第2話【淑女の街】
まさか、街に入った瞬間に身柄を拘束されるだなんて思ってもいなかった。
優雅な女性がドレスを身に纏い、ゆったりと歩く空間。
色鮮やかな建物がシルクに包まれている独特な世界。
【淑女の街】
そこで、私は囚われの身になっていた。
「貴女、どうしてそんな黒い恰好なんですの?」
「なんでって黒いのが好きだからだけど」
「だとしても! ここではレディとして、いいえ、淑女としての嗜みを心がけるのがマナーです!」
「……反省してます」
宮殿のような大きな建物で、名も知らない淑女に牢屋越しに話しかけられる。
それに対して私は素直に受け答えする。
私は落ち着いた色が好きで、しっとりした雰囲気の服が好きなのである。
白が多めの服とかフリルいっぱいの服はあまり着たりしない。
「はぁ……呆れましたわ。まさか、ここの法律すら理解していないのに通ろうとしていたなんて」
「念のためにそれ、確認してもいいかな」
「構いませんわよ」
そう言って彼女は高級なレストランのメニューのようなものを取り出し、私の法律を教えてくれた。
「『淑女として正しい身だしなみを行わないなら罰する。常に淑女としての心構えを意識せよ』……これが、淑女の街の法律でマナーですの。おわかりに?」
「淑女足りえない人は身柄を拘束されるってことかな」
「えぇ、その通りです。貴女もこの牢獄の方々と同じというわけです」
そういって、私から見て前にある牢に淑女は視線を誘導させた。
ちょっと服装が汚れている人、活発そうな女の子、そしてぽやぽやした女性。
みんなぱっと見た様子だと淑女という個性では分類されなさそうな印象を受ける。
「ここにいる人はどうなるか聞いても?」
「ふふっ、どうなると思います?」
「……洗脳されるとか」
「まさか。そんなのは淑女として相応しくありません。わたくし方が行うのは、淑女としての心得を心に刻む。それだけのことです」
そういって指を鳴らす淑女。
それだけで無骨な印象を感じさせる牢獄はたちまち更衣室に変貌し、リボンやレースが付いた可愛らしい空間に早変わりした。
街の法は時に『魔法』のように人々に様々な恩恵をもたらすものだけど、こうも綺麗に雰囲気が変わるとやっぱりびっくりする。
「淑女としての心得って?」
「気品の溢れる方に相応しい精神性のことです」
「なるほど、勉強させてくれるんだ」
「贖罪の方法としては悪くないと思いません?」
「一理あるね。いいよ、頑張ってみる」
街の法と向き合うことで、新しい自己分析もできる。悪くない取引だ。
罪を犯したから一発アウト、みたいな感じじゃないのもなかなかに好印象。
チャレンジしたくなる、というものだ。
「ふふっ、いい返事です。では……」
一歩私の牢……もとい更衣室から離れて、淑女がこの場にいる全員に対して声をあげる。
「これより、貴女方の淑女としての心得を習得する試練の開始を宣言します!」
選手宣誓するかのようなはきはきした声が響き渡る。
「えっ、どういうことだ? あたしが淑女に?」
「あらあら、どうしましょう」
「うぅ、そんなことよりなにか食べたいぃ」
捕まっていた女の子たちは困惑している様子だ。
事情は違うけれども、みんな旅人なのかもしれない。
ざわついた声は目の前の三人から聞こえただけだった。
私含めて四人が捕まってたということになるのだろう。
「まず、淑女としての嗜みは形から入るのが大切! 皆さんの後ろにはタンスがあります! そのタンスの中の衣装に着替えてください!」
ふと、後ろを見る。レースの更衣室の中にはそれなりの空間と衣装がかけられているタンスがあり、律儀に鏡も存在している。
ここで相応しい姿になるというのが最初の試練なのかもしれない。
「淑女として、私たちは相応の衣類を身に纏うべきです。さぁ、新たな自分に生まれ変わるのです!」
