 評価の街を抜け出して、外に出た私。

 おばあさんがオススメしたお店で買った食料はばっちり旅に向いているものばかりで私もしっかりいいね、と評価した。

 これでしばらくは街にたどり着かなくても旅ができそうだ。ビスケット生活にもならなそうで安心だ。


「評価、ねぇ」


 後ろを振り向いて、評価の街を見納めする。

 きっとあの街はこれからも、様々な感情が揺れ動きながらも生活していくのだろう。


「私は、ちょっとでも感謝されたら嬉しいかな」


 私の言葉で前を向くきっかけを得られたなら、それに越したことはない。

 旅人の私が、誰かの背中を押すことができた。その事実だけでも幸福なのだから。


「次はどこに行こうかな」


 街道を進み、ゆったり歩いていく。

 次の街も楽しみだ。

 眼前に広がる風景はどこまでも広く、自由を感じさせた。

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