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そうして旅人は自由に生きる~魔と法を巡る物語~  作者: 宿木ミル


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第12話【街になる店】

 流浪の旅というのはなかなか狙ったものが食べられるわけではない。

 地域ごとに食べ物の味というのは変化するものだし、同じ種類のパンを食べるとしても違った味がするというのはよくある話だ。

 そんな旅の最中、あるひとつのものが食べたいと思ったときどうなるかというと……


「久しぶりに、こってり甘いものが食べたいなぁ……」


 結構意識が持ってかれてしまう。

 ぼんやり歩く街道。

 私の頭の中に思い浮かべられるのは甘い食べ物、チョコレートにケーキにクッキー。

 旅よりも食べ物を意識してしまっている。これはまずい。


「こう……プラスで一品! みたいなのは結構食べてるからいいんだ、うん。でも……こう……主食で甘いもの! みたいなのが食べたいわけで」


 誰にも説明するわけでもなく、独り言をつぶやく。

 ちょっと不審かもしれないけれど、気持ちを整理するのは大切だろう。そう思って言葉にする。

 今、私が食べたい甘いもの。それは主食系な甘いものだ。

 パンケーキやパフェみたいな満足感が高いもの。そういうやつ。そんな感じの美味しい甘いのが食べたい。


「でもどうしようかな、このままでは精神的にお腹が満たされなさそう」


 行き先に迷ったりした時は看板を見たりすることで行く街を考えたりすることはある。

 しかし、今回の道は結構長い。街と街の間にかなりの距離があるみたいで、次の街も見当たらない。

 根本的な食事の問題については回避できる。何故なら、ある程度備蓄があるからだ。しかし、甘いものを食べたいという欲求を満たそうとなるとなかなかシビアになる。

 甘いもの、それでいて主食。そのハードルを越えられそうなものは手持ちにはないのだ。


「ちょうど朝は砂糖のパンだったけど、あれは逆効果だった気がするし……」


 せめて、甘いものを食べる。その精神で食べた砂糖のパン。それを味わってからより一層甘いものを食べたくなってるのだからどうしようもない。

 ある程度用意してある角砂糖とかを味わうのもきっと甘いものを食べたいという方向に意識が向かってしまうだろう。なかなかよろしくない状況だ。

 さて、どうする。どうしよう、リベラ。

 このままでは旅どころではなくなってしまうかもしれない。


「……いや、流石に深刻に考えすぎかな?」


 我慢ができないというわけではない。

 でも、我慢を繰り返す習慣というのはよろしくないとも思っている。

 これは街の法についても似てるだろう、と私は考えている。


 人は街の法に寄り添って生きる。その法の生き方が苦しいと思ったなら、別の街に移動することだってできる。

 自分が納得ができないルールに従い続けても、精神的な幸福には結びつきにくいだろう。

 それならいっそ、自分の発想を変えるか、生きる場所を変更するのだって有意義な生き方になるはずだ。

 そういう発想が私にはある。


 ……つまり今、何が言いたいかというと。


「旅をしてれば、きっといいことがあるはず! あると思う! だから、もう少し粘る!」


 旅はいい。旅することで新しい発見や出会いがあるということを主張したい。いや、主張しないと甘味の主食に頭が引っ張られそうだから宣言する。

 旅は、いいぞ。


「でも、そろそろ街の道標が一つくらい見つかってもいい頃合いなんだけどなぁ」


 荷物を持ち、移動する青空の道。

 上り坂になってたから、前の様子が見えない。

 しばらく歩き、坂が平面になって来た時にようやく前の景色が見えてきた。


「あれはなんだろう?」


 街があるわけではない。しかし、人が賑わっている。

 ひとつの空間に対してぐるっと円状に人が集まっていて、何かを待っている様子。


「気になるな、ちょっと行ってみよう」


 周囲の様子を確認しながらその場所に向かっていく。

 折りたたみ式の白い椅子とテーブルがいくつも設置されていて、そこには何かを食べている人がいる。