まるで舞踏会の主役のように優雅に話す淑女。
そんな彼女にひとつ質問してみる。
「……衣装って、レンタル?」
ちょっと我ながらがめついと思いながら、念のために訪ねてみる。
旅人の金銭感覚というのはちょっとケチな方がいいのだ。こういうのって、淑女っぽくはないとは思うけど。
「えぇ、そうですね。気に入ったのなら購入もできます」
「しっかりしてるなぁ」
「……まさか、着替えないつもりですか?」
鋭い目で睨まれる。
まずい、こういうところで減点されるのは私としても勘弁したいところだ。
「ううん、着替えはするよ。ただ……自分で用意したいなぁと思って」
「あら、特注のものがあるんですの? でしたらこの街に入る前に着ればよかったものを……」
「魔法の力がないとうまくできなくてさ。淑女らしさのジャッチはそっちが決めていいから、そっちに着替えてもいい?」
「えぇ。かしこまりましたわ。では、しっかり着替えてくださいまし」
そういって離れていく淑女。
更衣室の牢は扉に変貌していて、今までは扉がなかったけれども、話し終えた瞬間、自動的に両面から扉が現れて閉じられた。
多分、淑女としてふさわしい恰好にならないと開かない仕組みになってるのだろう。
先ほどの宣誓のタイミングで逃げ出す人がいなかったのは、逃げても捕まることを理解していたというのも多そうだ。
「さて、と」
掌に魔力を集中させて、私の魔法辞典を形成させる。
「街の仕組みについてわかったから、ちょっとだけ相乗りさせてもらうよ」
私が扱う魔法『マギアロアの法』は街の法を知ることによって発動することができるようになる。
街の法の仕組みを模倣し、私なりに解釈を重ね、法律に寄り添う能力だ。
今回、私が扱う『マギアロアの法』は……
「『今こそ、リベラ・マギアロアの貞淑さを問う。汝、淑女に相応しき存在か? 形から入りし時、その事実は証明される』……さぁ、出てこい!」
宣言し、ページが開かれた魔法辞書から魔力を解き放つ。
その瞬間、私の目の前に淑女としての私が着ることになる衣装が全部出てきた。
「着替えないと」
普段着ている黒コートを畳み、青いロングスカートやフリルが少ないトップスを脱ぐ。
「……ん?」
出てきた服を確認した時に困惑する。
下着も出てきている。
「こ、こういうところも拘るんだ」
ささっと着替えながら確認する。
下に履くものはドロワーズ。上はフリルのついたインナー。
普段あまり付けないようなものだ。
「結構斬新……」
不思議な感覚になりながらも、衣装を着替えていく。
「フリルすっごい」
青と白を基調にしたロングドレスだ。
手の袖は長く、手のひらの付け根まで届く。
スカートはパニエによって広がっていて、ふんわりした印象を与える。
ドレスそのものが青の色、エプロンドレスは真っ白。
鏡に映った私を見てみると、美少女が立っていた。
「……いや、自分のことを美少女っていうのはアレか」
そう言いながら、淑女っぽいポーズを意識して、頬に手を添えながら笑ってみた。
ふふっと微笑む自分の姿。普段の私っぽくない、謎の淑女。
普段着でやったら、あんま似合わないんだろうなぁ……
「っと、鏡を見つめてばっかりもよくないか」
気持ちを切り替え、扉の方に振り向いた。
振り向く時に、いつも以上にスカートが揺れるのは新鮮な体験だ。
「各々準備ができたようですね」
先ほどの淑女が確認を取ったのち、更衣室の扉は開かれた。
「では、みなさん、それぞれのドレスを身に纏い、大部屋まで向かってください。……元黒コートの旅人様はわたくしが改めて確認しますので、少しお待ちを」
素直に従い、私は待機する。
少しの時間が経過したのち、淑女が更衣室に入って来た。
「なるほど、先ほどとは見違えましたね」
