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そうして旅人は自由に生きる~魔と法を巡る物語~  作者: 宿木ミル


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第10話【気分で浮き沈みする街】

 突然、空から街が落ちてきた。

 そう言ったら信じてもらえるだろうか。

 少なくとも、私は突拍子もない話だと思うだろう。実際に目にするまでは。


「このあたりに落下していたような」


 しかし、私の目に移った光景は確かに存在していた。大きな街が、空から地上に向けて落下したのだ。

 その光景は、私がひとりでのんびり旅をしていた時にはっきり見えたくらいには鮮明だった。

 街の規模はある程度大きいが、中程度の街と言っていいだろう。それなりに離れた位置からでも見えたくらいだ。大都市レベルにはいかなくても、それなりの大きさがあるのは予想できる。

 今の私は街が降下したであろう場所に足を運び、どのあたりにその街があるかを確認しているのだ。


「街、粉々になってなければいいけど……」


 静かに考える。

 高いところから落ちるということは、その分衝撃が走るというもの。下手すれば倒壊だってありえるだろう。


「でも、あの落下速度なら壊れないのかな」


 ただ、見ている分には落下しているような印象は感じなかった。何故なら、落下速度は控え目でむしろ緩やかに降下しているという落ち方をしていたからだ。

 私がある程度追跡できたのも、落ちていく速度がのんびりしていたというのも大きい。


「結構移動したけど、そろそろ見つかるかな」


 流石に歩いて遠くの景色を追いかけるのもしんどいと思ったので、魔法の力を使い少し空を飛んで確認しながら確認作業を行っていた。

 空から地面を確認しながらの移動。

 気が付いたころには、渓谷の間に私は移動していたみたいだ。


「まるで狙ったかのように周りに何もないところに降下してるのかな」


 周囲に人の気配はない。

 それどころか、街や道すらない。地面はある程度平地になっているものの、岩がゴロゴロしていて生活感はいっさいない。

 崖と崖の間のはかなり離れていて、渓谷とは表現したものの、立地面積には余裕がある。それこそ、街がひとつすっぽり入ってしまうくらいには広い。

 ただ、周りの景色は谷の壁で見えない。

 しばらく飛んで移動していく。

 お昼のパンを食べながらゆったりと移動していた時、眼前にレンガでできた壁と鉄製の門が見えてきた。


「あれだ……!」


 空から落ちてきた街と一致している。

 レンガで囲まれていて、扉がある。

 そんな不思議なものが落下していたこと。

 落ちてきた、街。

 私は早速、街の門まで移動して状況を確認する。

 門は閉まっていて、外からの干渉はなにもしないと受け付けなさそうだ。

 ……来たのはいいけど、ここからどうしようか。

 門の前で少し悩んでいた時、門が開き、その中から門番が出てきた。


「こんな辺境の場所まで珍しい。狙って足を運んできてくれたのかい?」


 爽やかな印象を感じる青年の門番が私に声を掛ける。

 すっきりした態度は、どこか快適さを感じる。


「そんな感じ。興味があったから来てみたってところが大きいかな。街が落ちてたから気になって」

「あはは、まぁ興味が持つのはいいことだと思うよ。好奇心は大切だ」


 朗らかに笑う青年。

 私みたいにやってくる人は珍しいのだろうか。


「ところで、門が開いたのにはどういう理由が?」

「旅人さんが立ち往生していたから、せっかくだし門を開けて、案内してあげようと思って」

「それはありがたいかも」

「街の性質上、なかなか旅人さんと会う機会も少ないからね。街も元気になると思うよ」

「街が元気になる?」

「そのままの意味さ。さぁ、行こうか」


 街が元気になるがそのままの意味。

 一体どういうことなのだろうか。

 一般的には街が活気づくとかそんなイメージだけれども、彼の言い方的にちょっと別の意味合いを感じる。

 気になりながらも、私は街の中まで移動していく。


「おっと、何かあった時に怖いからまた門は閉じておこう」


 パチンと音を鳴らして、門が自動的に閉まっていく。

 街の仕組み的なものだろう。ちょっとした法の力の応用だ。


「僕はポルテって言うんだ。よろしく」

「私はリベラ。リベラ・マギアロア。旅の魔法少女的な存在かな」

「魔法少女的なってどういうことかい?」

「魔の法律の力が扱えるから、魔法少女ってこと」

「なるほど、駄洒落だね」