 ぐるっと巻かれた生地の中にたっぷりのクリーム。チョコレートやマシュマロが入ってるのが見えた。

 あれは、間違いない。


「クレープだ……!」


 そう、椅子に座っている人はクレープを食べていた。

 クレープ。ちょうど主食らしい感じの甘味だ。

 ホットクレープの場合はピザソースやチーズを巻いたり、ハムやレタスのようなものを挟むこともあったりするけれど、アイスクレープの場合は甘いものが多い。具体的にはチョコスプレーで綺麗に彩られたアイスが入ったクレープとか、クリームたっぷりの甘いものとかがある。

 ……凄くいいタイミングだ。私としてもとてもありがたい。


「でも、すぐに食べられるかな」


 人がいっぱいいて、クレープを作っているであろうお店が見えない。強いて見えるのは屋根のようなものくらいか。

 何を作ってるかもわからない状況だ。それでも集まっている人たちは期待の声を言葉にしながら集まっている。

 これは、私も混ざって待ってみるのが無難だろう。そう思いながら私も集合する。

 ……少しの時間が立ってのことだった。


「さて、そろそろ本日の第二幕の開演といこうじゃないか」


 黒い紳士服を着た青年が、屋根の上に華麗に跳ねて現れた。


「レディースアンドジェントルメン! もちろんおじさまにおばさまもこんにちわ。僕は流浪の魔法使いのフレンシェ。キミたちに甘味を届けようと思うのさ!」


 各々から歓声が上がる。

 流浪の魔法使い、フレンシェ。どこかで聞いたことがあるような……。


「フレンシェのクレープが食べられるなんて今日はラッキーデイだ!」

「そうだよな! どこで会えるか検討もつかなかったから、嬉しいぜ!」

「フレンシェ様が動くだけでこのいっぱいのひと……あぁ、幸せ……!」


 あぁ、そうだ、思い出した!

 私の記憶が正しければ流浪の魔法使いフレンシェは別の異名を持つ存在でもある。

 その異名は『街になる店の支配人』というもので、知る人ぞ知る有名人だ。ファンも多くいると聞く。

 彼が来ると予告し、店を用意した空間には大勢の人が集まり、賑わうことからその異名は多くの街で知られている。フレンシェに会う為に遠出する人もいるくらいだ。

 そんな存在感がある人と偶然出会えたというのは、偶然にしても嬉しい。


「リーズナブルに、それぞれが満足するクレープを作るのがボクのショータイム! というわけで……カモン!」


 彼が指を鳴らすと、それぞれの人の前にメニューがポンと突然現れた。前触れもない。魔法そのものだ。


「このメニューの中から君たちが食べたいものを考えてくれたまえ。時間制限は3分ほど。食べたいと思ったものを心に決めて待つんだ!」


 彼の言葉に従ってみんなが集中してメニューを見つめだす。

 凄い一体感だ。みんなが彼の指示に従っている。

 ……私もしっかり食べたいものを選んでおこう。

 そう思いながら、メニューを確認する。

 メニュー用紙は3枚の紙の形式になっていて、ホットクレープや常温クレープ。そしてアイスが入ったクレープのみっつに分かれている。

 印象としては彼も言っていた通り、甘味が多めだ。ホットクレープにピザソースが使われているトッピングのものはあるけれど、基本的に甘いものが多い。

 様々なクレープがある中で、私が気になったのはひとつだった。


「ゴージャス、クレープ?」


 やや値段は高めではあるものの、インパクトのある名前だ。

 ある種のシークレット商品なようで、参考になる写真なども貼られていない。

 これはなかなか面白そうだ。


「これにしてみよう」


 想いを胸に、指定された時間が来るのを待つ。

 フレンシェの宣言した3分が経過したのち、彼はニッと頬を上げて言葉にした。


「では、これより流浪の魔法使いフレンシェのとっておきの魔法を披露しましょう」


 フレンシェが右腕を高く上げる。

 その指はみっつのサインをしていた。


「スリー」


 指のカウントがひとつ減ってふたつになる。


「ツー」


 観客は緊張しながらもフレンシェを見つめる。

 指のカウントがまたひとつ減り、最後の宣言になる。


「ワン……」


 1を示す指が大きくぐるっと右腕ごと回り、彼の口元に近づけ……


「イッツデリシャス……」


 その右手を思いっきり空に広げた!