「まぁ、普段の服も好きなんだけどね」
「ですが、淑女としての嗜みはこれから。大部屋に向かいましょう」
「うん、わかった」
淑女に連れられて、大部屋まで移動する。
そこで、私は更なる淑女らしさを磨くことになるだろうか。期待と、ちょっとした不安が頭を過っていた。
大部屋。
先ほどの旅人たちもそこには集まっていた。
テーブルを挟んでよっつの椅子で座る私たち。
そこにいる旅人はみんなそわそわしている様子だった。
「では、まずは紅茶の嗜み方から学びましょう。淑女はいついかなる時も表情を崩さぬもの。どんな紅茶も落ち着いて飲むべきです。あっ、ここからは私は淑女長として皆様を支えますので、そのように呼ぶように」
各々のテーブルに紅茶のポットが用意されている。
中には高級そうな紅茶の葉が入っている。砂糖とかはない。
……うっ、これはなかなかの試練かも。
そっと優しく手を添えるようにポットを持ち上げ、ティーカップに紅茶を注いでいく。
「青と白の淑女さん、上手ですね」
「ありがとうございます」
私の方を見つめながら淑女……もとい、淑女長が微笑んだから間違いないだろう。
こういう時の落ち着きはちょっと得意かもしれない。
……紅茶、苦いのだったら飲むのちょっと怖いけど。
「ふむ、そこの黒と白のゴシックさん。注ぐ速度が速いですね」
「あ、あたしはこういうもたもたしたのが苦手だ! こう……ぱってやりたい!」
「淑女としての嗜みが足りてませんね。丁寧語を意識してください。外に返しませんよ?」
「あ、あたし……うぅ、落ち着いて、頑張りますので、気を付けたいです」
さっきの活発そうな子は苦戦している様子だ。
それぞれ体験している時に個性が出てくるのはなかなか面白い。
みんなが紅茶を淹れたのち、次は味わう時間が訪れた。
「ではじっくり味わってください」
淑女長がドレスを横に広げ、お辞儀をする。
そうした中、私は静かに紅茶を味わっていく。
「これは……」
に、苦い。普通の紅茶なら耐えられたと思うけど、これは苦い。
何も入れてないコーヒーくらい苦い。
砂糖がいっぱい入ってるタイプの紅茶なら好みだけど、これは個人的にミルクとかが欲しくなるタイプの味わいだ。
まずいというわけではない。歴史を感じさせるという一面では好みな部類ではある。ただ、純粋に苦さだけが辛いのだ。
「青白さん?」
「と、とても味わう深く哲学性を感じる味でございます」
「……まぁ、及第点としておきます」
多分表情に出てた気がするけれど、なんとか誤魔化すことができた。
……苦いものも、もっと満足に食べられるようにしていきたいなぁ。
「緑さんは……泣いているのですか?」
さっきの牢で少し汚れた衣装を着ていた女の子は涙を流しながら味わっていた。
「ぼ、僕、こんなにすごいものを飲んだの初めてで、嬉しくて、嬉しくて……!」
「……よく味わってくださいな。紅茶は逃げませんよ」
「う、うん!」
そんな彼女を淑女長は咎めることなく、優しく寄り添っていた。
捕まえる立場だから、印象を悪くしてしまいがちそうだけれども、悪い人ではないのかもしれない。
それぞれが紅茶を飲み終わったのち、淑女長が新しい指示を出していった。
「では、淑女体験として……舞踏会に赴きましょうか」
それは、舞踏会の淑女としての立ち振る舞いを理解することだった。
舞踏会の空間。
本場の舞踏会と違い、いるのは淑女長と捕まっていた私たち四人しかいないけれども、雰囲気が出ている。
テーブルクロスがあるテーブルには美味しそうな飲み物が置かれている。
踊り場もある。普段はもっと大きなイベントで使われるのだろうか。
「さて、淑女としての晴れ舞台についても学んでいきましょう」
「どんなことをするんですか?」
「皆さん、ふたり一組で協力してワルツ踊ってもらいます」
ざわつく会場。