「……まぁ、そういうことかも」


 移動しながら、街の風景を観察していく。

 街そのものはのどかな印象を感じる。

 レンガで囲われているのも相まって城下町らしい雰囲気ではあるものの、街としての生活は自給自足ができていると感じる。

 街の色んなところに農業が存在していて、農家もある。

 空に浮かんでいる性質もあるからだろうか。食料生産を行う畑のようなものがやや多いようにも思える。


「魔の法律の力って?」

「端的に言えば、街の法律と向き合ったりできる力かな」

「へぇ、なんだか街の仕組みを変えられそうだな」

「そういうのは滅多にしないよ。私は街のありのままの生活を見るのが好きだから」


 ポルテの言葉に私は首を横に振る。

 たしかにやろうと思えば、街の法律に深く介入することはできるかもしれない。でも、それはよっぽどのことがない限りするつもりはない。

 街それぞれの文化を変えてしまうような真似はしたくないのだ。

 私の言葉に対して、ポルテは少し考え込む。


「法についての力を持ってるなら、街の法律についてもある程度は熟知しているのかい?」

「向き合い方については考えることが多いかな。ただ、初めて行く街の場合は知らないことが多いよ。だから、この街の法律も知らない」

「なるほど、そうなのか……」


 そこまで聞いて、ポルテは閃いたかのように顔をはっと上げて、私にお願いしてきた。


「なら、僕に協力してほしい」


 熱心な眼を向けるポルテ。それと同時に少しだけ悩みを打ち明けているような印象も感じた。


「問題ないよ。でも、協力って何をすればいい?」


 旅人で、部外者の立場ではあるものの困ってる人は助けていきたい。そう思った私は彼に協力することを決めた。

 私の質問に対して、ポルテは空を見上げながら言葉にする。


「この『気分で浮き沈みする街』をまた浮かせてほしいんだ」


 それは、落下した街を浮かせるという傍からすると突拍子もない話であった。







 『気持ちで浮き沈みする街』というのがこの街の名前らしい。とはいえ、住民の気持ちで沈んだりするわけではないようだ。


「この街の高度は街そのものの気分によって変わるんだ」

「街の気分って、まるで生きているみたい」

「そう、生きてるんだこの街自体がな」

「比喩表現じゃないのが凄いね……」


 街が生きている。それは紛れもない事実なようだ。

 街の高度が変わる部分はシステムっぽい感じがあるけれども、感情……気分によって浮き沈みするんだったら、それは人間的だと言えるだろう。

 私の目の前に子供がふたり通り過ぎ、笑顔ではしゃいで通り過ぎる。


「子供は無邪気に地上に降りたことを珍しく思ったりする。それはいいことだとは思うんだけど、大人の立場になるとそうは言ってられない」

「高所でないと困る仕組みとかあるのかな。風車みたいなの」

「そうだね。長期地上に滞在してしまうとエネルギー問題に引っかかってしまう。ほら、あれを見てくれ」


 そう言ってポルテが指を指した先には風がなくて止まっている風車がいくつもあった。

 風車の大きさは大規模で、量は多め。周囲のレンガの壁を大きく超えた先で首を伸ばしているものの、今は動いていない。


「街のテクノロジーはかなり進んでいる。機械も動かせるだろう。……まぁ、風力の力があればね」

「浮いてると一定の風力は担保できるんだ」

「あぁ、普段は風が強めだから心配ない。ただ、こうやって地面にぺたりとくっついてしまうと備蓄したエネルギーで何とかしないといけなくなるのさ」

「なるほど、解決したくなるわけだね」


 街の仕組みの停滞は暮らしの不安定化にも繋がるだろう。そうなると、無邪気にはしゃいでいた子供の笑顔もどんどんなくなってしまう。

 しっかりと解決していきたい。


「でも、どうやって解決すればいいのかな。正直方法が思い浮かばないけど……」


 生きている街を浮かせる方法。気持ちで浮き沈みするということは、今はどんよりした気分なのだろうか。

 そうなると……


「……街そのものを、喜ばせるとか?」


 こういう手段になるのだろうか。

 首を傾けながら問いかけてみたら、ポルテは笑顔で頷いた。


「察しがいいじゃないか。さぁ、街の中心部に行こう」

「え、それで合ってたんだ!?」


 少しびっくりしながら私は彼の案内に従って、街の中心部に繋がる地下まで移動することにした。

 街の道路の地下へ繋がる道を使い、地下道路に。そして地下道路にある、関係者以外基本立ち入り禁止の看板が掛けられた場所まで到達する。看板は鍵付きの扉に掛けられているので、中の様子はわからない。