「ショウタイム!」


 パチンと音が鳴る。その瞬間だった。

 各々の人の目の前に、多種多様なクレープが空に現れていった。

 空に浮かぶクレープは様々な雰囲気を見せる。

 バナナにイチゴ、オレンジにチョコレート。

 それぞれの見ていた人が笑顔になりながらクレープを受け取っていく。


「さて、お金は味に満足ができたら、お店に置いてあるボクのシルクハットまで送ってくれ! じゃあ、ボクは小休止させてもらうよ。次の公演もお楽しみに!」


 クレープを受け取った人たちはまばらに散っていき、見えたお店の前にはシルクハットが置かれる。

 今、ようやく見えたフレンシェのお店はおしゃれな外装と車体があるのが印象的だった。人力で動かしているのだとしたら大変だ。


「……あっ、私も受け取らないと」


 ずっと浮かせっぱなしにするのもよくないだろう。

 そう思いながらゴージャスクレープを受け取る。


「これ、思った以上に凄いやつかも……!」


 そしてその内容に驚愕する。

 クレープ生地はもちもちしてそうなものが使われている。これは普通っぽい。

 しかし、内容がかなりインパクトを感じる。


「チョコレートアイスにマシュマロ……ティラミスに、バナナとイチゴ……!?」


 さらによく見るとちょっとした大きさのパンケーキも挟まっている。

 圧倒的なボリューム感。これがゴージャス。


「これは想像以上、満足感も高そう……!」


 いただきます。

 そう小さく呟いて、そのクレープを味わう。


「凄い甘さ……!」


 チョコレートアイスの味わいは濃厚なものだ。やや苦い印象があるが甘さが強め。そこにパンケーキの味わいが加わり、冷たさとしっかりとした食感が伝わってくる。

 クレープの生地の味わいもいい。もちもちした感触がティラミスと絶妙な組み合わせを示す。ケーキの味わいにもちっとした感覚が加わって飽きが来ない。

 とどめはバナナとイチゴ。イチゴの味わいは甘さよりも酸っぱさが来るタイプだ。それと素直な味わいのバナナが合わさり、味に彩りが生まれる。

 まさしく、ゴージャスな味わい。

 それを感じる食感だった。


「うん、お金を払わないっていう選択があり得ないね」


 甘味を求めていた私が満足するくらいの味だ。

 凄いよかった。

 それぞれ味わっていたお客さんも同様のことを考えていたみたいで、みんなしっかりとお金をシルクハットに入れていった。


「それにしても凄いかも」


 クレープの味も凄いけれど、それと同時にみんなが規則正しいのが凄い。

 味か気に入らないならお金を払わないという選択もできる中、しっかりとお金を払っている。ズルする人がいない。

 クレープを作るまでの時間も、暴動が起こるわけでもなくみんな待っていた。

 規則、ルールに従っている姿は街の在り方によく似ていた。


「次の公演までには時間がありそうかな」


 お昼時は作る回数を増やしていたみたいだけれども、お昼過ぎは回数を減らしているみたいだ。

 それなら、直接フレンシェに話を聞くこともできるだろう。


「……よしっ」


 思い立ったが吉日というやつだ。

 フレンシェを探して、少し歩き回ってみる。

 彼はそこまで離れていないところにいた。


「よっと、サインはこんな感じでいいかい?」

「はい、ありがとうございます! 家宝にします!」


 笑顔で去っていく女の子に手を振るフレンシェ。

 彼女が離れていったのち、私の方に視線が向いていた。


「おっと君はゴージャスを頼んだ人」

「わかるんだ?」

「そりゃそうさ。アレ、結構勇気が必要なメニューだから頼む人少ないし、今日は君ひとりだった」