淑女長はざわついている人を気にせず、二人組を指定していく。
「緑さんとゴシックさん、青白さんとゆったりさんで組みましょう」
「ゆったりさん?」
「はーい、頑張りまーすっ」
ゆったりさんと言われて手を挙げたのは私がぽやぽやした様子だと感じた女性だった。
先ほどの紅茶の時には何も言われていなかったのを考慮すると、しっかりとした淑女らしさを身に着けている人なのかもしれない。
「よろしくね、青白さん」
「よろしくお願いします、ゆったりさん」
礼儀正しくするのを意識して、そっとお辞儀をする。
ゆったりさんはふわっとした薄目のピンクのドレスを身に纏った女性で、私よりも頭一つくらい大きい。
端的に言うなら、お姉さんといった雰囲気を感じる。
「では、音楽を流しますので優雅さを意識して二人一組のワルツを踊ってみてください」
「えっ、やり方とか教えてくれないの!?」
ゴシックさんが困惑した様子で発言する。
淑女長は首を横に振って、応じた。
「踊る相手に合わせて、優しく踊りを導くのも淑女の嗜みです」
「ゴ、ゴシックさん。僕、踊りは得意じゃないけど精一杯やってみるから、一緒に頑張ろう……!」
「……そうね、できないってなぁなぁになるよりは、前向きがいいわね。よし、一緒に優雅にやってやろうじゃないの!」
覚悟を決めて二人は手を取り合う。
私もゆったりさんに手を差し伸べる。
「一緒に楽しもう」
「あら、リードしてくれるの?」
「……どっちかというと、身長的に私の方が動きが多くなりそうだけどね」
「ふふっ、それもいいんじゃないかしら。じゃあ、踊りましょう」
「お手柔らかに」
音楽が始まり、それぞれワルツを踊っていく。
緑さんとゴシックさんはたどたどしくも、それでも相手を労わるように踊る。
私たちは……ゆったりさんに手を導かれるように踊っていた。
「わ、わっ」
「しっかり、ついてきてね?」
焦りながらもしっかりとついていく。
身体をぐっと引き寄せられて一回転。
そっと身体を寄せて、話して靴音合わせ。
トン、トン、トンと踵の音が鳴ってワルツのリズムを刻まれる。
ふと、その中で私は気が付いた。
……ゆったりさんは、多分経験者だと。
「この後、お話していきません?」
「構わないけど、どこで?」
「ふふっ、釈放された先の宮殿の屋上です」
余裕を持って優雅に踊るゆったりさん。
彼女は旅人ではない。そう感じる。
「今日のみんなは真面目だし、優しいからみんな合格になるはずよ」
「貴女はいったい……」
「ゆったりさん、です」
にっこりと笑う彼女。
舞踏会に優雅なリズムが流れていく。
そんな中、私はゆったりさんに導かれてしっかりと踊っていくことができた。
「いち、に、いち、に」
「ぼ、僕、こういうの初めてで……」
「よく覚えておいた方がいいわよ。きっと、滅多に味わえない体験なんだから」
「う、うん!」
あちらの二人も仲良くなれていたみたいだ。
しばらく踊って、音楽が終わった時。淑女長は大きな拍手で私たちのワルツを褒めていた。
「……合格です。淑女らしい優しさを皆様、少しでも身に付けられたと思います。この街からの釈放を許可します」
笑顔で淑女長は続ける。
「もし、街のことを知りたいのでしたら、遠慮なく淑女としての恰好で見ていってくださいな。ようこそ、淑女の街へ」
そう、私たちは自由に身になれたのだ。
自由に動けるようになって、私はゆったりさんに呼ばれた宮殿の屋上まで足を運んでいた。
恰好はまだ青白のドレスのまま。
外の風景はすっかり暗くなっていて、そろそろ夕食時が近くなっていた。
「青白さん、待ってたわよー」
彼女は私を見つけて、のんびりとした様子で笑った。
「待たせてたかな」
「ううん、平気よ。ところで、何か質問したいこととかあるんじゃない?」