「僕は門番なんだけど、街のメンテナンスを時々任される立場なんだ。だから入れる」

「なるほど、責任を感じる立場でもあるね」

「そう、だから気持ちが沈んでる原因を突き止める立場でもあるのさ」


 ポルテが鍵を開けて、私を街の中心部まで連れていく。

 少し暗い、光が少ない中心部。神秘的な印象をどこか感じさせる。

 その中心部には、不透明な精霊のような存在が待っていた。姿はくっきりと見えないし表情は見えない。容姿だけで言うなら、青いマネキンといった感じだろうか。どこか女性らしい佇まいをしているものの、どこか落ち込んでいるような印象を感じられた。


「来たよ、ヴィル」

「ポルテ、来てくれたの……? 嬉しいけど、そんなに私元気じゃないんだ……」


 女性の透き通った声が聞こえる。しかし、その声色は暗い。

 気分が沈んでいることがわかる。


「貴女は?」


 彼女の視線が私の方を向く。

 見ない顔だからか、興味深そうに顔がじっと見つめてくる。


「僕が案内した旅人さ。名前は……」

「リベラ。リベラ・マギアロアだよ。よろしくね、ヴィル」

「うん、よろしく……今はあんまりなにもしたくない気持ちだけど……」


 そういってぐったりとうなだれるヴィル。よっぽど沈んだ気持ちは深刻なのだろう。

 無気力、といってもいいのかもしれない。


「体調は? なにか不備があるとかかい?」

「ううん、不備はないよ。街の仕組みには支障はない。でもね……なんだか元気が出ないんだ。街を今すぐ浮かべるのは今の気分だとできないかも……」

「そうか……じゃあ、してほしいことはあるかい?」

「うーん……掃除、かな」

「掃除?」

「うん。この部屋を久しぶりに綺麗にしてほしいの」


 パチンとヴィルが音を鳴らすと、埃がそこそこある空間が露わになった。

 それと同時に、生活感がある部屋であることに気が付いた。

 部屋の隅には本棚があって、その中には漫画や小説がいくつもある。

 別の隅にはスケッチブックと机が存在していて、書きかけの絵が置かれていた。

 箒などの掃除道具はあるものの、掃除そのものをしているわけではないのか、少し汚れた印象を感じさせる。


「それくらいならお安い御用さ」

「私も手伝うよ。ふたりでやるとぱぱって済むはずだから」

「うん……ありがとう。ごめんね、今、動く気力もなくて……」

「気にしないで、そういう日もあるよ」

「そうそう。ヴィルは休んでいてくれ」


 ふたりで掃除を行っていく。

 隅の埃を払い、本棚を綺麗にしていき、床の埃を一か所に集めていく。

 ふと、掃除最中に机の上の書きかけの絵が目に映った。

 そこでは、賑やかな街の姿が描かれようとしていた。

 街の笑う少年少女。見守る大人。そこまで書かれて途中から絵が中断されている。

 ……なにか、思うことがあったのだろうか。

 掃除が終わったら何か聞くことができるかもしれない。そう思いながら私は掃除を終わらせていった。





「よし、これでひと段落だ」


 部屋のゴミをひとつの袋に纏めたポルテが掃除の終わりを宣言する。

 ヴィルは少しだけ嬉しそうに、小さく拍手していた。


「ありがとう、ふたりとも。ほんの少しだけだけど気持ちが明るくなったかも」

「少しでも明るくなるきっかけになったならよかった」


 もしかしたら、掃除は気持ちを逸らす為に提案していたのかもしれない。

 考えたくないことがあったから、そのことを忘れる為に、動いている姿を見たかったとか。

 ……では、彼女が見たくない現実とはどんなものだろうか。


「……はぁ」


 小さくため息を付くヴィル。気持ちが晴れないというのが伝わってくる。