「印象的だったなら嬉しいかも」


 偶然だとしても、こういうのはなかなかいい縁だと思う。

 そう思いながらゆったりと話していく。


「名前は?」

「リベラ・マギアロア。そうだね……流浪の魔法少女みたいな旅人」

「なるほど、似た者同士かな?」

「ある意味でそうなのかもね」


 フレンシェが大きな木を背中にしながら興味深そうに私を見つめる。


「魔法少女っていうなら、魔法が使えるのかい?」

「厳密には魔法というより魔の法律……街の法の力なんだけどね」

「なるほど、魔の法律の少女で魔法少女。なかなかいい趣味じゃないか」

「でしょ? 結構気に入ってる名乗りなんだ」


 そこまで言って私からも質問する。


「そっちの『魔法』はどんな方式?」

「人の望みを叶えるいたってシンプルな魔法さ。法律の力とは関係ない」


 つまり、私の友人の本家本元の魔法少女のステラが扱うそれに近い形か。

 想いを具現化する魔法。魔の法ではない、不思議な力。


「つまり、法でルールを定めてるわけじゃないんだ……」

「そうだね。みんなはボクのことを『街になる店の支配人』と呼ぶけれど、その『街』を創り上げているのは見守ってくれるみんなのお陰さ」


 空を見つめて、フレンシェが続ける。


「ボクは魔法とクレープの力を使ってみんなを笑顔にしたい。その為に尽力してるだけさ」

「いろんな場所でお店を開いているのは、多くの人に会いたいから?」

「そうだね。世界中の人を笑顔にするなら、ボク自身の活動範囲を増やさないといけない。だからこそ、色んな場所でお店を開いてるんだ」

「出会う人は、みんないい人だった?」

「全てが全て全員が凄くいい人かと言われたらわからないよ。でも……」


 頬を緩ませ優しい表情になる彼。

 その姿に後悔はない。


「ボクが盛り上げようしたときに乗っかってくれる人がたくさんいたから、どれも楽しい思い出になってる。街のように賑わっている時だって、地域ごとに違う景色が見れて楽しいからね」

「なるほどね」


 そこまで聞いて、ひとつの結論にたどり着く。


「真摯に向き合う人には、しっかり素敵な風景が見えるのかも」

「どういうことかい?」

「街も、その法律も人と一緒にあるってこと。『街になる店』っていう空間の法……ルールやマナーがしっかりしてるのは、きっとフレンシェが真面目だからだと思うんだ」

「……なら、もっと頑張りたいな。これかも笑顔の為に」

「きっとうまく行くよ、この先も。フレンシェの『旅』だって素敵に続いていく」


 街の在り方、人の在り方。

 法は人の心を有意義にするもの。きっと魔法だってそうだ。幸せを運ぶためにあるはず。

 だからこそ、彼のこれからの出会いも素敵なものになる。そう確信した。

 休憩時間、フレンシェの顔に笑顔があふれた。







 フレンシェが再びクレープを作り出したお昼過ぎ。

 私は新しい街まで歩いていった。

 後ろをふと振り返ってみると、場を盛り上げるフレンシェと期待に目を輝かせる観客の姿があった。


「きっと『街になる店』はこれからも、色んな姿を見せていくんだろうな」


 地域によって『街』の景色が変わって、感じることも変わっていく。

 フレンシェも私と同じように旅をしているのだ。


 ……私も私なりに、これかも人の心に寄り添っていきたいな。

 法のことを考えて、悩みに手を差し伸べられるように。


「次は、どんな街に行けるのかな」


 旅は心を豊かにする。

 綺麗な透き通った青空は、どこまでも続いていた。

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