私の言葉を待っていたので、早速聞いてみた。
「ゆったりさんは、この街の住民なんですか?」
ふと気になったことを単刀直入に聞いてみた。
「えぇ、そうよ? わざと捕まって旅人さんを見つめてる淑女の街の住民」
「……どうしてわざわざ?」
「ふふっ、変化を見るのが楽しいからよ」
夜景を見つめながら、彼女が続ける。
「この街に迷い込んだ人は、どんな形であれ淑女としての経験を積むことになる。その中での表情や仕草を見たりするのが楽しいの」
「人間観察が好きってことかな」
「そうとも言うわね。今回の場合……緑ちゃんもゴシックちゃんもみんな斬新な体験をしてたからよかったと思うわー」
感慨深そうに言葉にする彼女。
……ちょっと私だけ省かれてるみたいでしゅんとする。
「……私は?」
だから、気になって尋ねてみた。
するとゆったりさんは、微笑みながら答えた。
「青白さんも面白かったわよ? あんまり飲まなそうな紅茶を一生懸命笑顔で飲んでたり、わたしに引っ張られて必死になってたり」
「指摘されると恥ずかしいかも」
普段の私とは違う淑女らしさを意識していたら、必死な感じになってたみたいだ。
改めて言われるとなかなか気恥ずかしい。
「でも、いい思い出になったんじゃないかしら」
「うん、そうかも」
慣れない環境を楽しむというのも旅の醍醐味。
こういう経験だって素敵な体験だ。
「青白さんは旅を続けるの?」
「まぁね。マイペースにこれからも続けてくつもり」
「淑女らしさを忘れないようにね」
「……あんまり私はレディーって感じじゃないかもしれないけど、優しく人と接していきたいって思ってるよ」
「それなら何より」
「じゃあ、そろそろ行くね」
「えぇ、機会があったらまた来てね」
「その時は淑女らしい恰好で行くね」
宮殿の屋上から降り、ゆったりさんに手を振る。
そして宮殿から抜け出し、そっと淑女の街を歩いていく。
「……ん?」
ふと、街を散策していた時、さっきの二人と遭遇した。
「よし! 今日はあたしが奢るから、緑さんはたっぷり食べてくれ!」
「あ、ありがとうゴシックさん」
「いいって! 嬉しい感情は分け合った方がいいからな!」
ワルツを通じて仲良くなったのだろうか。
微笑ましく会話が弾んでいた。
ふとゴシックさんが私に気が付き、手を振って来た。
「アンタもどうだ! 青白さん! 自由になった人同士、仲良くレストランに行こう!」
「こういう縁も大切だよね。付き合うよ」
「よし、決まりだ! じゃあ、行こう!」
「ゴ、ゴシックさん。テーブルマナーには気を付けてね」
「だ、大丈夫だ! ……多分。ほら、淑女らしさはきっと学んだからな!」
「わからないことがあったら、私が教えるよ。……自信はないけど、大丈夫なはず」
名前も知らない相手と愛称で呼び合う時間も、文化を知って食べる料理も、どれも私好みのものだ。
普段とは違う、ちょっと美少女チックな私が和気あいあいと食事を取るのも思い出になるだろうし、なんなら淑女体験も楽しかった。
捕まって、淑女として行動した街だったけれども、この体験も私は忘れないだろう。
夜のレストランは賑わい、その中でもどこか落ち着いた気品さを感じさせる。
自由の身になった私たちは、談笑しながら食事をする。
「色んな街を巡ってるんですね、青白さん。僕たちと出会ったのも偶然だったんだ」
「面白い偶然もあったね。ところで、次はどこに行くんだ?」
「そうだね、次に行く街は……」
会話を重ねて、見解を広げて、知らない世界を知っていく。
そんな、私の旅はこれからも続く。
「ふふっ、のんびり考えながら決めようかしら」
あえて淑女っぽい口調で微笑みながらそう言葉にしてみた。
淑女の街の穏やかな時間も、優雅に続いていく。
レストランの窓から移る月は煌々と私たちを照らしていた。