「なにか、僕に相談できることはないかい。力になれるなら、なりたいんだ」

「ポルテのその気持ちは嬉しい。嬉しいよ? いつも励ましてくれて、気持ちを明るくしてくれるのは感謝してる。でも……今回の悩みは、ちょっと違うの……」


 スケッチブックの方に一瞬だけ目が向き、そしてまた視線を落とす。

 ……やっぱり、関係がある。スケッチブックに記されている絵と感情が結びついている。

 ポルテは言葉に詰まって、話せなくなってしまっていた。それなら、私が問いかけるべきだろう。


「……絵の内容と、悩みは関係してる?」

「見てたの?」

「うん、綺麗な絵だったけど……どこか寂しそうにも思えた」


 絵のタッチは丁寧そのもの。少なくとも私は上手だと断言できる。

 しかし、新しく書きたそうとした時の線がやや震えているように見えたり、精神的に落ち込んでいるような印象も感じられた。

 だからこそ、気になって聞いてみた。

 私の問いかけに対して、ヴィルは視線を落として、静かに言葉にした。


「寂しそうっていうのは、正解。寂しくて、辛くて、気持ちが落ちちゃった……」

「それってどういう……」

「わたし……街としてじゃなくて、ひとりの個人としてみんなに触れあってみたいんだ……」


 ヴィルは切々と語る。

 自分の抱えていた気持ちを。


「街の状況については、この場所からわかるんだ。流石にプライベートなおうちの中は覗かないけど、街全体の営みは知ってる。知ってるの。明るい子供たち、元気に商売する人、鳥や猫の鳴き声。色んな素敵な光景が見えるんだ」

「ずっと、我慢していたのか……?」

「私は街だから、交わることができない。そう言い聞かせて、何回も堪えてきた。でもね、絵を描いた時に感じちゃったんだ。私もこの街の一員になれたらどれだけいいかって、限られた人以外と話せたらどれだけ幸せかって」

「でも、君は普通の人とは違う時間を過ごしている! ……普通の生き方をすると、辛くなってしまうこともあるだろう!」

「それでも、わたし、話したい! みんなと話してみたいの! ここでみんなを見守るだけなんて、もう耐えられない……!」

「……辛い思いはわかる。でも、僕にはどうにもできないんだ。街の法を変えることはできないから」

「ごめん、ごめんね、ポルテ……わがままでごめん……」


 ふたりの会話は少しずつ熱を帯び、その熱は静かに冷めていく。

 できないことに阻まれている。

 我儘だと思っても街の人と直接関係を取りたいヴィル。

 寄り添って痛みを取り除きたいポルテ。

 二人とも悩んで、悩んで行き詰っている。

 この状況を変える手段。

 それは、確かに存在はしている。


 ……私が街の法律を再定義すればいい。


 でも、それはこれまでの街の在り方を変える行為でもある。

 本当に行っていいのか?

 それだけは確認しないといけない。


「もしも自由に外を歩けるようにできる手段があるといったら、どうする?」

「わたしは、みんなと触れ合いたい。だから、変わりたい」

「それが、街の法の形を変えることになったとしても?」

「……それって」

「私は魔の法律の力を使う旅人。街の法律を再定義を行える存在なんだ。きっと、ある程度の願いは叶えてあげられる」

「私を街の中で自由に動けるようにすることもできるの……?」

「できるよ。でも、きっとそれには法律の変更が必要になる。……ポルテ、今の街の法律は言える?」


 私の問いかけに対して、ポルテが静かに答える。


「『街は心臓として支える感情を強く持たねばならない。そのことを守らず、明るい気持ちを持ち続けなければ街は沈み、やがて機能は停止するだろう』これはヴィルが街の心臓として存在しているということを示す言葉でもある」

「心臓は動けない。中央から離れたら、街が破滅を迎えてしまう……」

「だから、ヴィルは動けなかった。動きたくても動けず、明るい気持ちでい続けることを求められた」


 そう言葉にするポルテの表情は苦虫を嚙み潰したようだった。

 どうにもならない現実を受け入れるしかない、と言いたい顔。

 そして沈むヴィルの表情。どちらも、変える手段はひとつ。


「二人は、街の仕組みが変わってしまうことに対して責任を取れる?」

「それってどういう……」

「ヴィルの願いを叶える為に、街全てを支える覚悟はあるかってこと」

「もしかして、心臓の部分をみんなに変えるの……?」


 彼女の問いかけに、私は静かに頷く。


「そう、ヴィルひとりに背負わせていた街の仕組みを再定義する。ひとりの感情ではなく、街のみんなの感情で街を支える仕組みにすることでヴィルが自由に動けるようにする」

「……僕は」


 静かに頷き、覚悟を決めるポルテ。

 その表情に迷いはない。


「ヴィルを幸せにして、街のみんなを支えて、助けていきたい。傍観者にはならないよ」

「わたしも、街を支えるひとりとして頑張るよ。みんなで、沈まないように明るい街にしていく」

「……そっか、わかった」


 ふたりの覚悟を受け止めて、私は魔法辞典を開く。

 強く影響を与える魔の法律の力だ。私も、私なりに決心し発動する。


「我、リベラ・マギアロアの名を持って法の再定義を行う。『街の皆は心臓として支える感情を強く持たねばならない。そのことを守らず、明るい気持ちを持ち続けなければ街は沈み、やがて機能は停止するだろう』」


 新たな法を提示した瞬間、街に大きな変化が訪れる。

 沈んでいた街が浮かび上がっていき、少しずつ浮上していったのだ。

 ヴィルひとりに背負わせていた重荷が解かれていく。

 そして、ヴィル本人にも変化があった。


「あれ、わ、わたし……?」


 精霊のような青いシルエットから、ひとりの青髪の少女の姿へと変化していく。

 清楚で落ち着いた、ふわっとした雰囲気の少女。それが今のヴィルだ。


「や、やったよ、ポルテ! わたし、同じような身体になれた!」


 ぎゅっとポルテに抱き着くヴィル。


「わ、わっ、抱き着くなって」

「どうして? こんなに嬉しいのに!」

「……恥ずかしいだろ」

「ふふっ」


 嬉しそうなふたりの姿。

 それは先ほどまでの暗い雰囲気とは違う。

 新しい街の旅立ちを感じさせるものになっていた。






「もう、行っちゃうのか?」

「もっと話したかったのに……」


 街の仕組みを変えたのち、私は新しい旅に出ることを考えていた。

 私の見送りにはポルテとヴィルのふたりが待っていた。


「これ以上関わったら過干渉になっちゃいそうだからね。あとはふたりが支えてくれるって信じてる」


 私の立場はあくまでも旅人で部外者だ。

 街の変化については、あとはその住民に任せるべきだろう。

 そう思い、すぐに移動することを決めていたのだ。


「ふたりだけじゃないよ」

「そうだな、みんなで支えていくんだ」

「それもそうだね」


 高度がどんどん上がっていく街。

 仕組みが変わったとしても、きっとうまく対応していけるだろう。

 私は、そう信じている。


「ヴィル、これからも長く長く街を見守ることになると思うけど、みんなの支えになってほしいな」

「うん」

「それからポルテ。新しい仕組みを導いてあげて」

「あぁ、僕たちの我儘を貫いた責任は果たそう」

「よし、それなら大丈夫そう」


 飛行ができる人向けの出入り口まで案内してもらい、そこで別れを告げる。


「ふたりとも、元気で!」

「ありがとう、リベラ! 頑張るから!」

「きっとこれからもいい街にしていくよ!」


 空を飛び、街から抜け出す。

 姿勢制御をしていき、上空を見つめる。

 そこには浮上していく街の姿がある。

 ゆっくりと、まっすぐ、大空を浮く街。


『気持ちで浮き沈みする街』


「安定した飛行ができますように」


 生きている限り、沈むことも喜びで気持ちが浮かぶこともあるだろう。

 その度に街の景色は変わっていくだろうけれど、きっとみんなで支え合えるなら大丈夫なはずだ。

 小さく祈り、私は街から離れていく。


「よし、次はどこにいこうか」


 大空快晴。

 綺麗な青空は、自由な旅路を導いてくれているように思えた。

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